2012年11月01日
まず、官僚が持つ予算支配権を政治に取り戻すための予算策定システム改革が必要であり、権益の源泉たる支出の上限を政治決定することが必要である。
ニッポンの踏み絵 官僚支配を駆逐する五つの改革 (幻冬舎新書)
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「玉川徹著:ニッポンの踏み絵、官僚支配を駆逐する五つの改革、幻冬舎、2012年」の著者はテレビ朝日のモーニングバードの「そもそも総研」で知られている。核心をついた解説は並みの解説者と一味ちがう。「年金だけで1000兆円の債務がある」で印象に残った部分を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.オーストラリアに学び、政府支出の総枠を決定する「歳出検討委員会」のような組織を内閣につくり、予算の詳細は官僚に決めさせる仕組みを作る。その際、経済や国民生活への影響を最小限にするために、削ってはいけない予算を歳出検討委員会が決めて官僚に示す。官僚はそれ以外の予算を自ら総枠の範囲内で策定し、内閣の承認を受けるようにする。また政務三役が予算の詳細を策定する際には、「目安箱」のような仕組みを用いて、官僚側による他部署の削減可能予算を聞き取り反映させる。もちろん有効な削減に寄与した官僚には、その貢献を反映する査定を行う人事制度とする。
2.これらの改革が実現すれば、総枠に応じて優先順位の低い事業はなくなっていく。仮に近い将来に増税があっても、無駄な支出が増税の分だけ増えることもない。
3.野田首相は消費税増税に政治生命をかけると意気込んでいた。しかし、今のままの予算策定システムと官僚支配が続くのでは、増税分が国民全体の利益にならない事業へ回される割合が高まるだけである。それでは歳出規模が増えるだけで、プライマリーバランスのギャップ解消をはじめとした財政健全化は、望むべくもない。ただ官僚たちの権益が拡大するだけである。
4.まず、官僚が持つ予算支配権を政治に取り戻すための予算策定システム改革が必要であり、権益の源泉たる支出の上限を政治決定することが必要である。さらに、国民が監視しやすいような指標が必要で、それこそが「公的支出のGDPキャップ制」である。
5.改革の根本は官僚のコントロールである。信頼できる政治家が官僚を制御し、またその政治家を分かりやすい指標で国民が制御する。財政の健全化のためには、官僚が暴走せず国民の利益のために働く仕組みが必要で、その仕組みには、信頼できる政治家の官僚統治が必要である。
6.公的支出全体の上限が決まれば、その上限から国と地方の配分をどうすべきかという議論も始まるし、税と保険料の最適なバランスの議論も始まる。その議論の過程で、消費税の税率論ばかりが国会で話し合われる愚が明らかになる。これからの日本の税の在り方の国民的議論になる。