2014年01月22日
いまのマスコミには、首相発言や舞台裏の細部を掘り返して、首相の言葉はウソだったと批判的な記事を書くだけの能力がない。
「古賀茂明著:利権の復活、国民のためという詐術」の「第4章 アベノミクス「年収は150万円増えます」」「壮大なる政治ショーと化した医薬品のネット販売」は今の官僚政治の本質をうまく説明している。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1. アベノミクス「第三の矢」の成長戦略の目玉としてぶちあげられた医薬品ネット販売の「全面解禁」である。。2013年6月の成長戦略第三弾スピーチで、安倍総理は「ネットでの取引がこれだけ定着した現代で、対面でもネットでも、とにかく消費者の安全性と利便性を高めるというアプローチが筋です」と熱弁をふるった。
2.これは安倍総理のリーダーシップを示すものでもなんでもない。むしろその浅はかさの象徴のような出来事になった。もともと官邸の官僚と政治家たちが描いた筋書きどおりの結果であり、考え抜かれたシナリオである。
3.安倍総理の「全面解禁」宣言直後に、ネット事業者から「首相の英断に心より感謝いたします」と評価するコメントが出された。これに対して厚生労働省や厚労族議員たちは、全面解禁に声高に抵抗する姿勢を見せはじめる。楽天の三木谷浩史氏らが「抵抗勢力の頑強さを痛感した」と批判すればするほど、マスコミはそれを大々的に取り上げる。いつの間にか、医薬品のネット販売が医療分野の焦点であるかのようなイメージがつくりあげられた。
4.医療分野にはもっと重要なテーマがある。株式会社が病院をもって大きな医療ネットワークをつくれるようにすること、混合診療を解禁すること、レセプトやカルテの電子化をすべての診療所まで義務化すること、など課題は山積している。
5.これら既得権に切り込む改革案については、規制改革会議や産業競争力会議では最初からテーマにさえならなかった。委員の一部からは批判の声があがったが、国民の関心は、対立構図がわかりやすい医薬品のネット販売解禁に吸い寄せられた。マスコミが官僚に完全に操られていた。
6.そうした布石を打ったうえで、最後には「抵抗する官僚と族議員を安倍氏の決断でねじ伏せた」と言って「ネット販売解禁だ!」とぶちあげた。ネット販売に関する厚労省の規制が違法であることは、2013年1月の最高裁判決で決着ずみである。厚労省の規制を無視して販売したところで捕まる心配はない。それなのに、あたかも安倍氏が解禁にもっていったかのような発表をして、マスコミもそれを大きく報じた。
7.副作用リスクが高い25品目については、一定の条件をつけることになったが、言い換えれば、新たに規制を追加するも同然である。決して規制緩和されたのではなく、規制強化されるだけの話である。全面解禁など結果的にウソなのだが、そう見えないようにメディアを巧みに操った。最初に「全面解禁」を宣言し、反対派に「重要25品目除外!」と叫ばせることで、25品目のネット販売を禁止するかどうかがポイントだとした。実際は25品目には条件をつけることになっているので、それによっては認めないことと同じになる。25品目の条件について「大バトル」を見せる、猿芝居も2回目になればマスコミも見抜けるかと思ったが、そうではない。
8.いまのマスコミには、首相発言や舞台裏の細部を掘り返して、首相の言葉はウソだったと批判的な記事を書くだけの能力がない。それを安倍政権は見越したうえで、猿芝居を実行している。マスコミの報道がいかに問題の本質を見落としているかがよくわかる。まるで安倍政権の宣伝機関に成り下がってしまったかのようである。