2011年11月
2011年11月25日
日本社会のすべての元凶は偏差値教育にある 
「大前研一著：訣別−大前研一の新・国家戦略論、朝日新聞出版、2011年11月」の「第二章：混迷の原因はどこにあるか」の「すべての元凶は偏差値教育にあり」はまったく同感である。今の日本の社会の停滞も全てこれに起因していることがうまく説明されている。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１．インターネットや携帯電話の普及で知識の価値が著しく落ちているときに、いまだに文科省は30年前の感覚の指導要領で詰め込もうとしている。指導要領は「すべての質問に答えがある」という前提で考えている。考える力を育まなくてはならないという危機感は文科省からも学校からも、そして家庭、親からも感じられない。
２．アメリカのシリコンバレーには、いといろなカルチャーの人々が世界から集まってくる。日本は、敷かれたレールの上で猛烈にがんばる従来タイプを養成するのか、それともシリコンバレーとの戦闘で通じる知恵、発想、七転八起、型はずれタイプに備える教育をするのかの転換期にある。
３．北欧の教育大国の人々と話をすると、「世界中でリーダーとして活躍できるような人材を育てなければ我々のような小国は食べていけない」という危機感がひしひしと伝わってくる。資源を持たない日本も事情は同じはずなのに、社会全体の危機感は比べ物にならないほど希薄である。本当に危機的なのは、「そこに危機がある」のに危機感が持てないぐらいに日本人の集団的な知性や外界に対する感度が衰えてしまっていることである。
４．答えのない時代に日本の教育・入試システムが適していないという問題を提起したのが、入試問題ネット投稿事件である。偽計業務妨害容疑で逮捕された男子予備校生に「保護観察相当」の意見をつけて京都家裁へ送致した。もちろんカンニングは不正行為だし、予備校生の倫理観は厳しく問われるべきであるが、それ以上の議論が起きなかったのは大新聞の記者たちが従来の偏差値教育への問題意識の欠如のためである。
５．今の若い世代はパソコンや携帯電話などの情報コミュニケーションツールを当たり前のように使いこなして、何かわからないことにぶつかったら、こうしたツールを使って外に知恵や指針を求めるようになっている。企業の研究開発でもマーケティングでもクラウドソーシングが注目され、集合知をいかにうまく使うかが問われている。つまり、わからないときには広く人に聞いて英知を集め、そこから自分がどう判断して行動するかが21世紀の答えがない世界における重要なスキルである。
６．大前研一氏が経営しているビジネス・ブレークスルー大学（BBT）では、携帯でカンニングしたとして逮捕された仙台市の予備校生が希望する場合、BBT大学の入学試験に受け入れることを経営学部の教授会で決定した。マークシートで採点の手間を省くような試験は欧米先進国にはない。
７．試験場で英単語を携帯電話で検索した受験生が他にもいるかもしれない。インターネット上で証拠が残るところに出したものだけが罰せられる、ということは公平の議論からも疑問である。更に、大学の入学者の約3分の1は推薦入学だが、高校で推薦枠を取るに当たって、本人の実力だけではなく、先生の主観や保護者の働きかけ、など複雑な要因があり、必ずしも公正かつ厳格な判断があったのか、という疑問もある。
８．テレビが普及した1960年代に評論家の大宅壮一は「一億総白痴化」と評したが、テレビのワイドショーではキャスターに学者や文化人やタレントが入り交じって時流や時局を評論し、無責任な評論をまき散らしている。
９．震災後、ユーチューブにアップした大前氏の番組の視聴回数が1カ月で200万回以上に達した。寄せられたコメントも好意的な内容のものが圧倒的に多かった。政府や東京電力の主催者側発表に「これはあまりにおかしい。何か隠している」と疑念を抱いている。政府や東電にとって都合のいい情報ばかりがテレビ、大新聞で報道されていることに多くの日本人が気づいている。
１０．国民が既存のマスコミよりもユーチューブのようなソーシャルメディアを情報源として活用するようになるのは政府にとっては決して好ましくない。利用者同士が直接つながって情報を発信し合うネット社会では一方的な情報統制、情報操作がしにくくなる。アメリカや韓国ではすでに選挙におけるネットの力が実証されているが、日本ではまだまだ発展途上である。今後、日本でもネットの利用者が増えていけば「知の衰退」「考えない人間」から反転することは可能である。
訣別―大前研一の新・国家戦略論
