2007年09月
トヨタ新型燃料電池ハイブリッド車と水素ガスについて
2007年9月29日 読売新聞にトヨタが新型燃料電池ハイブリッド車(FCHV)が東京−大阪間を燃料無補給で完走したというニュースが報道されている。概要は以下のとおりである。
「水素で走る燃料電池ハイブリッド(FCHV)車の新型車を公開した。同日に大阪―東京間約560キロ・メートルの公道試験を行い、途中で燃料を補給せずに初めて完走した。FCHV車は、SUV(スポーツ用多目的車)の「クルーガー」をベース車両にして、燃料電池やモーターを組み込んでいる。今回は、従来より水素タンクの圧縮率を高めて約2倍の水素を積み、燃料電池の性能も向上させた。1回の水素充てんで走ることができる距離は、通常走行に近い10・15モードで従来の330キロ・メートルから780キロ・メートルに伸びた。 公道試験は、2台のFCHV車が、28日午前5時過ぎに大阪府庁舎前を出発し、主に高速道路を走って午後2時ごろに東京都江東区のトヨタショールーム「メガウェブ」に到着した。2台とも減速時に運動エネルギーを電力として回収する回生ブレーキを積んだハイブリッド仕様のため、燃料は約7割しか使っていなかった。記者会見した増田義彦常務役員は「全部使い切ると約880キロ・メートル走れた計算になる。予想以上の結果」と驚いていた。」
タンクの重量、容積など記載されていなので早急に調べるであるが、ハイブリッド車ということは少なくともガス欠の心配はなく安心感はあるが、バッテリー車とハイブリッド車にコスト面で追いつくことは容易でない。燃料電池の電極、貴金属触媒など新規技術も公表してほしい。
当ブログでも9月28日に「「水素エネルギー読本」を読んで」という見出しで「水素エネルギー協会編:水素エネルギー読本、平成19年、オーム社」を紹介したが、特に、
現時点では「水素をどのように取得するのかが最大のテーマである」のに、それに関する何か新しい発想が書かれていない。同書によると、資源エネルギー庁長官の私的研究会の「燃料電池実用化戦略研究会」が2004年に燃料電池導入シナリオを示している。それによると、2030年の燃料電池車の普及台数は1500万台、水素需要が170億m^3、ステーション数が約8500ヶ所を掲げている。水素需要は化石燃料起源が担う。漸次再生可能エネルギー起源水素にシフトするとされている。再生可能エネルギーによる水素として相変わらず太陽エネルギーと生物学的水素製造が書かれているが誰もそれの定量的評価をまじめに行ってはいない。
水素エネルギー読本
「水素で走る燃料電池ハイブリッド(FCHV)車の新型車を公開した。同日に大阪―東京間約560キロ・メートルの公道試験を行い、途中で燃料を補給せずに初めて完走した。FCHV車は、SUV(スポーツ用多目的車)の「クルーガー」をベース車両にして、燃料電池やモーターを組み込んでいる。今回は、従来より水素タンクの圧縮率を高めて約2倍の水素を積み、燃料電池の性能も向上させた。1回の水素充てんで走ることができる距離は、通常走行に近い10・15モードで従来の330キロ・メートルから780キロ・メートルに伸びた。 公道試験は、2台のFCHV車が、28日午前5時過ぎに大阪府庁舎前を出発し、主に高速道路を走って午後2時ごろに東京都江東区のトヨタショールーム「メガウェブ」に到着した。2台とも減速時に運動エネルギーを電力として回収する回生ブレーキを積んだハイブリッド仕様のため、燃料は約7割しか使っていなかった。記者会見した増田義彦常務役員は「全部使い切ると約880キロ・メートル走れた計算になる。予想以上の結果」と驚いていた。」
タンクの重量、容積など記載されていなので早急に調べるであるが、ハイブリッド車ということは少なくともガス欠の心配はなく安心感はあるが、バッテリー車とハイブリッド車にコスト面で追いつくことは容易でない。燃料電池の電極、貴金属触媒など新規技術も公表してほしい。
当ブログでも9月28日に「「水素エネルギー読本」を読んで」という見出しで「水素エネルギー協会編:水素エネルギー読本、平成19年、オーム社」を紹介したが、特に、
