2010年09月01日

日本経済の復活は日本人の労働倫理にかかっている 3

「フランシス・フクヤマ著、渡部昇一訳:歴史の終わり(下)、1992年」の著者は日系3世でハーバード大学ソ連外交で政治学博士を取得している哲学者であることは当ブログでも何度か紹介している。今の世界の特に経済情勢を20年前に既に予測しているような洞察力には読むたびに感心させられる。アメリカでベストセラーになったと言われる理由も分かってくる。第4部 脱歴史世界と歴史世界歴史の中で特異の位置を占める日本人の「労働倫理」は、へーゲルの言う労働が本質、人間の真の本質に近いということで興味を引いた。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.工業化の進展と民主主義とのあいだに強い相関関係があるとすれば、ある国が長期間にわたって経済的に発展していく能力をもつことが、その国が自由な社会を作り上げ維持していくためにきわめて重要なことだと思われる。だが現在、もっとも成功を収めている経済が資本主義でも、資本主義経済が全て成功を収めているわけではない。
2.形式のうえでは民主主義を採用している国々でも民主主義の維持能力にはっきりとした違いがあるのと同様、形式のうえで資本主義経済を採用している国々もその成長能力には明らかに差がある。
3.国民の富の格差をもたらす第一の原因は政府の政策が賢明か愚劣かということにあり、また、いったん誤った政策の強制から免れ得た人間の経済活動は、多かれ少なかれ普遍的な力をもつというのがアダム・スミスの考え方だった。資本主義諸国のあいだの業績の差の多くは、事実上、政府の政策の違いに帰することができる。
4.かねてから指摘されていたように、ラテンアメリカで表向き資本主義経済の形態をとっている国々の多くは、じつのところ重商主義(16,7世紀にヨーロッパ諸国がとった、貿易により国を豊かにしようとした経済政策)の奇形的産物である。そこでは長年にわたる国家の干渉が効率を低下させ、企業家精神を押し殺してきた。反対に、第二次世界大戦後の東アジアの経済的成功の最大の原因は、この地域が競合する国内市場の維持というような賢明な経済政策をとったことにある。政府の政策がいかに重要かは、スペインや韓国、メキシコのような国が市場を開放して急発展をとげ、一方でアルゼンチンのような国が産業を国有化して経済崩壊を招いたことに端的にあらわれている。
5.経済にとって政策の違いは些細な問題であって、むしろ文化のほうが安定した民主主義を維持する国民の能力を左右するのと同様に、経済活動にもある決定的な影響を及ぼすと思われがちである。このことは何よりも労働に対する考え方にもっともよく示されている。労働は、ヘーゲルによれば人間の本質である。自然の世界を人間の暮らしやすい世界に変えることによって人類史を作り上げるのは働く奴隷である。少数の怠惰な主君をのぞいて、すべての人間は労働をする。それでいながら人間の労働の様式や程度にはとてつもない違いがある。こうした違いは伝統的に「労働倫理」という題目のもとで論じられてきた。
6.今日の世界では、「国民性」について語ることはあまり歓迎されない。一民族の倫理的な習慣についての一般論の是非は科学的に測定できず、それが逸話まがいの根拠にもとついていることが多い。国民性の一般化は、われわれの時代の相対主義や平等主義の風潮に反することでもある。そのわけは、文化の相対的な価値について暗黙の価値判断がされているからである。自分の国の文化が怠惰と不誠実を助長するなどといわれて喜ぶ人間はいない。しかし実際には、そのような価値判断が結構広くまかり通ったりしている。
7.外国生活や海外旅行の経験のある人なら誰でも、労働に対する考え方はその国々の文化に決定的に左右されるということを認めざるを得ないと思う。こうした相違は、たとえばマレーシア、インド、あるいはアメリカなど、多民族社会における相対的な経済活動様式から、ある程度は経験的に推し量ることができる。
8.ヨーロッパにおけるユダヤ人、中東におけるギリシア人やアルメニア人、東南アジアにおける中国人のような特定の民族集団による卓越した経済活動はよく知られている。トマス・ソーウェルの指摘によれば、アメリカでは、西インド諸島から自発的に移民してきた黒人の子孫と、直接アフリカから奴隷として連れてこられた黒人の子孫とのあいだには、教育や収入に明確な格差がある。こうした格差は、経済的な能力がたんに経済活動の機会の有無といった環境上の条件だけでなく、当の民族集団の文化それ自体にもかかわっていることを示している。
9.欲望よりは自分の「気概」を満足させるために働く人間が登場し、さまざまな文化における労働への向き合い方で、一人当たりの収入というような尺度以上に、多くの微妙な違いがある。たとえば、第二次世界大戦時におけるイギリスの科学的諜報活動の創始者の一人であるR・V・ジョーンズの話が参考になる。
10.R・V・ジョーンズは、戦争初期にイギリスがドイツのレーダー機器を無傷のまま入手し本国に持ち帰った。当時イギリスはすでにレーダーを開発しており、技術的にはドイツよりずっと進んでいたが、それでもドイツ製レーダーは驚くほど優秀だった。その理由は、ドイツのアンテナがイギリスの製品より精度の面ですぐれていたからである。高度に熟練した工業技術の伝統の維持という点で、ドイツが長期間にわたりヨーロッパの隣国をはるかにしのいできたことは同国の自動車や工作機械産業を見ればいまでも明らかである。
(これからの日本人の労働倫理がこのまま続くという保障はない。何百年の歴史の中で培われてきたものだから簡単には変わらないという見方と、インターネット時代のグローバルな時代だから変化していくという見方があると思う。今後の日本経済におけるGDPが中国を再度ぬき返すことができるかどうかは、日本人の労働倫理にかかってているとも言える)





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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
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