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１．インターネットや携帯電話の普及で知識の価値が著しく落ちているときに、いまだに文科省は30年前の感覚の指導要領で詰め込もうとしている。指導要領は「すべての質問に答えがある」という前提で考えている。考える力を育まなくてはならないという危機感は文科省からも学校からも、そして家庭、親からも感じられない。
２．アメリカのシリコンバレーには、いといろなカルチャーの人々が世界から集まってくる。日本は、敷かれたレールの上で猛烈にがんばる従来タイプを養成するのか、それともシリコンバレーとの戦闘で通じる知恵、発想、七転八起、型はずれタイプに備える教育をするのかの転換期にある。
３．北欧の教育大国の人々と話をすると、「世界中でリーダーとして活躍できるような人材を育てなければ我々のような小国は食べていけない」という危機感がひしひしと伝わってくる。資源を持たない日本も事情は同じはずなのに、社会全体の危機感は比べ物にならないほど希薄である。本当に危機的なのは、「そこに危機がある」のに危機感が持てないぐらいに日本人の集団的な知性や外界に対する感度が衰えてしまっていることである。
４．答えのない時代に日本の教育・入試システムが適していないという問題を提起したのが、入試問題ネット投稿事件である。偽計業務妨害容疑で逮捕された男子予備校生に「保護観察相当」の意見をつけて京都家裁へ送致した。もちろんカンニングは不正行為だし、予備校生の倫理観は厳しく問われるべきであるが、それ以上の議論が起きなかったのは大新聞の記者たちが従来の偏差値教育への問題意識の欠如のためである。
５．今の若い世代はパソコンや携帯電話などの情報コミュニケーションツールを当たり前のように使いこなして、何かわからないことにぶつかったら、こうしたツールを使って外に知恵や指針を求めるようになっている。企業の研究開発でもマーケティングでもクラウドソーシングが注目され、集合知をいかにうまく使うかが問われている。つまり、わからないときには広く人に聞いて英知を集め、そこから自分がどう判断して行動するかが21世紀の答えがない世界における重要なスキルである。
６．大前研一氏が経営しているビジネス・ブレークスルー大学（BBT）では、携帯でカンニングしたとして逮捕された仙台市の予備校生が希望する場合、BBT大学の入学試験に受け入れることを経営学部の教授会で決定した。マークシートで採点の手間を省くような試験は欧米先進国にはない。
７．試験場で英単語を携帯電話で検索した受験生が他にもいるかもしれない。インターネット上で証拠が残るところに出したものだけが罰せられる、ということは公平の議論からも疑問である。更に、大学の入学者の約3分の1は推薦入学だが、高校で推薦枠を取るに当たって、本人の実力だけではなく、先生の主観や保護者の働きかけ、など複雑な要因があり、必ずしも公正かつ厳格な判断があったのか、という疑問もある。
８．テレビが普及した1960年代に評論家の大宅壮一は「一億総白痴化」と評したが、テレビのワイドショーではキャスターに学者や文化人やタレントが入り交じって時流や時局を評論し、無責任な評論をまき散らしている。
９．震災後、ユーチューブにアップした大前氏の番組の視聴回数が1カ月で200万回以上に達した。寄せられたコメントも好意的な内容のものが圧倒的に多かった。政府や東京電力の主催者側発表に「これはあまりにおかしい。何か隠している」と疑念を抱いている。政府や東電にとって都合のいい情報ばかりがテレビ、大新聞で報道されていることに多くの日本人が気づいている。
１０．国民が既存のマスコミよりもユーチューブのようなソーシャルメディアを情報源として活用するようになるのは政府にとっては決して好ましくない。利用者同士が直接つながって情報を発信し合うネット社会では一方的な情報統制、情報操作がしにくくなる。アメリカや韓国ではすでに選挙におけるネットの力が実証されているが、日本ではまだまだ発展途上である。今後、日本でもネットの利用者が増えていけば「知の衰退」「考えない人間」から反転することは可能である。
訣別―大前研一の新・国家戦略論
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2011年11月24日
日本のデモクラシーは革命を経験していない独特のもの
「バーナード・クリック著、添谷育志木、金田耕一訳、デモクラシー、岩波書店、2004年」の著者はイギリス政治学者の重鎮が市民のために書き下ろした入門書と紹介されている。「はじめに」にところで本書の執筆の趣旨が端的に述べられており参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１．「デモクラシー」という言葉の多種多様な用法の中で、実際的な効力を発揮したものの数はそれほど多くはない。価値観と制度の双方の歴史を考察すれば、このことが最もよく理解できる。歴史的アプローチから始めるのには2つの理由がある。
