2015年05月23日
わが国の一般食品(コメ、野菜など)中の放射性物質に係る基準値は、2012年4月1日から、暫定基準値の500ベクレル/キログラムから100ベクレル/キログラムになったが、その根拠は明確でない。
「中西準子著:原発事故と放射線のリスク学、日本評論社、2014年」の「第4章:化学物質のリスク管理から学ぶこと」は非常に参考になる。「リスクトレードオフ」「なぜ、DDTが禁止されるようになったか」「リスク管理はどうあるべきか」「米国での化学物質規制」という小題の部分の印象に残った部分の続きを自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.米国では草の根民主主義の結晶として、化学物質管理の原則が決まっている。日本では、こんなに沢山の発がん性物質がないと思ったら大間違いで、知らされていないだけである。米国での、こういう経験が、やがて国際機関のルールになって、日本に入ってくる。日本でも化学物質は10万分の1のリスクがいいということになっているが、実は、日本でそういう議論をまったくしないで、国際機関が10万分の1と決めたからそれにしましょうとなっている。福島の事故が起きて初めて放射線について、自分たちで決めなくてはいけなくなり、もめている。
2.化学物質の代表のようなベンゼンについて、米国では、大気中のベンゼンのリスクは相当高いが、それ自体を規制できない状態が続いている。ベンゼンは、化学工場からも放出されるが、ほとんどが自動車で、ガソリンそのものの中に含まれている部分もあるが、燃焼反応で生成する部分もある。いずれにしろ、貧しい人も含めて、車なしには生きることができない社会なので、それを規制したときのリスクが大きくて、なかなか規制が進まないので、リスクトレードオフの問題になっている。
3.放射性物質のリスク管理がどうあるべきかを考える参考になる。セシウムとベンゼンとを比べて、同じレベルを設定すべきと考えてはいない。3・11の直後に、たまたま化学物質の発がんリスク規制について知識のある人の中に、放射性物質も10万分の1であるべきという主張している人を多数いたが、思慮が浅すぎる。
4.ベンゼンという化学物質を構成するC(炭素)とH(水素)は元素だが、それから作られている化学物質は何百、何万とある。ベンゼンという化学物質の規制を議論している。セシウムといった元素についてではないし、ましてや、ひとつの影響をまとめた結果でもない。何よりも、やはり、ベネフィットや、バックグラウンド値も考慮しなければならない。
5.化学物質の規制も、多数の化合物があるとき、そのリスクの和はどのくらいであるべきかとか、元素である金属を、化合物と同じ原理で規制していいのかという議論を詰めなければならない。
6.自然(天然)の発がん性物質のリスクは大きいが、それを禁止せずに使っていることも考慮すべきである。たとえばカビ毒のアフラトキシンやジャガイモ、パンなど調理の過程でできてしまうアクリルアミドには発がん性があり、含有率も高いが、それは例外の扱いで、広く使用が認められている。ゼロリスクでなければいけないというルールは適用していない。私たちがごく普通に食べているもののなかに発がん性物質が入っている。米国での報告によると、がんによる死者のうち35%は食生活そのものであって、農薬といったあとから加わったものはそれほど大きくないという結果がある。
7.死亡率ベースで評価すると、交通事故(2010年)は年間5.6×10万分の1、労働時の災害製造業は年間2.1×10万分の1、建設業は8.9×10万分の1。がんの場合には、アクリルアミドの生涯発がんリスクが140×10万分の1であると報告している。これまで、わが国では発がんのリスクが明示され、それが公開の場で議論されて基準値が制定されたものは、大気環境中ベンゼンの環境基準値しかない。
8.わが国の一般食品(コメ、野菜など)中の放射性物質に係る基準値は、2012年4月1日から、暫定基準値の500ベクレル/キログラムから100ベクレル/キログラムになったが、その根拠は明確でない。
9.厚生労働省の委員会は、コーデックス(CODEX)の基準に従って決めたとしている。コーデックスとは、食品の安全に関する国際規格で、コーデックスは1ミリシーベルト/年を採用しているので、それに従って決めたと書いてある、コーデックスがなぜ1ミリシーベルト/年にしたかを見ると、ICRP(国際放射線防護委員会)によって推奨されているレベルが1ミリシーベルト/年なので、それを基準にしたと書いてある。ICRPはどうやって決めたのかというように堂々巡りになる。
10.ICRPの 1990年勧告を見ると、自然放射線被ばくの変動に基づくとある。自然起源の放射線強度は健康に影響を与えない。ラドン元素の影響を除くと、そのレベルは1ミリシーベルト年程度で、場所による変動も1ミリシーベルト年以上ある。この考え方が世界的に認められていき、1ミリシーベルトが受け人れられた。これは、放射線管理におけるVSDと認められていると言える。