2011年04月
アラブ諸国でも女性議員数の割合が11.5%と高い国（チュニジア）がある 
「塩尻和子、池田美佐子共著：イスラームの生活を知る事典、東京堂出版、2004年」の「近代化・政治・国際関係」の章の「選挙」の小節は昨日の当ブログの「政党」に関連するもので、イスラム社会の選挙の実態は、現在の世界の動向を知る上で参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１．20世紀末に起こった世界的な民主化の流れのなかで、イスラーム世界でも複数政党制が導入され、議会選挙が実施されるようになった国は多い。しかし、中東においては、政権交代を可能にする議会選挙はトルコやレバノンなど一部の国のみでしか見られない。多くの場合、国王や大統領の権限が強く野党勢力が政権の座につくようなことはない。このような状況で、野党への国民の期待感は薄れる傾向にあるが、同時にエジプトなどでは無所属として出馬する立候補者が増えている。
２．選挙権は湾岸諸国の一部を除き男女に与えられている。その年齢は、15歳から21歳までの幅がある。15歳で選挙権を認めているのはイランで、18歳は、アルジェリア、エジプト、ヨルダン、イエメン、トルコと最も多い。さらにモロッコが20歳で、レバノンは21歳となっている。
３．湾岸諸国で議会選挙がおこなわれているのは、クウェイトとバハレーンであろが、前者には女性に選挙権が与えられていない。一方、サウジアラビアは近々地方議会選挙を実施するとしており、またカタルも2003年に議会選挙の実施を決め、女性の選挙権も認めている。
４．女性が議会議員に占める割合は、アラブ諸国では、全体の2〜3%台が多く、女性の割合は非常に少ない。その中で最も多いのはチュニジアの11.5%で、少ないのはイエメンの1%以下である。
５．限定的な民主化における最近の議会選挙の例では、エジプトの2000年の人民議会選挙の定員は454人で、10人は大統領が任命する。選挙で選ばれる444人の議員は、全国で222選挙区から2人ずつ個人選出の方式で選ばれる。前回の1995年選挙の不正を改善するため、内務省ではなく司法当局の全面的な管理下で実施された。
６．選挙結果は、予想どおり与党の国民民主党が圧勝した。当選者のなかで最も多かったのは無所属で出馬した立候補者であったが、後で与党に加わる者が多く、国民民主党は最終的に全体の85%に及んだ。野党は、16議席のみで、自由主義や左派系の4党.が議席を分けた。無所属で当選したムスリム同胞団員は予想を上回って17人にのぼり、非合法のムスリム同胞団も含んだ野党が約5%という結果であった。一定の民主化の実態を示したいとする政権側の思惑がこの結果に反映されている。
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１．20世紀末に起こった世界的な民主化の流れのなかで、イスラーム世界でも複数政党制が導入され、議会選挙が実施されるようになった国は多い。しかし、中東においては、政権交代を可能にする議会選挙はトルコやレバノンなど一部の国のみでしか見られない。多くの場合、国王や大統領の権限が強く野党勢力が政権の座につくようなことはない。このような状況で、野党への国民の期待感は薄れる傾向にあるが、同時にエジプトなどでは無所属として出馬する立候補者が増えている。
２．選挙権は湾岸諸国の一部を除き男女に与えられている。その年齢は、15歳から21歳までの幅がある。15歳で選挙権を認めているのはイランで、18歳は、アルジェリア、エジプト、ヨルダン、イエメン、トルコと最も多い。さらにモロッコが20歳で、レバノンは21歳となっている。
３．湾岸諸国で議会選挙がおこなわれているのは、クウェイトとバハレーンであろが、前者には女性に選挙権が与えられていない。一方、サウジアラビアは近々地方議会選挙を実施するとしており、またカタルも2003年に議会選挙の実施を決め、女性の選挙権も認めている。
４．女性が議会議員に占める割合は、アラブ諸国では、全体の2〜3%台が多く、女性の割合は非常に少ない。その中で最も多いのはチュニジアの11.5%で、少ないのはイエメンの1%以下である。
５．限定的な民主化における最近の議会選挙の例では、エジプトの2000年の人民議会選挙の定員は454人で、10人は大統領が任命する。選挙で選ばれる444人の議員は、全国で222選挙区から2人ずつ個人選出の方式で選ばれる。前回の1995年選挙の不正を改善するため、内務省ではなく司法当局の全面的な管理下で実施された。
６．選挙結果は、予想どおり与党の国民民主党が圧勝した。当選者のなかで最も多かったのは無所属で出馬した立候補者であったが、後で与党に加わる者が多く、国民民主党は最終的に全体の85%に及んだ。野党は、16議席のみで、自由主義や左派系の4党.が議席を分けた。無所属で当選したムスリム同胞団員は予想を上回って17人にのぼり、非合法のムスリム同胞団も含んだ野党が約5%という結果であった。一定の民主化の実態を示したいとする政権側の思惑がこの結果に反映されている。
