2012年05月29日
市場が経済に重要な役割を担っているが、市場が独力で機能しているわけではない。政府には果たすべき役割がある。市場と政府の役割のバランスが必要である。
フリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのか
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「ジョセフ・E・ステイグリッツ著、楡井浩一、峯村利哉訳:フリーフォール、徳間書店、2010年」の序「大不況の震源となったアメリカ型資本主義」は本書で訴えようとすることが端的に記述されている。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.2008年に始まった大不況で、アメリカの、そして全世界の何百万という人が、家と職を失った。それを上回る数の人々が自分もそうなるのではないかという不安や恐怖におびえ、また、退職後の生活や子どもの教育のために蓄財していた人のほとんどが、資産価値の急落を目のあたりにした。
2.アメリカから発した危機はたちまち地球全体に広がって、世界で数千万人、中国だけで2千万人が失業し、数千万人が困窮層に転落した。このような事態は、想定されていなかった。自由市場とグローバル化に信を置く現代経済学は、万人が富み栄えることを約束していた。そして大いに喧伝されたニュー・エコノミーは、規制緩和や金融工学など、20世紀後半を特徴づける驚異的なイノベーションの総称であり、よりすぐれたリスク管理を可能にし、景気循環を消滅させるはずだった。
3.ニュー・エコノミーと現代経済学の組み合わせで、経済の変動を完全になくせないとしても、少なくとも変動の程度を和らげることはできるといわれていたが、大不況が幻想を打ち砕いた。今回の不況は、明らかに80年前の大恐慌以来、最悪の景気下降である。こうなると、長年もてはやされてきた経済観を見直さざるをえない。
4.4半世紀ものあいだ幅をきかせてきたのは、自由市場主義だった。自由な市場は効率的で、もし過失を犯しても、自力で即座に修正する。最良の政府は小さな政府であり、規制はイノベーションを阻害する。中央銀行は独立した機関として、インフレ率を低く保つことにのみ専念すべきである。このような自由市場主義が全盛をきわめた時期に連邦準備制度理事会(FRB)の議長を務めたアラン・グリーンスパンでさえ、今日では、その論法に暇疵があったことを認めている。それは遅きに失した。
5.危機の要因となる失政を導いた考え方、その危機から学び取るべき教訓について本書は述べている。資本主義と共産主義の論争は終わったが、市場経済学には多くの考えかたがあり、激しい論争がある。成功した経済において、市場が重要な役割を担っているが、市場が独力で機能しているわけではない。現代経済学の権威、イギリスのジョン・メイナード・ケインズによれば、政府には果たすべき役割があり、市場に規制を課して、失敗を防ぐこともできる。経済には、市場の役割と政府の役割のバランスをとることが必要である。