２．１つは、人間が作る制度を理解するためには、それらの制度はなぜ創出され、どのように進化してきたのについて多少なりとも知らなければならない、革命の到来を信じて疑わなかったマルクスでさえ、世界を変革するためにはまず世界を理解しなければならないと述べている(もっとも彼は、変革がどの程度可能か、変革にはどのくらいの時間がかかるかという点については確実に、間違っていた)。
３．もう1つは、それ自体が歴史的である。アメリカ独立革命、フランス革命によってデモクラシーが近代の政治と社会に浸透しはじめたとき、革命の指導者たちは歴史を振り返り、ギリシア・ローマの先例にならった。指導者たちが採用したペンネームは読者に、彼らがどのような立場から発言しようとしているかを暗示していた。たとえば「ブルートゥス」なら、立憲主義的な精神の持ち主である「キケロ」よりもずっと直接的な行動を支持すると見た。
４．何世紀にもわたり、ギリシア都市国家と共和政期ローマを参考にした。かつて成し遂げられたことだから、再び成し遂げられるはずだ、と思った。近代世界のほとんどの政府はデモクラシー的であると自称する必要を感じてはいるが、それらの政府の多くは、「デモクラシー的」という用語がこれまで歴史の上で使われてきた、どれにも当てはまらない事実を認識した。
５．制度的で国制との仕組みとしてのデモクラシーは存在する。指導者を投票で決めることはデモクラシー的な仕組みである。しかし、中世の専政的な教会組織に属していた大勢の修道士たちも、修道院長を選挙で決めた。ヴァイキングの戦士団もまた、族長が出征して死んだ場合には新指導者を選挙で選んだ。ハムレットが死ぬとき、フォーティンブラスをデンマーク国王にするために自分の一票を投じてくれといった。
６．デモクラシー的という言葉は「共和政」「共和主義」の歴史と切り離すことが困難である。ローマの共和主義の伝統は6世紀と7世紀になると甦り、やがてアメリカ革命とフランス革命で復活した。
７．共和主義の伝統では、すべての人間に投票する資格を与えることを否定した。この点で、共和主義は、大多数が考えるデモクラシーではなかった。しかし、ある意昧では、今日、多くの人が漫然と受け容れているデモクラシーよりデモクラシー的だった。市民であるすべての人が公共生活と国家の事柄に積極的に参加することを義務としていたからである。
デモクラシー (〈一冊でわかる〉シリーズ)
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１．「デモクラシー」という言葉の多種多様な用法の中で、実際的な効力を発揮したものの数はそれほど多くはない。価値観と制度の双方の歴史を考察すれば、このことが最もよく理解できる。歴史的アプローチから始めるのには2つの理由がある。
２．１つは、人間が作る制度を理解するためには、それらの制度はなぜ創出され、どのように進化してきたのについて多少なりとも知らなければならない、革命の到来を信じて疑わなかったマルクスでさえ、世界を変革するためにはまず世界を理解しなければならないと述べている(もっとも彼は、変革がどの程度可能か、変革にはどのくらいの時間がかかるかという点については確実に、間違っていた)。
３．もう1つは、それ自体が歴史的である。アメリカ独立革命、フランス革命によってデモクラシーが近代の政治と社会に浸透しはじめたとき、革命の指導者たちは歴史を振り返り、ギリシア・ローマの先例にならった。指導者たちが採用したペンネームは読者に、彼らがどのような立場から発言しようとしているかを暗示していた。たとえば「ブルートゥス」なら、立憲主義的な精神の持ち主である「キケロ」よりもずっと直接的な行動を支持すると見た。
４．何世紀にもわたり、ギリシア都市国家と共和政期ローマを参考にした。かつて成し遂げられたことだから、再び成し遂げられるはずだ、と思った。近代世界のほとんどの政府はデモクラシー的であると自称する必要を感じてはいるが、それらの政府の多くは、「デモクラシー的」という用語がこれまで歴史の上で使われてきた、どれにも当てはまらない事実を認識した。
５．制度的で国制との仕組みとしてのデモクラシーは存在する。指導者を投票で決めることはデモクラシー的な仕組みである。しかし、中世の専政的な教会組織に属していた大勢の修道士たちも、修道院長を選挙で決めた。ヴァイキングの戦士団もまた、族長が出征して死んだ場合には新指導者を選挙で選んだ。ハムレットが死ぬとき、フォーティンブラスをデンマーク国王にするために自分の一票を投じてくれといった。
６．デモクラシー的という言葉は「共和政」「共和主義」の歴史と切り離すことが困難である。ローマの共和主義の伝統は6世紀と7世紀になると甦り、やがてアメリカ革命とフランス革命で復活した。