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エジプトでも健全な政党政治が課題
「塩尻和子、池田美佐子共著：イスラームの生活を知る事典、東京堂出版、2004年」の「近代化・政治・国際関係」の章の「政党」の小節」は現在の世界の動向を知る上で参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１．イスラーム世界のとくに中東諸国では、複数政党制と言われる国でも、与党以外の政党の役割はきわめて制限されている。野党による政権交代はない場合が多く、例外的に議会における選挙によって政権交代が機能しているのは、中東ではイスラエルのほかにトルコ、レバノンである。モロッコでも国王の傘下での政権交代はおこなわれているが、トルコの場合は、政党結成には認可が必.要である。クルドの主要政党などは非合法のままである。
２．政党の背後には軍部がひかえており、軍事介入の例が何度かある。レバノンは宗派によって議員数や大統領、首相などが決められているので特殊なケースである。その他の国では、野党に政権獲得のチャンスはほとんどなく、議会での役割は体制の権威に抵触しない程度の意見表明にとどまり、本来の複数政党制は機能していない。
３．政党は、政府による合法政党としての認可がなくては正式に活動できない。政党の認可問題において、イスラーム系の政党が注目される。これについての各国の対応はまちまちで、たとえばエジプト、シリア、チュニジア、モロッコでは認められていないが、一方でアルジェリア、スーダン、レバノン、イエメン、ヨルダンでは認可されている。しかし、後者の国ですべてのイスラーム政党が認められているわけではなく、アルジエリアのイスラーム教国戦線などは非合法のままである。また、イスラーム政党が認められていないエジプトでは、非合法のムスリム同砲団が他の政党と連携するということもあった。
４．合法の政党には、エジプトの国民民主党やシリアのバアス党などの政権与党のほか、さまざまな種類の政党があるが、トルコなどを除いては、野党は概して規模が小さく、政権を脅かすものではない。
５．政治的傾向はさまざまで、イスラーム政党のほか、民族主義政党.、左派政党、自由主義政党などがある。しかし、すでに民主化が始まってから30年近くになるエジプトなどでは、既存の政治体制に変化をもたらすことのできない政党の弱さに対して、国民の政党への期待は薄れつつある。
（先月ムバラク政権が崩壊したエジプトでは、シャラフ新首相が率いる新内閣が発足している。首相は演説で、若者や女性、外国在住者ら幅広い層に政治参加を求め、
シャラフ首相は若者に「革命勢力の真のメンバー」と呼び掛け、新政権の目標として女性議員の増加などを掲げている。エジプト最大のイスラム原理主義勢力、ムスリム同胞団の最高幹部の一人でカイロ大学教授のラシャド・バイユーミ氏はムバラク大統領退陣後の政権で主導権を握ることに強い意欲を示している。欧米諸国は親米ムバラク政権の退陣後のイスラム勢力台頭を懸念しており、バイユーミ氏の発言は欧米側を一層警戒させている。健全な政党政治がこれからの課題である）
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１．イスラーム世界のとくに中東諸国では、複数政党制と言われる国でも、与党以外の政党の役割はきわめて制限されている。野党による政権交代はない場合が多く、例外的に議会における選挙によって政権交代が機能しているのは、中東ではイスラエルのほかにトルコ、レバノンである。モロッコでも国王の傘下での政権交代はおこなわれているが、トルコの場合は、政党結成には認可が必.要である。クルドの主要政党などは非合法のままである。
２．政党の背後には軍部がひかえており、軍事介入の例が何度かある。レバノンは宗派によって議員数や大統領、首相などが決められているので特殊なケースである。その他の国では、野党に政権獲得のチャンスはほとんどなく、議会での役割は体制の権威に抵触しない程度の意見表明にとどまり、本来の複数政党制は機能していない。
３．政党は、政府による合法政党としての認可がなくては正式に活動できない。政党の認可問題において、イスラーム系の政党が注目される。これについての各国の対応はまちまちで、たとえばエジプト、シリア、チュニジア、モロッコでは認められていないが、一方でアルジェリア、スーダン、レバノン、イエメン、ヨルダンでは認可されている。しかし、後者の国ですべてのイスラーム政党が認められているわけではなく、アルジエリアのイスラーム教国戦線などは非合法のままである。また、イスラーム政党が認められていないエジプトでは、非合法のムスリム同砲団が他の政党と連携するということもあった。
