2010年07月27日

最終的には民主主義が効率のよい社会システムであろう? 3

「フランシス・フクヤマ著、渡部昇一訳:歴史の終わり(中)、1992年」は少し古い本であるが、現在の大きなテーマであり面白いので、既に2回紹介した。著者は日系3世でハーバード大学ソ連外交で政治学博士を取得している哲学者である。「第2部:幻想のうちに崩壊した”自由の王国”:ヘーゲルの予言はなぜマルクスより正確だったのか」の「6章:民主主義の弱点・権威主義の美点」の「新たな利益団体を制御するための最良の道具」も今の日本の政治が直面している課題ではあるが、政治とは元来、これが主たるテーマである。印象に残る部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.工業化の進展がりベラルな民主主義を生み出す理由として決定的なものは見つからない。その理由の一つは、現代経済が生み出す複雑に入り組んだ利害対立の調停役は民主主義しかないいという機能面からの議論である。この見解をもっとも強く主張しているのはタルコット・バーソンズで、彼は民主主義というものはあらゆる社会の「進化発展する普遍的特性」だと考えた。
2.民主主義という形態を普遍的だと見なすめ根本的な理由がある。それは、社会がより大きく、より複雑になるにつれ、行政能力の面はもとより、とくに普遍的な法秩序を支えるという面で、効率的な政治組織というものがいっそう重要になってくる。民主主義と根本的に相容れない組織では、特定の個人や集団による権力や権威の執行において、また、一致協力すべき政策決定の際に、うまく世論の合意を取りつけることはできない。
3.バーソンズの主張を少し言い換えれば、工業化の過程で形成され、急速にその数を増していく利益団体を制御するための最良の道具が民主主義だ、ということになる。工業化の途上であらわれる、まったく新顔の社会集団について考えると、労働者階級は、工業と職業の専門化につれて、ますます格差がひどくなっていく。新しい管理者層にとっての利害は、トップマネジメントの利害、あるいは国レベル、地域や地方レベルの政府官僚のそれとは必ずしも一致しない。海外から押し寄せる移住者は、入国が合法か不法かを問わず、先進国の開かれた労働市場から利益を得ようとする。
4.パーソンズの論でいえば、こうした状況のもとでも、民主主義はそのすぐれた順応性で大きな力を発揮する。政治に参加するための間口を広く開けておけぼ、新しい社会集団や利益団体も自己の立場を表明でき、政治的なコンセンサスづくりに加わっていけるようになる。
5.独裁主義の場含でも、1868年の明治維新以降の日本を支配した腐敗していない官僚政治のように、社会変化に適応することはできるし、ときには民主主義よりその対応が機敏だったりもする。しかし、歴史はその正反対の例にも満ちあふれている。プロシアの地主貴族やアルゼンチンの特権地主のように偏屈な支配階級、経済発展の結果として自分たちの鼻先で起きている社会変化にも、ただ手をこまねいていた。
6.民主主義は、バーソンズの主張によれば、独裁よりも機能性が高い。それは、新たに登場した社会集団のあいだに持ち上がる対立の多くが、法体系の内部、あるいは政治システムの内部で解決されなければならないからである。市場の力だけでは、生産基盤への公共投資の適正規摸や対象は決められないし、労働争議の解決とか、航空運輸規制の限度、職場における健康面や安全性の基準などについて法規を定めることもできない。これらはどれもある程度まで価値観にまつわる問題であり、政治システムとのかかわりは避けられない。
7.もしも、その政治システムが利害対立を公正に、しかも経済分野の主たる構成員すべての賛同を得られるような形で裁くなら、このシステムは民主王義的である。独裁のもとでも経済効率という名目でこうした対立を解決することは可能だが、現代経済をスムーズに運営するには、やはり相互に依存し合っている社会各層の協力・協調の気持ちが大切である。彼らが、対立の載き役を正当なものと認めなかったり、政治システムへの信頼度がなければ、そのシステム全体をスムーズに機能させることができない。
(現代は、工業化が終わり、情報化の時代になり、新しい利益集団が形成されている。彼らも含めた経済社会の利益配分を適正にするために、これまでの工業化社会の労働者層はこの変化を自覚し、情報分野に過度に流れる利益を取り返す努力が不可欠な時代になっている)

歴史の終わり〈上〉
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yuji5327 at 06:44トラックバック(0) 
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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
・読売奨励賞受賞
・読売新聞社賞受賞
〇日展入選有

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