７．共和主義の伝統では、すべての人間に投票する資格を与えることを否定した。この点で、共和主義は、大多数が考えるデモクラシーではなかった。しかし、ある意昧では、今日、多くの人が漫然と受け容れているデモクラシーよりデモクラシー的だった。市民であるすべての人が公共生活と国家の事柄に積極的に参加することを義務としていたからである。
デモクラシー (〈一冊でわかる〉シリーズ)
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アメリカの戦争による破壊の復興ビジネスは政産軍が一体である。ゼネコンの公共工事の原理は生きつづける。
「内橋克人著：もうひとつの日本は可能だ、光文社、2003年」の「第3章：強さのなかの弱さ」の「アメリカの対極イスラムの思潮」の小節は示唆に富む内容である。復興ビジネスで経済を立て直すという記述は興味を引いた。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１．国防バブルで何とか凌いできたアメリカ経済にとって、次の一手は「復興ビジネス」である。他国を攻撃して破壊し、その復興を自国企業のビジネス・チャンスとする。経済の側面からみると、ここに至る経緯と復興ビジネスは関連している。アメリカ国内の景気維持にはもはや他に方法が見当たらない。
２．アメリカの駆使したイラク「復興」商法は以下の通りである。（１）国際開発庁(USAID)という国防総省に属する政府組織に復興ビジネスの発注権限を集中し、戦争継続中、炎上する油田の消火作業など、軍隊の援護なくしては不可能な事業を、米企業に発注する、（２）軍と産業の一体的展開が、政治との密接な関係で威力を発揮する。チェイニー副大統領が、CEO(最高経営責任者)をつとめていたハリバートンの子会社(KBR＝ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート)がいちはやく国防総省から70億ドルのビジネス・チャンスを得た。（３）イラクを占領する米軍がまず管理・運営に当たった施設、たとえば港湾、道路などをアメリカの民間企業に移譲する、（４）イラク社会でのインフラ復興は一刻も猶予できない緊急課題だと国際開発庁は言い、道路から上下水道、電力施設の修理・復興、配電線網、空港、港湾の復興に至るまで、すべてアメリカのベクテル社に集中・独占発注した。いずれも米英同盟軍が破壊した施設ばかりである。シュルツ元国務長官が総合建設大手企業の役員をつとめている。（５）学校などの教育施設、病院の復旧など、すべて同じ発注方式がとられた。
３．身を賭してイラク攻撃を実行したのはアメリカだ。そのアメリカ企業が優先的に復興事業を獲得して当然と米政府は公言している。総額、1000億ドルとさえいわれる復興ビジネス(そもそもビジネスという言葉に違和感がある)の復興利権はまずアメリカが享受している。
４．国連主導で、という主張は理想論になっている。イラクの石油埋蔵量はサウジアラビアについで世界第2位。1125億バーレルといわれ、世界全体の推定埋蔵量の2%を占める。因みに1位のサウジは25%である。この世界第2位のイラク原油を市場経済のメカニズムのなかに引き出せば、いま国際石油価格決定権を握っているOPEC(石油輸出国機構)体制に揺さぶりをかけることができる、これがアメリカのヨミでもある。
５．ラムズフェルド国防長官は、当初からイラク攻撃の主要目標の一つに「油田の制圧」を掲げてきたことは、よく知られている。アメリカは南部のルメイラ、北部のキルクークという2大油田の確保を至上命題としてきた。これをイラク復興の原資に当てる、というのが、大義名分である。
６．2003年4月、米議会は800億ドル(約9兆6000億円)の補正予算(2003年度会計)を可決、成立させている。戦後処理費用の一部が込められているが、これで巨額の復興費用がまかなえるはずがない。当初からアメリカ政府はイラク復興に要する費用は「関係国からの拠出金」をあてにしている、繰り返してきた。その他はフセイン政権の資産、そしてイラクの石油による収入だといっている。
７．当然ながら、日本にも身の丈にあまる請求書が突きつけられてきた。イラク先制攻撃の大義は大量破壊兵器の隠匿。未来の脅威の除去。それがやがてフセイン政権打倒へと大義は移り変わった。代わって出現したのはアメリカにとって願ってもない巨大ビジネス・チャンスであった。壊してはつくり、つくっては壊すことで肥え太るのはビジネスである。壊すのは政産軍コングロマリットで、再建に当たるのがゼネコンである。国を超え、時代を超え、公共工事の原理は、こうして生きつづける。
もうひとつの日本は可能だ