４．合法の政党には、エジプトの国民民主党やシリアのバアス党などの政権与党のほか、さまざまな種類の政党があるが、トルコなどを除いては、野党は概して規模が小さく、政権を脅かすものではない。
５．政治的傾向はさまざまで、イスラーム政党のほか、民族主義政党.、左派政党、自由主義政党などがある。しかし、すでに民主化が始まってから30年近くになるエジプトなどでは、既存の政治体制に変化をもたらすことのできない政党の弱さに対して、国民の政党への期待は薄れつつある。
（先月ムバラク政権が崩壊したエジプトでは、シャラフ新首相が率いる新内閣が発足している。首相は演説で、若者や女性、外国在住者ら幅広い層に政治参加を求め、
シャラフ首相は若者に「革命勢力の真のメンバー」と呼び掛け、新政権の目標として女性議員の増加などを掲げている。エジプト最大のイスラム原理主義勢力、ムスリム同胞団の最高幹部の一人でカイロ大学教授のラシャド・バイユーミ氏はムバラク大統領退陣後の政権で主導権を握ることに強い意欲を示している。欧米諸国は親米ムバラク政権の退陣後のイスラム勢力台頭を懸念しており、バイユーミ氏の発言は欧米側を一層警戒させている。健全な政党政治がこれからの課題である）
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中東のイスラーム世界の民主化は限定的
「塩尻和子、池田美佐子共著：イスラームの生活を知る事典、東京堂出版、2004年」の「近代化・政治・国際関係」の章の「イスラームの民主化」は現在の世界の動向を知る上で参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１．東欧やラテンアメリカ、アジアの各国における近年の民主化の潮流は、イスラーム世界にも見られる。しかし、イスラーム世界、とくに中東における多くの国の民主化は限定的なもので、議会を通して国民の広い政治参加を促し、政権交代も可能にする民主化を実現した国は少ない。多くの場合、現政権の安定を保障する範囲内での民主化、また現政権を強固にするための民主化にとどまっている。
２．中東諸国に限って見ると、列強の支配や影響力から解放された現在の独立国の政治体制は、君主国か、あるいは革命を経た共和国である。君主国には、モロッコ、ヨルダン、サウジアラビア、クウェイトなどの湾岸諸国があり、共和国には、エジプト、シリア、イラク、アルジェリア、レバノン、トルコ、イランなどがある。
３．エジプトやレバノン、ヨルダン、トルコなど近代独立国家になって議会政治を経験した国々も少なからずある。しかし、20世紀後半には、ほとんどの国が、国王や大統領の強権政治のともに置かれている。
４．君主国では、国王とその一族による支配が続き、その中でも湾岸諸国では議会や政党はまったく存在しなかった。共和国では、基本的に軍事クーデターによって政権が樹立された場合が多く、その後社会主義政策を掲げた党独裁政権が続き、議会はあっても、その役割は政権の支持母体としての機能を果たすに過ぎなかった。どちらの場合も政権に異議をとなえる政党や団体の設立は許されず、言論の自由も厳しく制限された。
５．中東における民主化開始の時期、民主化の現われ方とその程度、民主化政策の背後にある理由は、国によってさまざまである。民主化の開始については、1970年代からその試みが一部始まり、冷戦終結前後をピークとした。
６．最も早かったのはエジプトで、第3次中東戦争の敗北に続いてナセル大統領の死後就任したサダト大統領が、自らの政治基盤を確立するために、制限つきの複数政党制を導入したことに始まる。その後80年代後半から他の中東諸国においても同じく制限つきの民主化が次々と始まった。中東のなかで比較的民主化が進んでいるのは、トルコやレバノンである。しかし、どちらも完全な民主化とはいえない。
７．トルコの場合は、背後に強力な軍隊の存在があり、これまでも何度か複数政党制による議会政治が軍事クーデターによって覆されてきた。レバノンは、70年代半ばから20年近くの内戦を経験したのち、現在は議会政治のもとに国家再建をおこなっているが、議会政治は宗派を基盤しており、またシリアなどの外部勢力の影響も受けている。イランはイスラーム革命ののち活発な政党政治が展開されたが、「法学者の統治」の原則があり限定的である。
８．その他の中東諸国の民主化も限定的である。エジプトやヨルダン、チュニジアなどで複数政党制が実施されているが、基本的には国王や大統領の絶大な権限が憲法で保障されており、議会にはそれを規制する権限がない。政党の認可にも厳格な審査があり、議員候補の審査や、反政府勢力の台頭は厳しくチェックされている。現実には、与党が議会の大半をしめて安定政権が確保されている。