現時点では「水素をどのように取得するのかが最大のテーマである」のに、それに関する何か新しい発想が書かれていない。同書によると、資源エネルギー庁長官の私的研究会の「燃料電池実用化戦略研究会」が2004年に燃料電池導入シナリオを示している。それによると、2030年の燃料電池車の普及台数は1500万台、水素需要が170億m^3、ステーション数が約8500ヶ所を掲げている。水素需要は化石燃料起源が担う。漸次再生可能エネルギー起源水素にシフトするとされている。再生可能エネルギーによる水素として相変わらず太陽エネルギーと生物学的水素製造が書かれているが誰もそれの定量的評価をまじめに行ってはいない。
水素エネルギー読本
量子デバイス、スピンエレクトロニクの時代
「石川正道編著:ナノテク&ビジネス入門、オーム社、平成14年」の著者である石川正道氏、亀井信一氏は、毛利衛さんが1992年にスペースシャトルで宇宙材料実験を行ったときに、マイクログラビティ応用学会を設立したりして、いろいろなかたちで
宇宙飛行士:毛利さんを応援してきた仲間であり、当時のことが懐かしく思い出される。あれから、20年近く経ち、彼らも三菱総合研究所という日本のトップレベルのシンクタンクで先端科学分野に精力的に取り組んでいる。
本書の「3章ナノエレクトロニクス」の解説も、他の専門書と比較して非常に分かりやすい。物事の事象を真に理解していなければ表現できないようなことも見事に説明している。われわれの日常生活で携帯電話をはじめパソコン、テレビなどの情報機器は、半導体デバイスの小型化、高集積化の技術の進歩がなければ、これほどまでに便利な機能は得られなかった。記憶デバイス(D-RAM)のパターンの線の間隔は2001年には平均120nmくらいとすると、2016年には20nmくらいになるだろうと予想されている(米国半導体工業会:ITRS)。集積回路の単位面積当たりのトランジスタ数は2年で倍になるというムーアの法則がよく知られている。1nmというのは1ミリメートルの100万分の1であり、20nmというのがいかに細い線であるかは想像するのも難しい。細い髪の毛が20ミクロンとするとその1000分の1ということである。このくらい細くなると、電気の流れ(電子の流れ)も電子の1個の挙動を問題にする。電子が固体中を自由に動けなくなる。特定のエネルギーを持った電子だけが動き回る。それを制御したデバイスを量子デバイスという。電子はそれぞれ自転している。電子一つひとつを制御するということはスピンも制御できるということになる。電子の電荷の有無という情報に加えてスピンも情報として扱うことができる。スピンというのは地球の磁場のごく電子の周りに磁場を生ずる。すなわち、電磁波である光との相互作用も使えるとなると電子デバイスは画期的に進歩する。スピンエレクトロニクスが注目されている理由が分かるような気がする。
ナノテク&ビジネス入門
宇宙飛行士:毛利さんを応援してきた仲間であり、当時のことが懐かしく思い出される。あれから、20年近く経ち、彼らも三菱総合研究所という日本のトップレベルのシンクタンクで先端科学分野に精力的に取り組んでいる。
本書の「3章ナノエレクトロニクス」の解説も、他の専門書と比較して非常に分かりやすい。物事の事象を真に理解していなければ表現できないようなことも見事に説明している。われわれの日常生活で携帯電話をはじめパソコン、テレビなどの情報機器は、半導体デバイスの小型化、高集積化の技術の進歩がなければ、これほどまでに便利な機能は得られなかった。記憶デバイス(D-RAM)のパターンの線の間隔は2001年には平均120nmくらいとすると、2016年には20nmくらいになるだろうと予想されている(米国半導体工業会:ITRS)。集積回路の単位面積当たりのトランジスタ数は2年で倍になるというムーアの法則がよく知られている。1nmというのは1ミリメートルの100万分の1であり、20nmというのがいかに細い線であるかは想像するのも難しい。細い髪の毛が20ミクロンとするとその1000分の1ということである。このくらい細くなると、電気の流れ(電子の流れ)も電子の1個の挙動を問題にする。電子が固体中を自由に動けなくなる。特定のエネルギーを持った電子だけが動き回る。それを制御したデバイスを量子デバイスという。電子はそれぞれ自転している。電子一つひとつを制御するということはスピンも制御できるということになる。電子の電荷の有無という情報に加えてスピンも情報として扱うことができる。スピンというのは地球の磁場のごく電子の周りに磁場を生ずる。すなわち、電磁波である光との相互作用も使えるとなると電子デバイスは画期的に進歩する。スピンエレクトロニクスが注目されている理由が分かるような気がする。
ナノテク&ビジネス入門
「水素エネルギー読本」を読んで