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１．国防バブルで何とか凌いできたアメリカ経済にとって、次の一手は「復興ビジネス」である。他国を攻撃して破壊し、その復興を自国企業のビジネス・チャンスとする。経済の側面からみると、ここに至る経緯と復興ビジネスは関連している。アメリカ国内の景気維持にはもはや他に方法が見当たらない。
２．アメリカの駆使したイラク「復興」商法は以下の通りである。（１）国際開発庁(USAID)という国防総省に属する政府組織に復興ビジネスの発注権限を集中し、戦争継続中、炎上する油田の消火作業など、軍隊の援護なくしては不可能な事業を、米企業に発注する、（２）軍と産業の一体的展開が、政治との密接な関係で威力を発揮する。チェイニー副大統領が、CEO(最高経営責任者)をつとめていたハリバートンの子会社(KBR＝ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート)がいちはやく国防総省から70億ドルのビジネス・チャンスを得た。（３）イラクを占領する米軍がまず管理・運営に当たった施設、たとえば港湾、道路などをアメリカの民間企業に移譲する、（４）イラク社会でのインフラ復興は一刻も猶予できない緊急課題だと国際開発庁は言い、道路から上下水道、電力施設の修理・復興、配電線網、空港、港湾の復興に至るまで、すべてアメリカのベクテル社に集中・独占発注した。いずれも米英同盟軍が破壊した施設ばかりである。シュルツ元国務長官が総合建設大手企業の役員をつとめている。（５）学校などの教育施設、病院の復旧など、すべて同じ発注方式がとられた。
３．身を賭してイラク攻撃を実行したのはアメリカだ。そのアメリカ企業が優先的に復興事業を獲得して当然と米政府は公言している。総額、1000億ドルとさえいわれる復興ビジネス(そもそもビジネスという言葉に違和感がある)の復興利権はまずアメリカが享受している。
４．国連主導で、という主張は理想論になっている。イラクの石油埋蔵量はサウジアラビアについで世界第2位。1125億バーレルといわれ、世界全体の推定埋蔵量の2%を占める。因みに1位のサウジは25%である。この世界第2位のイラク原油を市場経済のメカニズムのなかに引き出せば、いま国際石油価格決定権を握っているOPEC(石油輸出国機構)体制に揺さぶりをかけることができる、これがアメリカのヨミでもある。
５．ラムズフェルド国防長官は、当初からイラク攻撃の主要目標の一つに「油田の制圧」を掲げてきたことは、よく知られている。アメリカは南部のルメイラ、北部のキルクークという2大油田の確保を至上命題としてきた。これをイラク復興の原資に当てる、というのが、大義名分である。
６．2003年4月、米議会は800億ドル(約9兆6000億円)の補正予算(2003年度会計)を可決、成立させている。戦後処理費用の一部が込められているが、これで巨額の復興費用がまかなえるはずがない。当初からアメリカ政府はイラク復興に要する費用は「関係国からの拠出金」をあてにしている、繰り返してきた。その他はフセイン政権の資産、そしてイラクの石油による収入だといっている。
７．当然ながら、日本にも身の丈にあまる請求書が突きつけられてきた。イラク先制攻撃の大義は大量破壊兵器の隠匿。未来の脅威の除去。それがやがてフセイン政権打倒へと大義は移り変わった。代わって出現したのはアメリカにとって願ってもない巨大ビジネス・チャンスであった。壊してはつくり、つくっては壊すことで肥え太るのはビジネスである。壊すのは政産軍コングロマリットで、再建に当たるのがゼネコンである。国を超え、時代を超え、公共工事の原理は、こうして生きつづける。
もうひとつの日本は可能だ
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シリアやエジプトの群集にデモクラシーにも欠陥があることを理解してもらおう
「バーナード・クリック著、添谷育志木、金田耕一訳、デモクラシー、岩波書店、2004年」の著者はイギリス政治学者の重鎮が市民のために書き下ろした入門書と紹介されている。「はじめに」にところで本書の執筆の趣旨が端的に述べられており参考になる。特に最近のシリアやエジプトのデモの報道を視聴するたびに、指導者達に民主主義の歴史を学んでもらいたい。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１．デモクラシーという言葉には多様な意味がある。プラトン流に言えば、もし本当の意味が一つだけ存在するのなら、それは天上のどこかに大切にしまいこまれており、不幸なことに地上の私たちにはまだ知らされていない。