９．湾岸諸国でも、民主化の世界的傾向の影響を受けているが、クウェイトとバハレーンを除いて、他の国は諮問評議会が開催されたばかりで、政党も認可されていない。クウェイトは、1992年より国民議会選挙が行なわれているが、現在も政党は認可されておらず、女性の参政権もない。
１０．中東における民主化は制限付きで、政権の交代などは例外的である。限定的な民主化をおこなった背景には、社会主義の失敗や、冷戦終結をきっかとした世界的な民主化の潮流があり、地域的には湾岸戦争の影響、国内的には経済の構造調整や国民の不満をそらすためのものである。
１１．この地域の民主化が、政権交代を目指すものでないことは、近親者への権力の移譲が端的に示している。中東では1970年代以降、強権政治による長期の安定政権が君主国と共和国の両方にみられる。現在、その長期安定政権の交代時期にあたり、君主国では、モロッコやヨルダンなどにみられるように、国王の死後には息子が国王の地位を受け継いでいる。同じことが共和制の国家にも起こっている。シリアではアサド大統領の死後、新大統領に息子のバッシャールが就任している。同じ兆候はフセイン政権時代のでイラクにもある。
（エジプトもその可能性があったが、今回の民衆のデモでそれが断ち切られたと思われている）
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１．東欧やラテンアメリカ、アジアの各国における近年の民主化の潮流は、イスラーム世界にも見られる。しかし、イスラーム世界、とくに中東における多くの国の民主化は限定的なもので、議会を通して国民の広い政治参加を促し、政権交代も可能にする民主化を実現した国は少ない。多くの場合、現政権の安定を保障する範囲内での民主化、また現政権を強固にするための民主化にとどまっている。
２．中東諸国に限って見ると、列強の支配や影響力から解放された現在の独立国の政治体制は、君主国か、あるいは革命を経た共和国である。君主国には、モロッコ、ヨルダン、サウジアラビア、クウェイトなどの湾岸諸国があり、共和国には、エジプト、シリア、イラク、アルジェリア、レバノン、トルコ、イランなどがある。
３．エジプトやレバノン、ヨルダン、トルコなど近代独立国家になって議会政治を経験した国々も少なからずある。しかし、20世紀後半には、ほとんどの国が、国王や大統領の強権政治のともに置かれている。
４．君主国では、国王とその一族による支配が続き、その中でも湾岸諸国では議会や政党はまったく存在しなかった。共和国では、基本的に軍事クーデターによって政権が樹立された場合が多く、その後社会主義政策を掲げた党独裁政権が続き、議会はあっても、その役割は政権の支持母体としての機能を果たすに過ぎなかった。どちらの場合も政権に異議をとなえる政党や団体の設立は許されず、言論の自由も厳しく制限された。
５．中東における民主化開始の時期、民主化の現われ方とその程度、民主化政策の背後にある理由は、国によってさまざまである。民主化の開始については、1970年代からその試みが一部始まり、冷戦終結前後をピークとした。
６．最も早かったのはエジプトで、第3次中東戦争の敗北に続いてナセル大統領の死後就任したサダト大統領が、自らの政治基盤を確立するために、制限つきの複数政党制を導入したことに始まる。その後80年代後半から他の中東諸国においても同じく制限つきの民主化が次々と始まった。中東のなかで比較的民主化が進んでいるのは、トルコやレバノンである。しかし、どちらも完全な民主化とはいえない。
７．トルコの場合は、背後に強力な軍隊の存在があり、これまでも何度か複数政党制による議会政治が軍事クーデターによって覆されてきた。レバノンは、70年代半ばから20年近くの内戦を経験したのち、現在は議会政治のもとに国家再建をおこなっているが、議会政治は宗派を基盤しており、またシリアなどの外部勢力の影響も受けている。イランはイスラーム革命ののち活発な政党政治が展開されたが、「法学者の統治」の原則があり限定的である。
８．その他の中東諸国の民主化も限定的である。エジプトやヨルダン、チュニジアなどで複数政党制が実施されているが、基本的には国王や大統領の絶大な権限が憲法で保障されており、議会にはそれを規制する権限がない。政党の認可にも厳格な審査があり、議員候補の審査や、反政府勢力の台頭は厳しくチェックされている。現実には、与党が議会の大半をしめて安定政権が確保されている。
９．湾岸諸国でも、民主化の世界的傾向の影響を受けているが、クウェイトとバハレーンを除いて、他の国は諮問評議会が開催されたばかりで、政党も認可されていない。クウェイトは、1992年より国民議会選挙が行なわれているが、現在も政党は認可されておらず、女性の参政権もない。
