2011年01月29日

税と社会保障の一体改革の議論は根本的な部分が抜けている 3

1月28日の大前研一さんの「ニュースの視点」は『混迷する税制改革議論~3つの対立軸で整理すると見える将来の課税対象』は標題の通り分かりやすい。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.枝野官房長官は1月17日、民主党が公約した消費税を財源とする「最低保障年金」の創設に与謝野経済財政担当相が否定的な見解を示したことについて「哲学論争にさえしなければ、調整は充分に可能だ」との見解を示した。
2.与謝野経済財政担当相は21日、公的年金の支給開始年齢について「『人生90年』を前提に定年延長を考えねばならない。それにより年金支給開始年齢の引き上げも考えられる」と指摘した。「人生90年を前提に」とは、与謝野経済財政担当相もよくぞ言った。
3.マスコミでも盛んに取り上げられている税と社会保障の一体改革だが、どの議論も箸にも棒にもかからない。とりわけ消費税について議論されているが、この 議論を進めるならば、もっと根本的な部分から着手しなくてはいけない。
4.「そもそも税とは何か?」という点に立ち返るべきで、具体的には次の「3つの対立軸」について、それぞれゼロベースで議論を進めていくべきである。
1)社会負担方式 VS 税方式:国民負担率を考えた時、現在の日本の租税負担率は25%程度である。加えて、医療・失業保険・年金などが社会負担方式として徴収されている。全部を合わせてみると約42%で、多くの欧州諸国(約50%超が多い)よりやや低い数値になる。失業保険、健康保険なども結局は税金と同じだとすれば、日本も税方式のみで運用することは可能かも知れない。ただし、日本人は世界でも類を見ないほど「増税」を嫌う国民であることを留意するべきである。消費税の導入時、消費税率の3%から5%への引き上げ時のいずれの時も首相が、導入、税率引き上げ後しばらくして退任に追い込まれた。おそらく、現行の5%から10%へ消費税率を引き上げることがあるとしたら、その際にも同じことが起きると思われる。
2)フロー VS ストック:フロー課税というのは「収入(フロー)」に対して課税するもので、法人税・所得税などが代表である。一方のストック課税は「資産(ストック)」に対して課税するものである。不動産税などが分かりやすい例ですが、銀行に預けられている多額の預金も「資産」として課税対象とすることができる。日本のように経済的な成長が鈍化している国は、フロー課税のままでは税率を上げる以外に税収を伸ばす方法がないが、ストックは積み上がってきているので、ストック課税方式を採用する道も考えておくべきである。
3)直接 VS 間接:「所得税」のような直接税方式、あるいは「消費税」のような間接税方式のどちらを用いるのかも議論するべき事項である。例えばストック課税の場合で言えば、日本にある約1500兆円の個人金融資産に対して課税するのが直接税方式である。この場合、資産に対し1%課税するだけで15兆円もの税収が入る。一方、所得や資産の額によって課税額が増減・免除されるのではなく課税対象を広げようとする考え方が間接税方式である。
5.この3つの対立軸について議論をしながら、最終的には社会負担方式と税方式のいずれを採用していくのかを考えなくてはいけない。今の民主党の議論は、「フロー課税による税方式を前提にして」つじつまを合わせようとしているので、年金の原資が足りないなどと嘆く結果になる。抜本的な議論に立ち戻らなければ、全てが小細工に終わってしまう。
6.具体的に3つの対立軸を意識しながら、現在の日本の税制に ついて考える。例えば、年金保険料の税方式と社会保険方式の特徴について見てみると、社会保険方式では個人が拠出した額に応じて支給されるが、税方式では個人での拠出が不要である。また財源の負担者は、社会保険方式の場合には現役世代のみだが、税方式の場合には年金受給対象の高齢世代も消費税などの間接税の形で負担することが可能になる。
7.年金財源にもフローとストックの2つの考え方がある。現在、日本では今年の保険料はその年の保険料で賄っている状態である。一方、ストック課税の方法をとると積立方式になり、事前に積み立てた保険料と運用収入で年金給付を行う。401kなどが典型的な例である。
8.直接税・間接税について言うと、直接税は多くの人が負担できるメリットがある反面、累進性になりやすい特徴がある。実際、日本の税制は世界で最も累進性が高くなっている。一方、間接税は酒税・たばこ税・消費税のように受益者負担のため、資産の額に関わらず消費が同じなら等しい課税額になる。
9.菅首相のような「社会福祉型」を志向する人は、間接税には「逆進性」があるとして所得の低い人には不利だという側面を強調する傾向があるが、この点だけの「損得」で考えても意味はない。場合によっては欧州の国のように、部分的にある特定の食品には税金をかけないという調整をしても良い。
10.こうした税制度全体についての理解をした上で議論をせず、いきなり全てを消費税にシワ寄せしても無駄な議論に終わるだけである。これらを考慮した上で大前氏の結論は著書「新 大前研一レポート」で1993年から提唱しているように、「資産課税にシフトする」ことである。



yuji5327 at 06:37トラックバック(0) 
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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
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