「水素エネルギー協会編:水素エネルギー読本、平成19年、オーム社」は現在、日本の学会、実業界の第一線で活躍している14人の執筆者が共同で執筆した著書であり、期待して読んでみた。当ブログでも環境問題の鍵は水素であるという認識でいくつかの著書を紹介してきた。例えば、2007年6月8日には「Joseph J. Romm著、本間琢也、西村晃尚訳:水素は石油に代われるか?、オーム社、平成17年」を、2005年10月7日にJeremy Rifkin著柴田裕之訳:水素エコノミー、エネルギーウエブの時代、2003年を紹介してきたが。前者では環境問題、後者では政治問題も含めた水素社会を論じたものであり示唆に富む著書であった。
特に、現代社会において、水素をどのように取得するのかが最大のテーマであり、永遠のテーマでもある。それに関する何か新しい発想を期待した。
「まえがき」を執筆した太田健一郎氏が、「水素は天然に存在しないので、水や地上の炭化水素から作り出さなければならない」ということが冒頭か述べている。そして2章の「水素を何からどのようにして作るか」で書かれていることは
1.水蒸気改質、2.部分酸化反応、3.自己熱改質反応、4.CO変成反応、5.石炭の改質、6.水の電気分解、7.副生水素の利用、8.バイオマスの利用、であり、在来の化学屋の発想の延長で、目新しいことが書かれていないので先ず失望である。水の電気分解についても使用する電力についての検討が極めて不十分である。特に、化石資源の改質に頼っている以上は地球温暖化防止に貢献するというより、余分な化石燃料の消費が必要であり、トータルで見てマイナスであり、根本的な解決には絶対ならないという意見が多い。
同書には、その後、燃料電池の効用などが書かれているが、大部分はこれまでジャーナリストが調査して執筆した内容と変らない。30年以上も前の太田時雄氏のように、太平洋に筏を浮かべてバイオ水素を作るとかいうような構想を考える学者か最近はいないのが寂しい。せめて「核融合による水素製造の可能性」くらいを論じても早過ぎることはない。
やはり、本というのは、一人著者が自分の哲学で執筆したものが読者を引き付け、共感するものが多いが、学会や協会などで共同執筆されたものは単なる資料集になり味気ないものが多い。
水素エネルギー読本
水素は石油に代われるか
水素エコノミー―エネルギー・ウェブの時代
特に、現代社会において、水素をどのように取得するのかが最大のテーマであり、永遠のテーマでもある。それに関する何か新しい発想を期待した。
「まえがき」を執筆した太田健一郎氏が、「水素は天然に存在しないので、水や地上の炭化水素から作り出さなければならない」ということが冒頭か述べている。そして2章の「水素を何からどのようにして作るか」で書かれていることは
1.水蒸気改質、2.部分酸化反応、3.自己熱改質反応、4.CO変成反応、5.石炭の改質、6.水の電気分解、7.副生水素の利用、8.バイオマスの利用、であり、在来の化学屋の発想の延長で、目新しいことが書かれていないので先ず失望である。水の電気分解についても使用する電力についての検討が極めて不十分である。特に、化石資源の改質に頼っている以上は地球温暖化防止に貢献するというより、余分な化石燃料の消費が必要であり、トータルで見てマイナスであり、根本的な解決には絶対ならないという意見が多い。
同書には、その後、燃料電池の効用などが書かれているが、大部分はこれまでジャーナリストが調査して執筆した内容と変らない。30年以上も前の太田時雄氏のように、太平洋に筏を浮かべてバイオ水素を作るとかいうような構想を考える学者か最近はいないのが寂しい。せめて「核融合による水素製造の可能性」くらいを論じても早過ぎることはない。
やはり、本というのは、一人著者が自分の哲学で執筆したものが読者を引き付け、共感するものが多いが、学会や協会などで共同執筆されたものは単なる資料集になり味気ないものが多い。
水素エネルギー読本
水素は石油に代われるか
水素エコノミー―エネルギー・ウェブの時代
病院の電源設備の不備によるの画像診断の誤診もある