１０．中東における民主化は制限付きで、政権の交代などは例外的である。限定的な民主化をおこなった背景には、社会主義の失敗や、冷戦終結をきっかとした世界的な民主化の潮流があり、地域的には湾岸戦争の影響、国内的には経済の構造調整や国民の不満をそらすためのものである。
１１．この地域の民主化が、政権交代を目指すものでないことは、近親者への権力の移譲が端的に示している。中東では1970年代以降、強権政治による長期の安定政権が君主国と共和国の両方にみられる。現在、その長期安定政権の交代時期にあたり、君主国では、モロッコやヨルダンなどにみられるように、国王の死後には息子が国王の地位を受け継いでいる。同じことが共和制の国家にも起こっている。シリアではアサド大統領の死後、新大統領に息子のバッシャールが就任している。同じ兆候はフセイン政権時代のでイラクにもある。
（エジプトもその可能性があったが、今回の民衆のデモでそれが断ち切られたと思われている）
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2011年04月12日
大震災と原発事故を反省する時代の生活とは
「池田香代子編著：世界がもし100人の村だったら、マガジンハウス、2002年」のダグラス・ラミス（C.Douglas Lummis：政治学者）の「経済発展の時代は終わった、踊りましょう!」の「なぜ、踊るのか？」も格差社会の日本の今の時代に示唆に富む内容である。原発事故を考えるときの参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１．『100人村』は「だからあなたは踊ってください：いろんな種類の自由な自己表現をして下さい」という言葉で終わっている。これを自分たちが貧乏国ではなく金持ち国の1つに生まれたと誤解してはいけない。世界経済システムから切り離された「日本経済」など存在しない。日本経済は貧乏な国々の経済に依存している。「成長の限界」で予言された危機が貧乏国を襲うとき、それはまもなく日本も襲う。
２．まず何よりも食糧生産により多くの努力を注ぐべきである。これは単なる食糧生産高の増加を意味するのではなく、１）すべての人に食糧が行き渡り、飢餓と栄養失調がなくなるように生産を組織し、２）土壌を枯れさせ汚染しない農法へ変えていく、３）人が餓死しているときにガラクタ（電気製品や自動車）づくりに精を出すのは不合理である、４）教育や健康管理のように、人を助け、資源を枯渇させず、公害を出さないサービス産業に努力する、５）芸術、音楽、宗教、基礎的科学、運動競技、人とのふれ合い、ができるような余暇時間が持てる、という意味である。
３．「踊る」という用語はこの種の活動の象徴である。踊るときは、消費しないし、何も買わないし、資源を使い果たさないし、環境を汚染しないし、誰も搾取しないし、経済的な生活スタイルからも離れている。踊るのに余暇は必要だが、富はいらない。踊るために他人を貧乏することはないし、地球環境を破壊しない。人びとに喜びと満足を与える行動を表す言葉である。決して酒を飲みながら遊べということではない。
４．『成長の限界』で要求された「考え方のコペルニクス的転換」とは、金持ち国の人びとが道徳的な理由から自ら進んで貧乏に戻らなくてはならない、という意味ではない。「富」や「貧困」という言葉の概念自身が変革されるべき、という意味である。踊ることは経済発展などなくても富をもたらす。踊るということは、音楽に合わせて踊ることだけではなく、いろんな種類の自由な自己表現のシンボルである。
５．「考え方のコペルニクス的転換」には次のような認識も含まれる。仕事中毒と消費中毒の反省。出世すること、他人より抜きん出ること、新しいものを買うこと、ではない。物質的には質素でも、踊りや歌、音楽、芸術、愛、友情、その他の形の自己表現に注げる余暇と時間がある生活は豊かである。
６．「100人村」では、より多くの人びとが自分の村を愛することを知る。「村」とは地球のことであって、特定の国ではないし、国家や政府のことでも決してない。一度も見たことのないものを愛するのは難しいし、誰もこの惑星のすべての場所を見たことはない。いろんな場所に旅したことがあっても、自分が育ったところや住んでいるところを愛するのが一番簡単である。「お国はどちらですか」という表現があるように、国とはもともと地元や村を意味することを思い出せば、愛国心とは悪いことではない。地球を愛するとは、この谷間、この川、この森、この山、この海岸線を愛することから始まる。
