2011年01月25日

日本の大手ジャーナリズムの堕落の歴史 3

「小室直樹著:日本の敗因・・歴史は勝つために学ぶ、2000年、講談社」の著者は、今年9月4日に亡くなった。その言動から奇人と評されることが多いが、その思想・学説は会津高校から京都大学に進学し、数学、物理学も専攻した経歴もあり、社会の現象を含めて全て原理、原則に基づいて分析していた。その著作活動や言動に身近に接していた人の話では、命がけの取材と凄まじいほどの洞察力に誰もが敬服している。本書の「第6章戦後も脈々と続く敗戦のシステム」の「アメリカの走狗となったマスコミ」は、今の大手マスコミを見ていて思い当たることも多く参考になる。
印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.終戦直後、日本人の天皇の軍隊への信頼と尊敬の念を断ち切るというアメリカの目論見を知ってか知らずか、見事に加担してしまったのが、日本の大手マスコミである。占領軍は、昭和20年(1945年)8月28日に上陸し、9月15日には日比谷の第一生命ビルにGHQ(連合軍総司令部)を設置した。
2.GHQ民間検閲部長ドナルド・フーバー大佐は、各マスコミのトップ達を召還して言った。「戦争に敗けた日本は、文明国と同等の権利を認められていない。諸君が呼ばれたのは、検閲命令を受けるためである」。この一喝で、日本の大手ジャーナリストは、縮み上がってしまった。戦時中、日本のマスコミ、とくに大新聞とNHKは全力をあげて、戦争に協力した。軍部に迎合するというより、みずから進んで、勢いに乗って好戦的空気を作り、軍部と国民よりも先走って、政府を叱咤勉励していた。
3.敗戦で、米軍は、戦犯をきびしく罰するとのことが伝わっていた。マスコミ人の多くも、死刑は免れないと覚悟を決めていた。軽くても懲役は免れないであろうと思っていたが、思いがけなく、米軍は、マスコミを許すといった。ただし、日本人のマインド・コントロールに協力すれば、という条件がついた。アメリカに協力すれば、みんな水に流して許してやるということである。日本の大手マスコミはアメリカの走狗になった。
4.1938年(昭和13年)時点で、日本のマスコミは原稿の削除が読者にわからぬように文章の前後をつなぎ合わせていた。敗戦後も、米軍は、この方法を使うように命じた。また、日本のマスコミの持病である「自己検閲」もすでに、1938年から行われていた。発売直前の校正刷りで、検閲が行われて、ほかの原稿との差し替えが発売まで間に合わなければ損害は大きい。それならばいっそのこと、編集者自身の手で検閲をしたほうが、手間もかからず、安全でもある。当局のおぼえもよくなる。こうして、戦前の日本のマスコミは「自己検閲」という邪道を編み出してしまった。
5.日本は「伝統主義」の国である。日本の大新聞は、日清戦争、日露戦争以来の、民間における戦争の扇動者の伝統を引き継ぎ、政府、議会、国民を教唆扇動した。「開戦の機を逃すな」と、NHKとほとんどの大新聞が、戦争を煽った。沈黙を守っている大新聞は無に等しかった。自己検閲の結果であり、しかもその痕跡は巧みに伏せているから、だれにも「検閲」であるとわからない「完全犯罪」であった。この「完全犯罪」が戦後、米軍によってうけつがれた。そして、みごとに成功を収めた。
6.言論の自由こそ、ジャーナリズムにとって不可欠の前提条件である。これなしでは、ジャーナリズムは、権力の監視という任務を果たせず、存在価値がない。言論の自由の過程を通じて、デモクラシーの精神は育っていくものである。マスコミが言論の自由を放棄して、デモクラシーが育つはずがない。こうして、日本はデモクラシーなき国家へと、突き進んでいった。占領軍が、被占領民の完全なマインド・コントロールに成功したのは、歴史がはじまって以来はじめてのことであるが、日本人は、その事実に気づかぬまま、占領軍の意のままに洗脳された。
7.「アメリカは完令な言論の自由を与えた」という神話は深く浸透していった。この神話のもとで、真のデモクラシーが育たないまま、日本の過去の歴史をすべて悪と教えこみ、日本人の精神的支柱をことごとく破壊してしまった。しかも悲劇的なことに、占領軍が去っても、ジャーナリズムの「自己検閲」は残った。マインド・コントロールの結果も残った。日本は「伝統主義」の国である。それがゆえに、ひとたび確立された「制度」や「しきたり」は、状況が変わり存在理由がなくなっても、依然として生き残っていく。


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1. 言葉を使わない催眠誘導と洗脳法  [ 【洗脳】言葉を使わない催眠術 ]   2011年01月25日 11:59
もしも一切言葉を使うことなく相手を催眠状態に誘導し、相手をあなたの自由に操れる方法があるとしたらあなたも知りたくないですか?
2. 山路は山師!  [ tadadachiのblog ]   2011年01月30日 09:29
池上技術士事務所のブログ:日本の大手ジャーナリズムの堕落の歴史 - livedoor Blog(ブログ)1)  問題の山路徹ボスニア民族紛争報告の結び「ピアニスト」場面を観た。       http: ...
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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
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