2017年05月10日
既成のエリートに対する人々の不満がある。アメリカの大統領にドナルド・トランプがなったのも、民主党のバーニー・サンダースが健闘したのも、エリートトに対する反発である。
「アフシン・モラビ(ニューアメリカ財団上級研究員)著:ブラジル大統領を追い込んだ勢いを増す2つの世界潮流、Newsweek 13 2016/05/24」は参考になる。「副題:ルセブ大統領の弾劾は既成のエリートに対する反発の高まりと中南米左派の凋落を象徴する事件だ」の概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.何カ月も続いた捜査と非難と反撃、そして20時間以上に及ぶ議員たちの演説の末に、ブラジルのルセフ大統領は最大180日間の職務停止に追い込まれ、失職し、政治生命を断たれることになった。
2、左翼ゲリラの元闘士でもあるルセフにとって、屈辱的な転落劇である。8年間の長期政権を敷いたルラ前大統領の後継者として、10年の大統領選に与党・労働党から出馬して当選したときのルセフは、前途洋々に見えたが、好調だった経済に陰りが見え始めると、14年の大統領選は一転して苦戦。何とか.再選を果たした。政権基盤は弱まった.現在、ブラジルは過去4半世紀で最悪の経済不振にあえぎ、政治も与党がらみの汚職疑惑で大揺れの状況にある。
3.ルセブ本人が汚職の罪に問われているわけではない.停職に追い込まれた直接の理由は国家会計の不正操作疑惑だが、これについては複数の前任者も手を染めていた。ルセブが弾劾裁判の対象になった真の理由は何なのか。自身の失政か、経済不振か、ブラジルの政治文化そのものか。答えはすべてイエスだ。経済が力強く成長していた03〜08年なら、あるいは中国経済の減速と財政赤字が景気に影を落とす前の09〜12年でも、ルセブは大統領の座にとどまれただろう。
4.現在は、国営石油会社ペトロブラスをめぐる汚職スキャンダルが泥沼化の様相を見せている。同社が長年、労働党をはじめとする全政党に賄賂を贈っていたという疑惑に国民は衝撃を受け、怒りを爆発させた。
大統領代行は不人気だがそれでもルセブは庶民感情への配慮をほとんど示さなかった。ブラジル経済が抱える構造的問題の解決にも本気で取り組まなかった。ルセブの停職は、世界中で勢いを増しているもっと大きな潮流の一部でもある。
5.既成のエリートに対する人々の不満の高まりである。アメリカの大統領の共和党のドナルド・トランプがなったのも、民主党のバーニー・サンダースが健闘したのも、その根底には主流派のエリートトに対する反発がある。
6.ヨーロッパも同様だ。ブレグジツト〔イギリスのEU離脱)をめぐる国民投票で、多くの有権者は経済の見通しよりも、エリート層への感情的反発に基づいて賛否を決めるだろう。反室流派の政党は今やヨーロッパ全土で勢力を伸ばしている。
7.中南米の枠組みで見ると、ルセブの転落は別の潮流の一例と言える。ポビユリズムと左派運動、縁故主義、個人の魅力に頼った統治モデルの衰退だ。アルゼンチンでは、.面白みにやや欠ける能吏型のマクリ大統領が誕生した。 マクリは演説で大言壮語を吐くタイプではないが、細心の注意を払ってアルゼンチン経済の再建を進めている。
8.一方、べネズエラのチャベス前大統領は大言壮語で有名だったが、その死後に国政運営を引き継いだマドゥロ大統領は、原油価格の急落とともに無能ぶりをさらけ出した。ベネズエラは政治的・経済的に深刻な危機に陥り、電力と食料の不足に苦しむ国民は希望も失いかけている。
9.ブラジルの危機は個別的事例でも普遍的現象でもある。まず、白馬に乗った指導者が山ほど公約を抱えて現れる。資源価格の高騰を追い風に、指導者は国民へのばらまきを続ける。だが資源価格が急落すると、指導者はもうなすすべがない。取り巻きや与党は汚職で私腹を肥やし、怒った民衆は反乱を起こす。そこへ反対派の政治家が現れて・・・…。あとは同じことの繰り返しである。