技術調査会の「メカトロニクス」という広告雑誌のオリジナルインタビューという記事は、独自の技術で頑張っている中小企業の経営者の生の声を聞くことができるのでて面白い。2007年10月号では親栄産業株式会社という交流安定化電源であるUPSの自社のブランドを展開し、航空機産業や軍需産業に実績を持っている企業を紹介している。UPS (Uninterruptible Power Supply)は 無停電電源装置で、入力電源に停電などの異常が発生しても一定時間は停電することなく電力を供給し続ける電源装置である。一定時間を超える停電には非常用発電機を併用したり、安全にコンピューターなどを終了させる機能を併用するのが一般的である。交流出力のものと直流出力のものがある。日本では交流出力のものはCVCF (Constant Voltage Constant Frequency, 定電圧定周波数) 電源と呼ばれたが、無停電電源装置が交流の安定化電源として利用されることが多かったためである。
同社の片岡会長の以下の言葉がなにより、その重要性を物語っているので紹介したい。
「私自身の経験ですが、画像診断を受けたときに肝臓がんと診断されました。結果的には誤診だったのですが、診断された先生は「癌」に間違いないと言っていた。私は納得がいかずファイバーを動脈から入れて検査してもらった結果、何でもないことが分かりました。それがきっかけで医療設備が正しく機能している状態での検査が行われているのか、ということを考えるようになりました。正しく機能しない原因となる電源の品質を重視したUPSが必要だと思いました。医療機器用のUPSは非常に高価ですので、性能もよく、安価でノイズも低いものを提供しようと思ったのです。病院の電気配線は、いまだに昭和30年代の配線規定に基づいて配線されているが、最近の院内設備は進化し正弦波形の電流でない負荷のものもあり、そのために電源が乱れてしまいます。これまで許容電流だけを問題にしていたがそれでは不十分ということです。」
UPSには従来大きなトランスなどを使用していたが、パワートランジスタによる省エネタイプのものが普及しつつある。
同社の片岡会長の以下の言葉がなにより、その重要性を物語っているので紹介したい。
「私自身の経験ですが、画像診断を受けたときに肝臓がんと診断されました。結果的には誤診だったのですが、診断された先生は「癌」に間違いないと言っていた。私は納得がいかずファイバーを動脈から入れて検査してもらった結果、何でもないことが分かりました。それがきっかけで医療設備が正しく機能している状態での検査が行われているのか、ということを考えるようになりました。正しく機能しない原因となる電源の品質を重視したUPSが必要だと思いました。医療機器用のUPSは非常に高価ですので、性能もよく、安価でノイズも低いものを提供しようと思ったのです。病院の電気配線は、いまだに昭和30年代の配線規定に基づいて配線されているが、最近の院内設備は進化し正弦波形の電流でない負荷のものもあり、そのために電源が乱れてしまいます。これまで許容電流だけを問題にしていたがそれでは不十分ということです。」
UPSには従来大きなトランスなどを使用していたが、パワートランジスタによる省エネタイプのものが普及しつつある。
舛添大臣のプルトニウムについての認識
「舛添要一著:舛添のどうなる日本?、どうする日本!、東京書籍、2001年」は、今一番元気よい政治家の著書ということで読んでみた。今、難しい厚生労働行政に取り組んでいるが、エネルギー問題にも憧憬が深く、本書にも自分自信の考え方が垣間見える。エネルギー問題を語るとき、プルトニウムとプルサーマル問題についての見解が重要であることは当ブログでも以前にも述べた。彼の意見は以下の通りである。
1.国際政治上重要な意味合いを持つプルトニウムの取り扱いには、技術的のみならず、政治的にも慎重さが必要。プルトニウムは単なる燃料ではなく、高度に政治性を持つ素材だと考えるべき。
2.プルサーマル(プルトニウムをウランと混合した混合酸化物燃料:MOX燃料)は現時点では最も確実なプルトニウム利用方法であり、再処理によって高レベル廃棄物の容積を減らすことができることも大きな利点である。プルトニウム239を僅かしか含んでいないMOX燃料を核兵器に転用するのは不可能に近いこともプラスである。
当ブログで9月19日に紹介した「舘野淳、野口邦和、吉田康彦編著:どうするプルトニウム、リベルタ出版、2007年」を枡添氏が読んでいるかどうかは知らないが、
今、世界で、ブッシュ大統領をはじめ各国の指導者がNPT(核拡散防止)に神経を尖らして、イランや北朝鮮の核開発を警戒している。フランスのクシュネル外相は、イランが核兵器を保有した場合は欧州が戦争に備える必要がある、と述べている。