７．地球上の実在するものへの具体的な愛情がなければ、「地球への愛」は抽象概念になってしまう。「愛国心」が政府や国家を愛する不健康で醜い感情から、川や山や海岸といったものを愛することへと再認識すれば、愛国心は地球を壊す力から地球を保護するために働く力に変わる。山を崩して土地をならし、森を切り倒し、海を埋め立てるブルドーザーを送り込む開発業者は愛国心が欠如していると見られるようになり、反対にこれらのものを守ろうとしている人たちが真の愛国者と見られるようになる。
世界がもし100人の村だったら
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１．『100人村』は「だからあなたは踊ってください：いろんな種類の自由な自己表現をして下さい」という言葉で終わっている。これを自分たちが貧乏国ではなく金持ち国の1つに生まれたと誤解してはいけない。世界経済システムから切り離された「日本経済」など存在しない。日本経済は貧乏な国々の経済に依存している。「成長の限界」で予言された危機が貧乏国を襲うとき、それはまもなく日本も襲う。
２．まず何よりも食糧生産により多くの努力を注ぐべきである。これは単なる食糧生産高の増加を意味するのではなく、１）すべての人に食糧が行き渡り、飢餓と栄養失調がなくなるように生産を組織し、２）土壌を枯れさせ汚染しない農法へ変えていく、３）人が餓死しているときにガラクタ（電気製品や自動車）づくりに精を出すのは不合理である、４）教育や健康管理のように、人を助け、資源を枯渇させず、公害を出さないサービス産業に努力する、５）芸術、音楽、宗教、基礎的科学、運動競技、人とのふれ合い、ができるような余暇時間が持てる、という意味である。
３．「踊る」という用語はこの種の活動の象徴である。踊るときは、消費しないし、何も買わないし、資源を使い果たさないし、環境を汚染しないし、誰も搾取しないし、経済的な生活スタイルからも離れている。踊るのに余暇は必要だが、富はいらない。踊るために他人を貧乏することはないし、地球環境を破壊しない。人びとに喜びと満足を与える行動を表す言葉である。決して酒を飲みながら遊べということではない。
４．『成長の限界』で要求された「考え方のコペルニクス的転換」とは、金持ち国の人びとが道徳的な理由から自ら進んで貧乏に戻らなくてはならない、という意味ではない。「富」や「貧困」という言葉の概念自身が変革されるべき、という意味である。踊ることは経済発展などなくても富をもたらす。踊るということは、音楽に合わせて踊ることだけではなく、いろんな種類の自由な自己表現のシンボルである。
５．「考え方のコペルニクス的転換」には次のような認識も含まれる。仕事中毒と消費中毒の反省。出世すること、他人より抜きん出ること、新しいものを買うこと、ではない。物質的には質素でも、踊りや歌、音楽、芸術、愛、友情、その他の形の自己表現に注げる余暇と時間がある生活は豊かである。
６．「100人村」では、より多くの人びとが自分の村を愛することを知る。「村」とは地球のことであって、特定の国ではないし、国家や政府のことでも決してない。一度も見たことのないものを愛するのは難しいし、誰もこの惑星のすべての場所を見たことはない。いろんな場所に旅したことがあっても、自分が育ったところや住んでいるところを愛するのが一番簡単である。「お国はどちらですか」という表現があるように、国とはもともと地元や村を意味することを思い出せば、愛国心とは悪いことではない。地球を愛するとは、この谷間、この川、この森、この山、この海岸線を愛することから始まる。
７．地球上の実在するものへの具体的な愛情がなければ、「地球への愛」は抽象概念になってしまう。「愛国心」が政府や国家を愛する不健康で醜い感情から、川や山や海岸といったものを愛することへと再認識すれば、愛国心は地球を壊す力から地球を保護するために働く力に変わる。山を崩して土地をならし、森を切り倒し、海を埋め立てるブルドーザーを送り込む開発業者は愛国心が欠如していると見られるようになり、反対にこれらのものを守ろうとしている人たちが真の愛国者と見られるようになる。
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イスラム社会では富みは、頭脳と身体を使い、リスクのある労働で得ることが原則で利息はダメ
「塩尻和子、池田美佐子著：イスラームの生活を知る事典、東京堂出版、2004年」は今世紀の世界の動向を理解する上で参考になる。たとえば、「経済・開発」の「イスラーム銀行」の章で印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１．世界のどこの都市とも同じように、イスラーム世界の都市にも銀行があるが、ここ約20年間にイスラーム世界には一般の銀行とはちょっと違ったイスラーム系の銀行が急速に広まっている。一見して、一般の銀行との違いはわからないが、銀行の名前に「イスラームーを冠していることが多く、またよく見ると建物には伝統的なイスラーム模様が施されている。一般の銀行との違いは、利子(リバー)の禁止である。利子を禁止しても立派に運営されている。
