2011年02月26日

ナチスを生んだドイツロマン派の思想の背景 3

「杉浦敏子著:ハンナ・アーレント、現代書院、2006年」はアメリカの政治思想家:ハンナ・アーレントの思想が分かりやすく解説されているので、2月22日に当ブログで紹介した。1906年生まれのドイツ系ユダヤ人で、ナチスの迫害を受けアメリカに亡命した政治思想家で、フッサール、ハイデガー、ヤスパースに学び、実存主義、現象学の影響を受けながらも、一線を画し、思想史上では独自の地位を占めている。自らの迫害体験に基づいて、20世紀を襲った全体主義の脅威を分析し、1951年に『全体主義の起源』という著書がアーレントの政治思想家としての地位を不動のものとしている。続いて『人間の条件』『革命について』『イェルサレムのアイヒマン』などの著作を発表している。「第4章:時代状況」のドイツとナチスの関係の解説について前回紹介した、アーレントが批判したドイツロマン派の思想についての解説で、印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.ドイツロマン派の始まりはフランス革命とナポレオンの登場によるヨーロッパの動乱期である。農民は日々の生活に追われ、都市では手工業者が主流であり、商人や工場主のような豊かな市民は少数派であった。つまりブルジョアジーの勢力は弱く、国家による上からの殖産興業は経済の自律的発展とブルジョアジーの独立心と自由を奪い、国家への依存を引き起こした。
2.ドイツには独立自尊のブルジョアジーが存在せず、社会に封建的勢力を温存したままの急速な近代化が社会にさまざまな歪みを生じさせ、同時にドイツの精神風土に大きな影響をもたらした。この風土の中でドイツロマン派が台頭してきた。彼らの敵は封建的な社会体制ではなく、鋳型にはめ込まれた惰性的な日常であった。
3.この日常への批判が観念的なものとなり、観念の世界で自己展開を図っていくと、この観念は現実世界と遊離して独走してしまった。外界と接点を持たない精神主義は芸術、学問、思想の純粋性と自己目的性を不当に強調し、それと対照的な単なる目的への手段としての政治や経済の軽視に繋がった。
4.精神の貴族性、超俗性の偏重は自己相対化の視点を欠いているために、容易に思想のファナティシズム(熱狂型思想)を招き、生き物として政治と対立していった。政治に関わる事柄は俗事と軽蔑され、妥協と対話が忌避され、観念の中での極限状態が設定され、この中で不毛な二元的対立(聖と俗、日常と非日常のような)が語られた。このような過剰な観念性が、硬直し固定化した精神を生み、「民族」という抽象的概念に依存した「血と大地」という閉鎖的で偏狭な共同体主義を招いた。
5.ドイツのナショナリズムも独特の発展を遂げた。ドイツにはナポレオン戦争の前から、啓蒙主義や進歩思想に対す反感があった。フランスやイギリスに代表されるいわば近代思想は、ドイツにあっては保守的な思想によって押さえ込まれ、変化を忌避することが過去への回帰を招き、遠い昔の価値観や理想を詩的に美化することに繋がっていった。
6.ナポレオンの軍事的勝利は、解放と平等の思想に対するドイツの敗北感を強め、フランスに対する怨恨、フランスがヨーロッパに解き放った思想への嫌悪を呼び覚した。フランス軍に占領されたどの地方でも「人権宣言」の恩恵を受けたのはユダヤ人であり、ドイツの各地方で解放を勝ち取った。
7.フランス軍占領地の一部では、強制的にユダヤ人に平等を与えささせられたことが、ドイツ人の怒りをかった。ナポレオンは同時にドイツ地方の再編成を行い、中世的な自由帝国騎士団の解体を促進させ、フランスの保護下にドイツ諸州連合を作った。ドイツ人たちは帝国という絆を失い、この政治的な現実を超越するような新しいナショナリズムを求めた。
8.自由や平等という自由主義的概念はフランス的であるとして、これを排斥し、ドイツ人を、国内の敵ユダヤ人から区別することによって、ドイツ的独自性を純化しようとした。そして「民族(フォルク)」に特別の意味を与え、その優越性を強調することにより、自らのアイデンティティーを作り上げていった。特にその後の第1次世界大戦の敗北は、ドイツ人が持っていたユダヤ人に対する「背後からの裏切り」という偏執的妄想を刺激し、自分たちの恐れているものを彼らに投影し、自分たちの中で抑圧したい気持ちをユダヤ人に覆いかぶせた。




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池上湖心 プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山に師事
書象会に所属、書象会理事
審査会々員
○作品展の開催
・主宰している「さざ波会」
 作品展を毎年8月開催
(於:稲毛ギャラリー)
・土曜会(グループ展)
 作品展を毎年10月開催
(於:銀座大黒屋)
○公募展の受賞、入選
・日展入選
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 春興賞の受賞:2回
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