「プルトニウム社会」の諸様相は現代社会の驚異であることは、故高木仁三郎氏も早くから問題にしている。プルトニウムが大量に生産される社会は、それ以前とはまったく異なる社会になってしまう。プルトニウムとテロリズムとの関係は、従来はテロリストによる核ジャック、そして原爆製造という流れで恐れられていた。ブッシュ大統領は9.11テロに対して、「これはテロではなくて戦争だ」と叫び、自らもテロリズム的攻撃に打って出て果てしなきテロの応酬という事態になっている。「戦争の大儀」を掲げて世界各地でテロが波及しも不思議でない。プルトニウムを奪取して原子爆弾を製造するにはかなり組織化された国家レベルの集団でなければ難しい。しかし、テロリストがその目的を達成するためには原子爆弾を使わなくてもよい。核兵器の材料という性質とは別のプルトニウムの特性、すなわちその猛毒性を存分に利用できる。微量でも極めて致死性の高い物質で呼気や食物と一緒に体内にはいるのは極めて危険である。金属プルトニウムは化学的に不安定であるが、酸化プルトニウムは粉末にして空中に浮遊する。簡単に容器に入れて群衆の中に散布することも可能である。振りまいた本人も危険に曝されるが最近の自爆テロを想定すれば充分起こりうる
本書の執筆者は日本原子力研究所に勤務していた科学者たちである。日本の原子力行政や対北朝鮮へのメディアの反応などに疑問を投げかけている。現在、世界には軍事、民生合わせて1375トンのプルトニウムがあり、原子力発電による使用済み燃料の増加で年々100トン近く増加しつつあるという。
舛添氏の言うとおり、プルトニウム政策は国際情勢抜きには語れない重要課題である。
舛添のどうなる日本?どうする日本!―国民で考えるエネルギー問題
1.国際政治上重要な意味合いを持つプルトニウムの取り扱いには、技術的のみならず、政治的にも慎重さが必要。プルトニウムは単なる燃料ではなく、高度に政治性を持つ素材だと考えるべき。
2.プルサーマル(プルトニウムをウランと混合した混合酸化物燃料:MOX燃料)は現時点では最も確実なプルトニウム利用方法であり、再処理によって高レベル廃棄物の容積を減らすことができることも大きな利点である。プルトニウム239を僅かしか含んでいないMOX燃料を核兵器に転用するのは不可能に近いこともプラスである。
当ブログで9月19日に紹介した「舘野淳、野口邦和、吉田康彦編著:どうするプルトニウム、リベルタ出版、2007年」を枡添氏が読んでいるかどうかは知らないが、
今、世界で、ブッシュ大統領をはじめ各国の指導者がNPT(核拡散防止)に神経を尖らして、イランや北朝鮮の核開発を警戒している。フランスのクシュネル外相は、イランが核兵器を保有した場合は欧州が戦争に備える必要がある、と述べている。
「プルトニウム社会」の諸様相は現代社会の驚異であることは、故高木仁三郎氏も早くから問題にしている。プルトニウムが大量に生産される社会は、それ以前とはまったく異なる社会になってしまう。プルトニウムとテロリズムとの関係は、従来はテロリストによる核ジャック、そして原爆製造という流れで恐れられていた。ブッシュ大統領は9.11テロに対して、「これはテロではなくて戦争だ」と叫び、自らもテロリズム的攻撃に打って出て果てしなきテロの応酬という事態になっている。「戦争の大儀」を掲げて世界各地でテロが波及しも不思議でない。プルトニウムを奪取して原子爆弾を製造するにはかなり組織化された国家レベルの集団でなければ難しい。しかし、テロリストがその目的を達成するためには原子爆弾を使わなくてもよい。核兵器の材料という性質とは別のプルトニウムの特性、すなわちその猛毒性を存分に利用できる。微量でも極めて致死性の高い物質で呼気や食物と一緒に体内にはいるのは極めて危険である。金属プルトニウムは化学的に不安定であるが、酸化プルトニウムは粉末にして空中に浮遊する。簡単に容器に入れて群衆の中に散布することも可能である。振りまいた本人も危険に曝されるが最近の自爆テロを想定すれば充分起こりうる
本書の執筆者は日本原子力研究所に勤務していた科学者たちである。日本の原子力行政や対北朝鮮へのメディアの反応などに疑問を投げかけている。現在、世界には軍事、民生合わせて1375トンのプルトニウムがあり、原子力発電による使用済み燃料の増加で年々100トン近く増加しつつあるという。
舛添氏の言うとおり、プルトニウム政策は国際情勢抜きには語れない重要課題である。
舛添のどうなる日本?どうする日本!―国民で考えるエネルギー問題