2011年02月22日

ナチスは国民の不満勢力の憎悪感情をあおりドイツ再生のスローガンで社会のさまざまな階層の支持を得た 3

「杉浦敏子著:ハンナ・アーレント、現代書院、2006年」はアメリカの政治思想家:ハンナ・アーレントの思想が分かりやすく解説されている。1906年生まれのドイツ系ユダヤ人で、ナチスの迫害を受けアメリカに亡命した政治思想家で、フッサール、ハイデガー、ヤスパースに学び、実存主義、現象学の影響を受けながらも、一線を画し、思想史上では独自の地位を占めている。自らの迫害体験に基づいて、20世紀を襲った全体主義の脅威を分析し、1951年に『全体主義の起源』という著書がアーレントの政治思想家としての地位を不動のものとしている。続いて『人間の条件』『革命について』『イェルサレムのアイヒマン』などの著作を発表している。「第4章:時代状況」のドイツとナチスの関係の解説が興味深い。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.ドイツのワイマール体制、ワイマール共和政がナチスにとって代わられた理由には、ドイツの戦争の敗北による屈辱感、経済的困窮、帝政の没落への郷愁など、さまざまな不満が渦巻いていたことがある。この不満勢力の受け皿としてのナチスは、既に1933年以前に憎悪感情をあおる宣伝と「民族共同体」によるドイツ再生のスローガンで社会のさまざまな階層の支持を得ていた。
2.この不満勢力は、ボルシェヴイズム(プロレタリア独裁を目指すボルシェビキの思想)への恐怖、「他郷者」(ドイツ的でない者)に対する憎悪、大戦前時代への憧れ、現在の悲惨な状況からの解放という感情を広く持っていた。
3.新しいドイツの再生は、腐敗をもたらした「悪い敵」を絶滅することによってのみ可能とナチスは主張した。ナチスは「利益団体を超える」政党として活動し、多様な社会的要求を国民的刷新という統一的スローガンにまとめあげたため、他のどの政党よりも広範な社会層、特に中間層の支持を得た。
4.ワイマール体制は、共和国としての統合を実現できず、政治的アイデンティティーも創出できなかった。ナチスはこうした時代の人々の行動様式と価値観に難なく付け入った。ドイツ人の国民的結集、内外の重圧からのドイツ国民の解放、特にベルサイユ条約の敗北感からドイツ国民を救い、「大ドイツ」を作り上げる、つまり、ドイツには新しい出発と国民的再生が必要であるという主張は、中問層と農民層を深く捉えた。
5.この中閻層と農民層は、帝政時代の階級秩序の再建を望んでいたわけではない。彼らは左翼の平等主義を払いのける一方で、家柄と財産に基づくエリート主義を嫌悪した。機会均等と自らの資質に基づく新しいエリートが待望された。優秀な人物はそれにふさわしい地位を手に入れるのは当然であるという一方で「寄生虫」「怠け者」「望まれない分子」という負のレッテルを貼られた弱者を排除することが肯定された。
6.ユダヤ人は同化への必死の努力にもかかわらず、どこか「違う」とされ、羨望と裏返しの憎悪の対象になり、ユダヤ人は単に異なっているだけでなく、社会に悪影響を及ぼすという考えがナチスの宣伝によって広まった。ナチスのような狂気じみたユダヤ人迫害が可能だったのは、潜在的な反ユダヤ主義が、既に広範に流布されていたからである。人々はこの新しい国家は国民的利益を促進し、民族に有害な諸勢力を排除することで、しかるべき者にチャンスと地位をもたらすと信じたのである。
7.ナチス体制が最も力を注いだのは世論操作であった。ゲッベルスが率いる宣伝省の目的は能動的宣伝であった。ナチズムを積極的に支持しない人々をテロによって服従させるだけでなく、暗黙の了解や中立的態度のような中問派も許さなかった。宣伝省は国民を一致団結させてナチスの国民革革命のもとに結集させために求められているのは精神的動員であった。
8.メディアや文学、音楽などの芸術も画一化されナチスの方針に沿った世論作りに動員された。ナチスの教義自体は曖昧であったが、国民の一体性、民族共同体が至上の価値であり、盲目の犠牲と完壁な忠誠が要求され、異民族に対する一方的優越感が醸成されていった。中にはナチスの曖昧なイデオロギーを嘲笑し、冷静な態度をとる市民も存在したがマルクス主義の否定、秩序の回復、大量失業の解消、経済の発展、軍事力の再建、外交の勝利(ベルサイユ条約の破棄)、国民的自尊心の再生というナチス党の誇大な宣伝の前に沈黙した。
9.ナチス体制の残忍さや不公正さ、抑圧について批判する者などいなかった。学問の世界でも理性への反逆と生への渇望という心理が濃厚となり、ハイデガーの哲学も新しく生まれ変わりうるという希望を人々に与えた。生の哲学は、現実に悩み苦しむ生を丸ごと問題にする学問にすることが切望され。ワイマール共和国の終期には危機意識が一般化し、「このままではだめだ、一切を変えなければいけない」という言葉が頻繁に使われるようになり、指導者が待望され「共同体」という言葉に深い意味が込められるようになった。
10.このようなドイツ独特の状況は、ドイツの置かれた歴史的位置、つまり近代化の遅れと無縁ではなかった。この状況のもとで生まれたドイツロマン派の思想が、大きな影響を及ぼしている。アーレントはこの思想を批判した。


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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
・読売奨励賞受賞
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