２．イスラーム銀行が銀行の新しいタイプであることは確かであるが、この利子を禁止する概念は、クルアーン（イスラームの聖書）にも明記されており、喜捨（義務の献金）とともにイスラームの経済活動の二大原則の一つである。近代的な経済の概念がイスラーム世界に導入されるまでの長い間、イスラーム世界の経済活動では、この利子禁止の原則が貫かれていた。預言者ムハンマドは商人であったし、中世においてイスラーム世界は国際的な商業活動が活発な地域である。この利子禁止の原則は、単なる教理上の空論ではなく、現実の商業活動に裏打ちされたイスラームの経済原理である。
３．19世紀以降イスラーム世界でも経済の近代化が急速に進み、西欧の経済システムが植民地化や近代国家形成の過程で積極的に導入されたが、その間、イスラームの教理に照らし合わせて近代経済のシステムを吟味する時問や余裕はなく近代経済はイスラームとは全く別の領域で発展した。
４．利子が何の問題もなくまかり通っている現実の銀行運営を正当化し、それをイスラームの教えから逸脱していないとする解釈の試みもみられた。たとえば、リバーの解釈を狭くして、これに当たるのは不当な高率の利子のみをさし、借り手を窮地に追いやるほどの高利でない限り、通常の利子はリバーにあたらないというものなどである。また場合によっては、福利の利子はだめだが、単利は合法とする例もある。
５．1970年代後半から始まるイスラーム復興の流れの中で、イスラーム教徒の中からこの利子ベースの銀行運営がイスラームの教えから逸脱するとして、これに代わるイスラーム独白の銀行運営をやるべきという気運が高まった。
６．イスラームが利子を禁止する理由は、富の源は人間の労働にあると考えるからである。富みは、頭脳と身体を使い、リスクを負って労働してはじめて得られるのであり、労働を媒介とせず、単に金銭を貯えることで富を増幅することはできないという原則に基づく。イスラームにおいては、通貨自体には価値を認めず、単に交換の手段であり物の価値の物差しであるにすぎない。
７．イスラームは商業活動については強く奨励している。この「労働」を通して富を貯えることはいとわない。したがって、通常利子にあたるものは、なんらかの商業活動を通すことで合法となる。
８．現在のイスラーム銀行での資金の運用は、伝統的なイスラーム地域での商業活動での多くの手段で、原則的には利益と損失の共有という概念に基づいて行われている。とくに重要なのが「ムラーババ」「イジャーラ」などの方法である。
９．「ムダーラバ」はパートナシップという意味で、預金者は銀行とパートナーシップを組んで契約を結び、銀行が投資によって得た利益に応じて預金者は分配を受け取るという方法である。銀行が利益を得なかった場合分配はないが、通常元本は保証されることが多い。
「ムラーバハ」は転売を意味し、銀行が顧客へ貸し付けをおこなうときの方法で、銀行は顧客に代わって商品を購買し、それに手数料を上乗せして顧客に転売する方法である。銀行は商品そのものの取引には関与しないが、商品の所有権は有する。「イジャーラ」は、銀行が資本財などを顧客にリースをしたり、また分割払いによって最終的にそれを売却する与法である。
１０．イスラーム銀行には、このような利子禁止の原則に基づく運営の他に、モラルや価値観を持ら込むようために、イスラームの規範やモラルに基づく運営をおこなう特徴がある。イスラームの教えにはずれる行為を避け、イスラームが奨励する行為を援助する。例えば、酒類、豚、ギャンブルなどに関連する資金の運用はおこなわないが、喜捨（ザカート）のお金を集める口座の開設、マッカへの巡礼を援助すろ寄金の開設などの事業を数多くおこなっている。
１１．イスラーム銀行は、1950年代に登場し、1970年代半ばから石油収入の急増で湾岸諸国を中心に発展した。現在では、200以上のイスラーム銀行が存在し、イスラーム世界のみならず、ヨーロッパやアメリカにも広まっている。その運用資金は総額2000億ドルにのぼると。現在、lMF(国際通貨基金)でもイスラーム銀行のシステムを認め、IMFとイスラーム銀行との協力で、さまざまな基準作りがおこなわれている。
１２．欧米の銀行が、イスラーム銀行の子会社を設立したり、イスラーム教徒を対象としたサービスをおこなっている銀行もある。イランではすべての銀行がイスラーム銀行である。ただし、イスラーム世界の多くの国では、利子を認める一般の銀行が主流になってきた。
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１．世界のどこの都市とも同じように、イスラーム世界の都市にも銀行があるが、ここ約20年間にイスラーム世界には一般の銀行とはちょっと違ったイスラーム系の銀行が急速に広まっている。一見して、一般の銀行との違いはわからないが、銀行の名前に「イスラームーを冠していることが多く、またよく見ると建物には伝統的なイスラーム模様が施されている。一般の銀行との違いは、利子(リバー)の禁止である。利子を禁止しても立派に運営されている。
