2013年10月21日
中国では禅宗が多様化していたことから、日本でもそれぞれが伝えた禅宗に違いがあり、一つの宗派を興すまでには至らなかった。
「山折哲雄監修：あなたの知らない道元と曹洞宗、洋泉社、2013年」は難しい宗教の由来、流儀などが分かりやすく解説されている。「第1部：早わかり曹洞宗１、曹洞宗の両祖：高祖・道元と太祖・瑩山」の印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１．黄檗宗は、時代がくだって江戸時代前期の承応三年(1654)に中国・明から招かれた隠元(1592〜1673)によって伝えられた。隠元は中国臨済宗の法灯を嗣ぐ高僧である。明時代の中国臨済宗は、浄土信仰(念仏)を取り入れ、隆盛していた。
２．隠元はそうした新しい禅や仏教儀礼を日本に伝え、大反響を呼んだ。だが隠元の新しい禅は、宋時代の純粋な禅を守る日本の臨済宗には受け入れられず、萬福寺(京都府宇治市)を建立し、独自に黄檗宗として一宗派を興した。隠元は、普茶料理(中国風の精進料理)をはじめ、寺院建築、仏像彫刻、煎茶道など、さまざまな最新の明文化を伝えたことでも知られている。
３．日本に初めて禅を伝えたのは、道昭(629〜700)といわれる。道昭は、大化の改新から8年後の653三年に遣唐使として入唐し、『西遊記』で知られる玄奨三蔵に師事して法相宗を修めた。その後、玄奨のすすめで、中国禅宗第二祖の慧可（えか）の孫弟子にあたる慧満のもとで禅を学んだ。660年頃に帰国した道昭は、飛鳥寺(法興寺または元興寺とも呼ばれる)の境内に禅院を建て、そこで坐禅に没頭したといわれる。
４．道昭が日本に禅を伝えたのちは、最澄(767〜822)が入唐して学んできた円(円教：法華経)・密(密教)・禅(禅宗)・戒(戒律)の四宗を最澄自身が融合して天台宗を開いた。最澄が唐で学んだ禅は、曹洞宗や臨済宗とは別の流れである「北宗禅」だった。天台宗の坐禅は「止観：しかん」と呼ばれる。
５．中国の禅宗は、6世紀初めにインドから禅の教えを伝えた達磨を祖師としている。以降、第五祖の弘忍まで達磨の教えは師僧から弟子へ正確に伝えられた。そして、弘忍の門下から神秀と慧能という弟子が出た。神秀は洛陽や長安といった大都市で禅をひろめ、「北宗禅」と呼ばれた。
６．慧能は、元は弘忍のいた黄梅山の米つき男だったが、弘忍の法灯を嗣いで江西や湖南の山岳で禅修行し、「南宗禅」と呼ばれた。神秀は弟子に恵まれず衰退し、慧能は優れた弟子を多数輩出した。そのため現在の禅宗宗派は、すべて慧能を第6祖とする南宗禅の系統である。
７．慧能の弟子たちはそれぞれ独立して一派を興し、「五家七宗」といわれるように多数の禅宗宗派が成立した。それらは断片的に日本に伝わった。
８．道昭や最澄のほかにも奈良時代から平安時代にかけて禅を取り入れた僧はいるが、いずれも禅を仏道修行の一つ、あるいは仏教教学の一つとして取り入れただけで、禅宗を一宗派として独立させた者はいなかった。また、中国では禅宗が多様化していたことから、日本でもそれぞれが伝えた禅宗に違いがあり、一つの宗派を興すまでには至らなかった。
