2011年12月02日

日本は相対的貧困率が先進30力国中4番目に大きい。米国に次いで格差が大きい国になってしまった。 3

「長妻昭著:招かざる大臣、政と官の新ルール、朝日新聞出版、2011年」の著者の厚労省大臣の任期は367日と約1年間と短期ではあったが、役所文化を変えるべく、数々の改革に着手した。無駄の削減や補正予算の執行停止、基金の返納など厚生労働省だけで1兆2830億円のお金を捻出している。本書の「第7章:未来への提言」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる
1.新しい福祉モデルへの転換が急務なのは、日本の家族の形がひと昔前とは大きく様変わりしているためである。約20年後の2030年には、男性の3人に1人が生涯未婚というデータがある。一生独身ということは家族がいないので、家族という単位で福祉を考えるには限界がある。在宅支援といっても、寄り添う家族がいないひとり暮らしで、自宅で介護や医療を受けて生活するには限界がある。これからは、住宅政策と福祉政策の融合が重要になる。
2.終身雇用、年功序列賃金も続けることはできず、企業が企業年金等で老後を支えてくれる保証もない。「血縁」「地縁」「社縁」の3つの縁がなくなる。夫が働き、妻が専業主婦で子供2人、というモデル世帯も過去のものになった。1997年以降、共働きの世帯が増加し、夫がサラリーマンで妻は専業主婦という、これまで多数派だった世帯を逆転している。
3.大臣在任中の2009年10月に、政府として初めて「相対的貧困率」を発表した。これは1人当たりの可処分所得を高い順に1人ずつ並べた時、真ん中に来る所得額を基準として、その半分に満たない人の割合を示すものであり、格差の大きさを示す指標である。2006年の数字を使うと15・7%だった。これは先進30力国中4番目に格差が大きいことを示している。いまや先進7力国では米国に次いで日本は格差が大きい国になってしまった。
4.これまで政府は、この数値の公表を拒んで来た。なぜなら公表すれば、政府が正式に日本は米国に次ぐ格差社会であることを認めることとなり、社会保障への財政支出圧力が高まる懸念があったからである。政治には現状把握が何より重要である。多くの失政は現状把握を間違えたことで起こっている。長妻氏は役所の反対を押し切って、この深刻な数値の公表に踏み切った。
5.英国の疫学者らが書いた『平等社会』(東洋経済新報社)という本には、大きすぎる格差は、社会全体のリスクとコストを増やすことが実証的に示されている。格差を一定以下に抑えることで、社会のリスクやコストを減らすことができる。先進国の社会保障の関係者が注目している考え方である。
6.中高年の人は、日本は平等で総中流社会というイメージを抱いているが、現実は全く違う。約20年後には、子どもを持っている世帯のうち3世帯に1世帯がひとり親家庭になる。離婚の増加などで父子家庭と母子家庭が大幅に増加し、ひとり親が珍しくない社会になる。日本社会はここまで変貌していくので、新しい形の社会保障が必要になる。
7.日本人は亡くなる直前が最も多くの資産を保有している。年齢層別の1世帯あたりの資産額は、70歳以上が最も多い。英国では55歳以上65歳未満をピークに年齢とともに資産が減っていく。独、仏、米、スウェーデンでも同様で、高齢になれば資産額は下がっている。調査した6力国の中で、資産額が右肩上がりなのは日本だけである。
老後の不安が日本人を貯蓄へ向かわせている。NIRA(総合研究開発機構)によると、推計の方法によっても異なるが、わが国の余剰貯蓄は数10兆円以上に達するという。つまり、一定の社会保障を整備すれば、余剰貯蓄が消費に回り、経済にも良い効果が出ると考えられる。



招かれざる大臣 政と官の新ルール (朝日新書)
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yuji5327 at 06:31トラックバック(1) 
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1. 競争と公平感 市場経済の本当のメリット 3/3 〜規制と経済効果  [ 投資一族のブログ ]   2012年01月10日 21:10
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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
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〇日展入選有

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