２．デモクラシーという言葉は、哲学者たちが「本質的に論争的な概念」と呼んできたものであって、どのような社会的、道徳的、政治的実践課題を引き受けるかによって定義自体が違ったものになる。私たちは同一の定義にどうしても合意できない用語である。．そうは言っても、今日その言葉を使わずに暮らすことなどできない。
３．プラトンはもちろん大のデモクラシー嫌いだった。彼にとって知識に対する想像の支配だった。支配を意味するギリシア語はクラトスでありデモスとは「民衆」のことだった。多くの古代や近代の著作家たちはデモスを軽蔑していた。端的に烏合の衆、自己中心的で、気まぐれで、無定見な獣としての多数者という意味だった。
４．プラトンの弟子であるアリストテレスはもっと柔軟な見解をとったが、彼にとってもデモクラシーは、善き統治の必要条件ではあったが、十分条件というにはほど遠いものだった。正義や善き統治について語ろうとすれば、多種多様な概念や価値観、複雑な組み合わせについて語ることになるが、それがいつも同じ形をとるものではない。
５．ビアトリス・ウェッブがかつて「デモクラシーは無知な大衆の意見の寄せ集めなどではない」と述べたが、それはデモクラシーを否定するより、デモクラシーの増長をたしなめようとしていた。よりいっそうの教育が必要だと主張していただけである。
６．いついかなる場合でも、最善なデモクラシー概念の主張に対しては、眉に唾してかからなければならない。デモクラシーを採用する国々にあっては、各自それぞれに何かを選ばなければならない。しかし、どのように、またどんな理由で選択するかは別問題である。７．本書を読むのは、私たちが「デモクラシー的」と呼ぶ統治システムの中ですでに暮らしている人びとが大半だろう。この言葉がどんなに曖昧であり、どんなに便利に使われたり濫用されたりしているとしても、「デモクラシー的」という言葉を使うのには、それなりの理由がある。
８．新政府が樹立される場合、例えば、第一次大戦後のドイツと日本、旧ソビエト連邦から独立した新共和国、あるいはスコットランド、ウェールズ、北アイルランドのような権限委譲された政府において、デモクラシーのさまざまなシステムの中から自分に合ったものを選択している。このことは、ともかくもデモクラシーこそがいついかなる場合にも最優先の原理だ、という意味ではない。
９．たとえば、その種の会合で、威勢よく、また理路整然と「デモクラシー的学校」を求めて熱弁をふるう出席者に言ってやる。「そもそも学校という制度はデモクラシー的ではない。多くの学校がもっとデモクラシー的になることは必要である。専制政治の見本のような学校も多い」。
デモクラシー (〈一冊でわかる〉シリーズ)
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１．デモクラシーという言葉には多様な意味がある。プラトン流に言えば、もし本当の意味が一つだけ存在するのなら、それは天上のどこかに大切にしまいこまれており、不幸なことに地上の私たちにはまだ知らされていない。
２．デモクラシーという言葉は、哲学者たちが「本質的に論争的な概念」と呼んできたものであって、どのような社会的、道徳的、政治的実践課題を引き受けるかによって定義自体が違ったものになる。私たちは同一の定義にどうしても合意できない用語である。．そうは言っても、今日その言葉を使わずに暮らすことなどできない。
３．プラトンはもちろん大のデモクラシー嫌いだった。彼にとって知識に対する想像の支配だった。支配を意味するギリシア語はクラトスでありデモスとは「民衆」のことだった。多くの古代や近代の著作家たちはデモスを軽蔑していた。端的に烏合の衆、自己中心的で、気まぐれで、無定見な獣としての多数者という意味だった。
４．プラトンの弟子であるアリストテレスはもっと柔軟な見解をとったが、彼にとってもデモクラシーは、善き統治の必要条件ではあったが、十分条件というにはほど遠いものだった。正義や善き統治について語ろうとすれば、多種多様な概念や価値観、複雑な組み合わせについて語ることになるが、それがいつも同じ形をとるものではない。
５．ビアトリス・ウェッブがかつて「デモクラシーは無知な大衆の意見の寄せ集めなどではない」と述べたが、それはデモクラシーを否定するより、デモクラシーの増長をたしなめようとしていた。よりいっそうの教育が必要だと主張していただけである。
６．いついかなる場合でも、最善なデモクラシー概念の主張に対しては、眉に唾してかからなければならない。デモクラシーを採用する国々にあっては、各自それぞれに何かを選ばなければならない。しかし、どのように、またどんな理由で選択するかは別問題である。７．本書を読むのは、私たちが「デモクラシー的」と呼ぶ統治システムの中ですでに暮らしている人びとが大半だろう。この言葉がどんなに曖昧であり、どんなに便利に使われたり濫用されたりしているとしても、「デモクラシー的」という言葉を使うのには、それなりの理由がある。
