2006年04月29日
わが国の放射性廃棄物処理方法に見られる疑問
柴田俊一氏の新・原子炉お節介学入門には実際に研究用原子炉(KUR:Kyoto University Reactor)を設計し、設置し、自ら運転した経験を元に、原子力の安全問題について具体的な事例で明快に記述されており、評論家やジャーナリストの著書にはない新鮮な知見が盛り沢山である。使用済み核燃料などの放射性廃棄物も物理的には放射性同位元素の集まりであり、自然界にもラジウム温泉とか身近にあるものもある。日本の原子力施設で出てきたものは「原子炉により汚染されたもの」となり「放射性廃棄物」というレッテルが貼られる。放射性同位元素の場合、量とか濃度が一定の値よりも小さくなれば自然界に存在するものと区別がつかないので規制の対象にならないが、「放射性廃棄物」となると、作業着や手袋も含めて、放射線の強さ、量に関係なく日本では厳重に管理される。ヨーロッパではスレート張りのような簡単な構造のものもるが、その方が、青森県にある分厚いコンクリートの宮殿のような処理施設よりも、物事の理屈にかなった、長い経験と技術に基づく安全な施設なのだと専門家からみると逆に信頼感が生まれてくるそうである。日本では地域産業の活性化とか地域の雇用促進とのお題目で、行政と政治家の間で決められた施設は外国からみると異様に見えるらしい。柴田氏が現場を見学したときにも、雇用促進で働いている作業者の口からも、「ここまでしなければならないのか?」という声が聞かれたそうである。一部の御用学者、あるいは逆に地域住民の反対運動を先導する学者も巻き込んだ落しどころというか、ポーズということであれば、それはあまりにも大きな無駄である。自然科学、物理学をきちんと理解して施設の意義を海外でも堂々とPRし議論できるようにすることが重要である。
新・原子炉お節介学入門
新・原子炉お節介学入門