2012年06月21日

中世ヨーロッパでは大金持ち、大富豪は、金儲けは悪いことではないのか、神の御心に背いている、と後ろめたさが付きまとっていた。 3

「小室直樹著:論理の方法、東洋経済新報社、2003年」の「第4章マクス・ウェーバーにみる資本主義の精神」の資本主義の歴史は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.資本主義が完成すると利子や利潤は正しいことだと言う考え方になる。ところが中世ヨーロッパではそのような考え方が出てきたことはない。このために大金持ち、大富豪といった人々は、心のどこかに金儲けというのは悪いことではないのか、俺はひょっとしたら神の御心に背いて悪いことをしているのではないか、と後ろめたい惑いが付きまとっていた。
2.南ドイツの金融業者フッガー家は、15世紀から16世紀にかけて、世界の富の10分の1はフッガー家に属するというくらいに物凄い大金持ちであった。そこで世界最初の救済(慈善)事業を盛んにやった。行き倒れの人を救済住宅に収容した。その家賃は驚くほど安い。そこに入れてもらうための条件は何かというと、神様に「どうかフッガー家の人々の魂の救済を」と祈ることだった。あの天才作曲家モーツァルトのおじいさんも行き倒れになってここに救済され、朝晩フッガー家の人々の魂が救われますようにと礼拝堂へ行った。
3.人居者の費用は、殆どタダで、今でも多くは高齢者が当時のままの家に入っている。みんな大変小ぎれいに暮らしていて礼拝を欠かさない。フッガーに限らず、欧米の資本主義が出てくるまでの大富豪の共通の考えのなかには、金儲けはほんとうは何か悪いことをしているという意識が常に容赦なく付きまとっていた。しかし資本主義ではそうではない。金儲けはよいことだと思うようになった。
4.ウェーバーは資本主義の精神を体現した人問として、ロビンソン・クルーソーを挙げている。絶海の孤島にたった一人で漂着し、難破船からいろいろなものを運び上げて、毎日生活のために苦闘し、そのうち一人の蛮人を助けてこれを従僕として暮らし、やがて故郷に帰っていった人間のお話である。
5.この本で描かれているロビンソン・クルーソーは経済学の理論で想定している経済人そのものである。経済人は極めて合理的な行動をとる。この経済人が企業家になれば利潤を最大にする、個人としては効用を最大にするように行動する。歴史的に見ると、こういう人間は資本主義に限って存在し、資本主義より前の社会には存在しない。
6.封建社会では身分によって食事、住居はみんな決まっている。村長より立派な家をつくって住んだら仲間はずれになる。企業の場合も利潤を最大にする行動はとれない。マクス・ウェーバーはロビンソン・クルーソーこそ資本主義のエトスを持った人間だと誉めている。
7.物語の主人公は1632年の生まれで、当時のイギリスはまだまだ冒険商人の活躍した時代であったが、資本主義の精神を持った人々が着々と増え始めていた。主人公の父親はまさにそうした人で、物語の冒頭でロビンソン・クルーソーに次のような訓戒を与えている。人生の不幸を背負っているのは社会の上層と下層のものに限られている。中くらいの生活があらゆる美徳、楽しみの源泉といえる。冒険商人を夢見て船に乗るなどという馬鹿な真似をするかぎり、神様の祝福を受けることは当てにするな。
8.ロビンソン・クルーソーは冒険商人への憧れを抑えられず、船に乗り、そして難破し孤島にたどり着いたロビンソン・クルーソーはまず難破船から必要なものを持ち出し、雨露をしのぐ家をつくり、家の周りの土地を囲い込んで、小麦の種を播く。罠で山羊を捕らえ、飼い、住居に付属して仕事場をつくり、そこで山羊の皮を剥いで日傘や帽子、衣服をつくったりした。
9.彼のこうした行動は極めて合理的、計画的だ。難破船で小麦を見つけて持ち出したときも、それをすべて食べてしまわないで播いて、育てる。山羊を捕えても同じことをする。難破船で金貨を見つけても、絶海の孤島では不要なものとして持ち出さない。船から鉄砲と火薬を見つけてくるが、雨にあたると使えなくなるので分散して保存する。言い換えれば保険をかける行動をとっている。その頃の中産的生産者はこうした「保険をかける」という行動を取り始めており、保険業は19世紀のイギリスで重要な産業となる。
10.彼はまた、孤島で過去を真剣に反省し、父親の訓戒を思い出し、深く神に帰依する。同時に伝統仁義やそれにまつわる非合理性から完全に解放される。著者のデフォーは作家で政治家でもあるが、生涯を通して有能な政治経済担当の新聞記者だった。彼の生きた17世紀の半頃から18世紀前半にかけてのイギリスでは、農村地帯に小さな土地を持ってさまざまな工業生産とりわけ毛織物製造を営んでいた中小の生産者たちが次第に力を付けつつあった。
11.デフォーはこの人たちを熟知していた。彼らは敬慶なプロテスタントであり、禁欲的で労働を何よりも尊ぶ人々だった。また、伝統主義の非合理性から脱却して合理的な行動様式をとり、目的合理性を持った生活を送ろうと努力していた。ロビンソン・クルーソーはそうしたイギリスの背骨となりつつあった中産的生産者層の理念像であり、デフォーは将来イギリス人のあるべき理想の人間像をこの物語のなかで描き出した。


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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
・読売奨励賞受賞
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