８．新政府が樹立される場合、例えば、第一次大戦後のドイツと日本、旧ソビエト連邦から独立した新共和国、あるいはスコットランド、ウェールズ、北アイルランドのような権限委譲された政府において、デモクラシーのさまざまなシステムの中から自分に合ったものを選択している。このことは、ともかくもデモクラシーこそがいついかなる場合にも最優先の原理だ、という意味ではない。
９．たとえば、その種の会合で、威勢よく、また理路整然と「デモクラシー的学校」を求めて熱弁をふるう出席者に言ってやる。「そもそも学校という制度はデモクラシー的ではない。多くの学校がもっとデモクラシー的になることは必要である。専制政治の見本のような学校も多い」。
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何の苦労もなく進学したエリートより、社会でもまれて勉強を続けた人のほうが世の中を正しく見る能力がある。偏差値信者の偽エリートは霞ヶ関にも不要の時代
「大前研一著：訣別−大前研一の新・国家戦略論、朝日新聞出版、2011年11月」の「第二章：混迷の原因はどこにあるか」の「すべての元凶は偏差値教育にあり」はまったく同感である。前回の紹介の続きである。今の官僚の無能ぶりも全てこれに起因していることがうまく説明されている。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１．自分のやりたいことを見つけ、どうしたらできるかを考え、そのためにひたすら努力し続ける。勝ち組になるための法則というのは実にシンプルで、この組み合わせしかない。戦後の大経営者は皆、この法則に忠実だった。天下り官僚が社長になると、会社がおかしくなる。高校を中退して偏差値教育から外れたソフトバンクの孫正義社長のようなタイプのほうが、目標を定めると努力を惜しまないので会社が成長する。
２．今の40代を中心とした偏差値世代と話をしていて感じるのは、非常に従順で小市民的である。役人の悪口を言うと、彼らの反論は、大前さんは簡単に批判しますけど、私の学校で一番優秀だったヤツが役所に行っているんですから、そうそう間違えるわけがありませんよ」である。これが偏差値世代に特徴的な思い込みである。何の苦労もなく進学、就職したエリートより、卒業後も社会でもまれてコツコツと勉強を続けてきた凡人のほうが世の中を見る目は養われている。子どものころから「偏差値が高い＝頭がいい」と植えつけられているからその発想から抜け出せない。
３．周りの同級生を見渡せば、自分より偏差値の高い人間が役所に入り、マスコミで仕事をしている。だから役所はヘマをしないし、新聞やテレビが言っていることは正しいに違いない。何事も偏差値の高い人間が解決してくれるから、自分たちは何も考えなくていい。偏差値教育が日本人の思考する習慣を奪ってしまった。
４．ノルウェーやデンマークなど国際的な学力調査で上位を占める北欧の国々では、すべての人に無限の可能性があるという教育を施している。極端な発想をする子がいても「キミの考えは素晴らしい。もう少し発展させるとどうなるか、明日までに考えておいで」と指導される。100人いたら、100通りの答えがあるいう教育だ。
５．デンマークでは、1990年代の教育改革で「教える」という概念を教室から追放した。教室に25人の生徒がいたら25通りの答えがあって当たり前とし、議論して1つの意見が正しいという結論に至れば、それはそれでよしとする。子どもたちはその過程でリーダーシップやチームワークややる気を「習得する」していく。生徒の「l習得する」を手助けするのが教師の役割であり、彼らは「先生」ではなく、「進行役」と呼ばれている。
６．日本では教師が文部科学省の作った学習指導要領に沿って答えを教える。用意した答えでないと「それは間違っている」と指導され、答えをきちんと覚えたかどうかをテストでチェックされる。その上、偏差値で序列をつけられるのだから、自由な発想力や決断力は伸びようもない。この繰り返しが、自分では何も「考えない」人間を作り出してきた。
７．答えや手本がある20世紀型の工業化社会はそれでよかった。均質で機械的に動ける、考えない人間が大量に必要だったからである。今や答えがあるものに関してはインターネットで検索すれば即座に誰でもわかる。答えのない問題に取り組むことに重きが置かれる時代に突入している。