10.ブラジルにとっていいニュースは、大統領代行を務めるテメル副大統領が人気者ではないことである。だから人々は大きな夢を託したりしない。テメルも失敗をカリスマ性で隠そうとはしないはずである。テメルが求められるのは、結果だけ。未来への第一歩としてはそれも悪くない。
1.何カ月も続いた捜査と非難と反撃、そして20時間以上に及ぶ議員たちの演説の末に、ブラジルのルセフ大統領は最大180日間の職務停止に追い込まれ、失職し、政治生命を断たれることになった。
2、左翼ゲリラの元闘士でもあるルセフにとって、屈辱的な転落劇である。8年間の長期政権を敷いたルラ前大統領の後継者として、10年の大統領選に与党・労働党から出馬して当選したときのルセフは、前途洋々に見えたが、好調だった経済に陰りが見え始めると、14年の大統領選は一転して苦戦。何とか.再選を果たした。政権基盤は弱まった.現在、ブラジルは過去4半世紀で最悪の経済不振にあえぎ、政治も与党がらみの汚職疑惑で大揺れの状況にある。
3.ルセブ本人が汚職の罪に問われているわけではない.停職に追い込まれた直接の理由は国家会計の不正操作疑惑だが、これについては複数の前任者も手を染めていた。ルセブが弾劾裁判の対象になった真の理由は何なのか。自身の失政か、経済不振か、ブラジルの政治文化そのものか。答えはすべてイエスだ。経済が力強く成長していた03〜08年なら、あるいは中国経済の減速と財政赤字が景気に影を落とす前の09〜12年でも、ルセブは大統領の座にとどまれただろう。
4.現在は、国営石油会社ペトロブラスをめぐる汚職スキャンダルが泥沼化の様相を見せている。同社が長年、労働党をはじめとする全政党に賄賂を贈っていたという疑惑に国民は衝撃を受け、怒りを爆発させた。
大統領代行は不人気だがそれでもルセブは庶民感情への配慮をほとんど示さなかった。ブラジル経済が抱える構造的問題の解決にも本気で取り組まなかった。ルセブの停職は、世界中で勢いを増しているもっと大きな潮流の一部でもある。
5.既成のエリートに対する人々の不満の高まりである。アメリカの大統領の共和党のドナルド・トランプがなったのも、民主党のバーニー・サンダースが健闘したのも、その根底には主流派のエリートトに対する反発がある。
6.ヨーロッパも同様だ。ブレグジツト〔イギリスのEU離脱)をめぐる国民投票で、多くの有権者は経済の見通しよりも、エリート層への感情的反発に基づいて賛否を決めるだろう。反室流派の政党は今やヨーロッパ全土で勢力を伸ばしている。
7.中南米の枠組みで見ると、ルセブの転落は別の潮流の一例と言える。ポビユリズムと左派運動、縁故主義、個人の魅力に頼った統治モデルの衰退だ。アルゼンチンでは、.面白みにやや欠ける能吏型のマクリ大統領が誕生した。 マクリは演説で大言壮語を吐くタイプではないが、細心の注意を払ってアルゼンチン経済の再建を進めている。
8.一方、べネズエラのチャベス前大統領は大言壮語で有名だったが、その死後に国政運営を引き継いだマドゥロ大統領は、原油価格の急落とともに無能ぶりをさらけ出した。ベネズエラは政治的・経済的に深刻な危機に陥り、電力と食料の不足に苦しむ国民は希望も失いかけている。
9.ブラジルの危機は個別的事例でも普遍的現象でもある。まず、白馬に乗った指導者が山ほど公約を抱えて現れる。資源価格の高騰を追い風に、指導者は国民へのばらまきを続ける。だが資源価格が急落すると、指導者はもうなすすべがない。取り巻きや与党は汚職で私腹を肥やし、怒った民衆は反乱を起こす。そこへ反対派の政治家が現れて・・・…。あとは同じことの繰り返しである。
10.ブラジルにとっていいニュースは、大統領代行を務めるテメル副大統領が人気者ではないことである。だから人々は大きな夢を託したりしない。テメルも失敗をカリスマ性で隠そうとはしないはずである。テメルが求められるのは、結果だけ。未来への第一歩としてはそれも悪くない。