2014年07月26日

社会全体に、偶然や確率についての理解が薄い。100%安全ではないならば危険ということになると、何でも批判できる。学者もリスクを取るべきである。

原発事故と放射線のリスク学
中西準子
日本評論社
2014-03-14

「中西準子著:原発事故と放射線のリスク学、日本評論社、2014年」の「第3章:福島の「帰還か移住か」を考える・経済学の視点から、対談:飯田泰之vs 中西準子」が面白い。新聞・テレビではお目にかかれない真面目な議論である。
先ず、「原発事故と研究者の責務」という小題の部分の印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.法律だけではなく社会全体に、偶然や確率についての理解が薄い。100%安全ではないならば危険ということになると、何でも批判できる。その結果、批判しかしない人と何の判断材料も出さない人ばかりがメディアで発言することになる。学者もリスクを取るべきである。
2.社会の側もゼロリスク志向、ひとつでも間違えたら許さないという立場だと、学者はなにも言わなくなるし、責任が発生しないような行動しかしない。またはその反対に、リスクのない決定が無いから何に対しても批判するのは簡単である。その結果、「懸念がある」しかない論評しか書かない人がわんさかいる。
3.低線量のLNT(直線しきい値なし)仮説をめぐっても議論になっていることです。LNTは、放射線量がゼロになるまでわずかにでも有害性はあるという考え方である。これまでもいくつか原子力関連の事故があったが、防護の基準がLNTであることはあまり言及されず、厳然とした安全なラインが存在するかのごとく語られてきた。
4.交通事故や病気は確率の問題である。しかし、人は、確率で考えることがなかなかできない。さらに化学物質や放射線のように仮定を置いて考える領域では、よけいにわからなくなってしまう。
化学物質でも仮定として直線近似をとっているケースはたくさんあるが、食品安全委員会はそういう物質はすべて禁止にしてきた。水道水の場合も、国会では「WHOの基準はこうなっている」などと説明するが、誰も「この物質には10万分の1のリスクがある」「この物質は1000分の1のリスク」などとは言わない。WHOの報告書にはすべてこのように数字で表現されているが、日本で「10万分の1のリスクがあるが、許容できるレベルです」と言ったら大騒ぎになる。だから「WHOが決めた通りにしました」で国会を通ってしまう。(日本人の民衆の知的レベルは意外に低い)
5.SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータが公表されなかったことで文科省が批判を浴びたが、その後もそういうデータが発表される流れになっていない。これは、大きな研究費の流れが限られていることの弊害が出ている。(日本では研究費は有名大学など権威に流れるが、研究を真面目に行う研究者に行かない。問題が起きた時に権威ならもみ消してくれるという役人の打算がある)
6.除染のことで著者たちに取材が集中するので、記者の方に「文科省の研究所のほうがデータをたくさん持っていますよ」と言うと、役所の人は全然しゃべらないし、しゃべってもオフレコだからダメなんだ、と言う。もっと不思議なのは、省庁系の独立行政法人の研究所の人たちに、論文に書いていることをテレビで話してくれ、と頼んでも断られる。
7.そもそも何言ってるのか分からないような、せいぜい専門家にしか分からないように書くのが役所ぺーパーの作法である。テレビでは「結論」を言ったことにされる。テレビでしゃべっても彼らは一文の得にもならない。論文は業績になるが、テレビはならない。英語で書けば、ほぼ誰も読まないからノーリスクである。
8.学者には官僚以上に官僚的な人、小役人みたいな人も多い。つつがなく穏便に、白分の意見はグッと抑えてという人が大半である。はっきり意見を言うときは特定省庁の代弁に過ぎなかったりする。大学教授という肩書がすごく大事にされている。親も誇りに思うし、研究者はえらいとみんなが思ってくれる。研究者自身も、民間の組織でデータ解析をするのを断る。
9.学者の世界に生き残るには、自分に迫る危機を予見し、攻撃の材料は研究そのものではなく、朝早く出勤してこないとか、形式犯(作法?)突いてくる。ちょっと危ないかなと思ったら、毎朝きっちり出勤し、テレビでちょっと目立つ発言をしたら、実験室をきれいに掃除しておくとか、ほとんど形式犯への対応(作法、実験ノートなど?)を行う。人の足を引っ張るときは形式犯で来る。
10.放射線影響にしきい値が厳然として「ある」という考え方は直観的にはおかしい。放射線がゼロでなければ、影響が完全に消えることはない。しきい値は理学的に「ある」ものではなくて、社会的に「ここから先は気にしても意味がない」、あるいは統計的に「識別できない」という線である。
11.科学者や放射線の専門家が「100ミリシーベルト以下では影響が見られない」と言うときは、「このサンプル数では疫学的に影響は見られない」と言ってほしい。理学的なしきい値と、社会的なしきい値の区別を簡潔に示せるだけの説明力がないので、我々には「しきい値あり」のような説明になる。社会的なしきい値があるということまで否定してしまうと、自然放射線がある限りは絶対に「安全」にはならない。
12.自然界の関数が特定のポイントで不連続に変化するのは驚くべきことである。低線量についてもある一線で影響が完全に消えるわけではなく、ほぼ無視できる、あるいは日常生活で無数にあるほかのリスクを下回るということで、それは社会的に許容できるリスクなんだということを強調していく必要がある。



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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
・読売奨励賞受賞
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