８．答えのない時代に必要なのは考える力であり、決断力や判断力、そして行動力である。世の中に出たら100%の正解などない。たとえば今、日本円で貯金すべきか、ドルで貯金すべきか、ユーロで貯金すべきか、正しい答えはわからない。しかし情報を集めて判断することはできる。あらゆる情報をもとに、総合的な判断ができるかどうか。それが社会に出て、世界に飛び出して必要とされる能力である。答えがない世界で果敢にチャレンジできる人材を育てることが教育に求められている。ゆとり教育を見直して授業時間を増やしても、それは過去の詰め込み教育への回帰でしかない。それで取り戻せる学力があるとすれば、かつての工業化社会に適応した能力に過ぎない。そんな人間は中国やインドに日本の何十倍もいるし、給料も10分の1でやる気満々の連中が沢山いる。日本の従来の学校教育にそぐわなかった人間を昔の偏差値教育で再教育しても日本に将来はない。
訣別―大前研一の新・国家戦略論
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１．自分のやりたいことを見つけ、どうしたらできるかを考え、そのためにひたすら努力し続ける。勝ち組になるための法則というのは実にシンプルで、この組み合わせしかない。戦後の大経営者は皆、この法則に忠実だった。天下り官僚が社長になると、会社がおかしくなる。高校を中退して偏差値教育から外れたソフトバンクの孫正義社長のようなタイプのほうが、目標を定めると努力を惜しまないので会社が成長する。
２．今の40代を中心とした偏差値世代と話をしていて感じるのは、非常に従順で小市民的である。役人の悪口を言うと、彼らの反論は、大前さんは簡単に批判しますけど、私の学校で一番優秀だったヤツが役所に行っているんですから、そうそう間違えるわけがありませんよ」である。これが偏差値世代に特徴的な思い込みである。何の苦労もなく進学、就職したエリートより、卒業後も社会でもまれてコツコツと勉強を続けてきた凡人のほうが世の中を見る目は養われている。子どものころから「偏差値が高い＝頭がいい」と植えつけられているからその発想から抜け出せない。
３．周りの同級生を見渡せば、自分より偏差値の高い人間が役所に入り、マスコミで仕事をしている。だから役所はヘマをしないし、新聞やテレビが言っていることは正しいに違いない。何事も偏差値の高い人間が解決してくれるから、自分たちは何も考えなくていい。偏差値教育が日本人の思考する習慣を奪ってしまった。
４．ノルウェーやデンマークなど国際的な学力調査で上位を占める北欧の国々では、すべての人に無限の可能性があるという教育を施している。極端な発想をする子がいても「キミの考えは素晴らしい。もう少し発展させるとどうなるか、明日までに考えておいで」と指導される。100人いたら、100通りの答えがあるいう教育だ。
５．デンマークでは、1990年代の教育改革で「教える」という概念を教室から追放した。教室に25人の生徒がいたら25通りの答えがあって当たり前とし、議論して1つの意見が正しいという結論に至れば、それはそれでよしとする。子どもたちはその過程でリーダーシップやチームワークややる気を「習得する」していく。生徒の「l習得する」を手助けするのが教師の役割であり、彼らは「先生」ではなく、「進行役」と呼ばれている。
６．日本では教師が文部科学省の作った学習指導要領に沿って答えを教える。用意した答えでないと「それは間違っている」と指導され、答えをきちんと覚えたかどうかをテストでチェックされる。その上、偏差値で序列をつけられるのだから、自由な発想力や決断力は伸びようもない。この繰り返しが、自分では何も「考えない」人間を作り出してきた。
７．答えや手本がある20世紀型の工業化社会はそれでよかった。均質で機械的に動ける、考えない人間が大量に必要だったからである。今や答えがあるものに関してはインターネットで検索すれば即座に誰でもわかる。答えのない問題に取り組むことに重きが置かれる時代に突入している。
８．答えのない時代に必要なのは考える力であり、決断力や判断力、そして行動力である。世の中に出たら100%の正解などない。たとえば今、日本円で貯金すべきか、ドルで貯金すべきか、ユーロで貯金すべきか、正しい答えはわからない。しかし情報を集めて判断することはできる。あらゆる情報をもとに、総合的な判断ができるかどうか。それが社会に出て、世界に飛び出して必要とされる能力である。答えがない世界で果敢にチャレンジできる人材を育てることが教育に求められている。ゆとり教育を見直して授業時間を増やしても、それは過去の詰め込み教育への回帰でしかない。それで取り戻せる学力があるとすれば、かつての工業化社会に適応した能力に過ぎない。そんな人間は中国やインドに日本の何十倍もいるし、給料も10分の1でやる気満々の連中が沢山いる。日本の従来の学校教育にそぐわなかった人間を昔の偏差値教育で再教育しても日本に将来はない。
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