2015年01月30日
インド総選挙で右派の最大野党・インド人民党(BJP)が圧勝し、政権交代が実現した。「モディノミクス」と呼ばれる経済政策への期待は大きい。
「プラチ・プリヤ(エコノミスト)著:モディノミクスを拒む政治の壁、経済政策・モディ新首相の手腕に期待がかかるが、州政府と協力できなければ改革は不発に終わる」(Newsweek June 17,2014)は参考になる。
1.インド総選挙で右派の最大野党・インド人民党(BJP)が圧勝し、政権交代が実現したのは、同党を率いるナレンドラ・モディに有権者が高い期待を寄せているからである。特に、「モディノミクス」と呼ばれる経済政策への期待は大きい。モディが州首相を務めた西部のグジャラート州は、高い経済成長率を記録してきた。BJPは、モディノミクスこそ、苦しむインド経済に息を吹き返させられる魔法の杖だと印象付けることに成功している。
2.政権交代が決まると、産業界はさっそく、「財界寄り」とされる新首相に要望を突き付け始めた。彼らは手始めに、間接税改革、補助金支出の抑制、金融緩和、停滞している公共事業の推進などを求めている。しかし、モディがグジャラート州時代の経済運営をそのまま国政で再現できると考えるべきではない。中央政府レベルと州レベルでは、政治のメカニズムがまるで違う。新しい首相が魔法のように経済を再生させられると期待すれば、深い失望を味わうことになる。
3.大方のエコノミストは、インド経済の復活には投資家の信頼を取り戻すことが不可欠だとする。そのためにまず、政府のインフラ投資の拡大と、貯蓄率を高めるための税制変更が行われるかもしれない。ほかにも、新政権に期待されていることは多い。国営企業の民営化、国営銀行の資本増強、間接税改革、農業改革、予算総額90億ドルの「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)」の推進、保険・年金分野の外資への開放、製造業振興策のテコ入れなどである。
4.新政権が早い段階で妊印象を与えることに成功すれば、多くの外国資本を呼び込める可能性はある。そのためには、経済だけでなく、「政治」がカギを握る。BJPは、国民会議派主導の政権が続いた10年間を「失われた10年」と呼んできた。しかしモディは、高名な経済学者のマンモハン・シン前首相にできなかったことを成し遂げられるのか。モディの政策は盛りだくさんだが、それをどうやって実行に移すのかははっきりしない。
5.インドの政府権限は、中央政府の管轄事項、州政府の管轄事項、両者が共同で担う事項という3つのカテゴリーに分かれている。土地の権利、公衆衛生、農業、水利、道路、地方行政などは、州政府の管轄。人口抑制、教育、小規模な港湾、電気、一部の基礎的農産物の流通・供給などは、中央政府と州が共同で担うべき事項とされている。
6.こうした政治システムの下で、中央政府の首相が手腕を振るうのは簡単でない。州首相時代のモディはこのシステムの恩恵にあずかっていたが、国の首相となった今は、逆にそれが足かせになりかねない。これまでもたびたび、州政府は中央政府の政策を阻んできた。前政権下では州の抵抗により、インフラプロジェクトの9割が停止してしまった。小売業改革、農業改革、遺伝子組み換え作物の商業化、間接税改革など、多くの政策がストップしている。
7.多くの州政府は、モディに好意的とはとても言えない。新政権はそうした各州政府の協力を得て、これらの政策を推し進めていけるのだろうか。今回のインド総選挙は史上最高となる66・4%の投票率を記録し、30年ぶりに単独政党が絶対過半数の議席を獲得した。しかしその半面、与党となったBJPの得票率は31%にすぎない。一方で、BJPでも国民会議派でもない小政党の得票率が49%に達した。モディは政権運営の安定に向け、さまざまな地域政党に協力と参加を呼び掛けていく必要がある。
8.BJPが選挙で圧勝したことで政治がスピードアップする可能性はあるが、これまで連立政権の中で機能していた「抑制と均衡」が失われる面もある。新政権は政策推進のアクセルとプレーキのバランスを取り、各州の意向を尊重しながら、経済発展を目指すべきである。