２．イスラーム銀行が銀行の新しいタイプであることは確かであるが、この利子を禁止する概念は、クルアーン（イスラームの聖書）にも明記されており、喜捨（義務の献金）とともにイスラームの経済活動の二大原則の一つである。近代的な経済の概念がイスラーム世界に導入されるまでの長い間、イスラーム世界の経済活動では、この利子禁止の原則が貫かれていた。預言者ムハンマドは商人であったし、中世においてイスラーム世界は国際的な商業活動が活発な地域である。この利子禁止の原則は、単なる教理上の空論ではなく、現実の商業活動に裏打ちされたイスラームの経済原理である。
３．19世紀以降イスラーム世界でも経済の近代化が急速に進み、西欧の経済システムが植民地化や近代国家形成の過程で積極的に導入されたが、その間、イスラームの教理に照らし合わせて近代経済のシステムを吟味する時問や余裕はなく近代経済はイスラームとは全く別の領域で発展した。
４．利子が何の問題もなくまかり通っている現実の銀行運営を正当化し、それをイスラームの教えから逸脱していないとする解釈の試みもみられた。たとえば、リバーの解釈を狭くして、これに当たるのは不当な高率の利子のみをさし、借り手を窮地に追いやるほどの高利でない限り、通常の利子はリバーにあたらないというものなどである。また場合によっては、福利の利子はだめだが、単利は合法とする例もある。
５．1970年代後半から始まるイスラーム復興の流れの中で、イスラーム教徒の中からこの利子ベースの銀行運営がイスラームの教えから逸脱するとして、これに代わるイスラーム独白の銀行運営をやるべきという気運が高まった。
６．イスラームが利子を禁止する理由は、富の源は人間の労働にあると考えるからである。富みは、頭脳と身体を使い、リスクを負って労働してはじめて得られるのであり、労働を媒介とせず、単に金銭を貯えることで富を増幅することはできないという原則に基づく。イスラームにおいては、通貨自体には価値を認めず、単に交換の手段であり物の価値の物差しであるにすぎない。
７．イスラームは商業活動については強く奨励している。この「労働」を通して富を貯えることはいとわない。したがって、通常利子にあたるものは、なんらかの商業活動を通すことで合法となる。
８．現在のイスラーム銀行での資金の運用は、伝統的なイスラーム地域での商業活動での多くの手段で、原則的には利益と損失の共有という概念に基づいて行われている。とくに重要なのが「ムラーババ」「イジャーラ」などの方法である。
９．「ムダーラバ」はパートナシップという意味で、預金者は銀行とパートナーシップを組んで契約を結び、銀行が投資によって得た利益に応じて預金者は分配を受け取るという方法である。銀行が利益を得なかった場合分配はないが、通常元本は保証されることが多い。
「ムラーバハ」は転売を意味し、銀行が顧客へ貸し付けをおこなうときの方法で、銀行は顧客に代わって商品を購買し、それに手数料を上乗せして顧客に転売する方法である。銀行は商品そのものの取引には関与しないが、商品の所有権は有する。「イジャーラ」は、銀行が資本財などを顧客にリースをしたり、また分割払いによって最終的にそれを売却する与法である。
１０．イスラーム銀行には、このような利子禁止の原則に基づく運営の他に、モラルや価値観を持ら込むようために、イスラームの規範やモラルに基づく運営をおこなう特徴がある。イスラームの教えにはずれる行為を避け、イスラームが奨励する行為を援助する。例えば、酒類、豚、ギャンブルなどに関連する資金の運用はおこなわないが、喜捨（ザカート）のお金を集める口座の開設、マッカへの巡礼を援助すろ寄金の開設などの事業を数多くおこなっている。
１１．イスラーム銀行は、1950年代に登場し、1970年代半ばから石油収入の急増で湾岸諸国を中心に発展した。現在では、200以上のイスラーム銀行が存在し、イスラーム世界のみならず、ヨーロッパやアメリカにも広まっている。その運用資金は総額2000億ドルにのぼると。現在、lMF(国際通貨基金)でもイスラーム銀行のシステムを認め、IMFとイスラーム銀行との協力で、さまざまな基準作りがおこなわれている。
１２．欧米の銀行が、イスラーム銀行の子会社を設立したり、イスラーム教徒を対象としたサービスをおこなっている銀行もある。イランではすべての銀行がイスラーム銀行である。ただし、イスラーム世界の多くの国では、利子を認める一般の銀行が主流になってきた。
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