2017年07月19日

エルドアン大統領はコントロールしにくいリーダーだが、サダム・フセインのように倒すべき敵としてアメリカは見ていない。

「大前研一著:欧州がおびえるトルコ崩壊という悪夢、
PRESIDENT 2016.9.12」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.昨年、トルコでクーデターが発生した。エルドアン大統領がバカンス中の隙を突いて軍の一部が決起し、ヨーロッパとアジアを隔てるボスポラス海峡に架かる橋やアタチュルク国際空港などを封鎖。最大都市イスタンブールや首都アンカラに戦車や軍用機を展開し、国営テレビ局を乗っ取って戒厳令と夜間外出禁止令をトルコ全土に発令した。
2.休暇中だったエルドアン大統領は難を逃れてイスタンブールに戻った。途中、スマートフォンのテレビ電話アプリ・フェイスタイムを活用してCNNトルコにテレビ出演し、スマホから「広場や空港に集まってほしい。人民の力に勝る力はない」と国民に反乱軍への抵抗を呼びかけた。大統領のメッセージにモスクも呼応して.「これは聖戦だ。神のために街頭に出よ」と訴えた。クーデター側が占拠した国営テレビ局を通じて「表に出るな」と外出禁止令を出したにもかかわらず、大統領の呼びかけに応じて人々は表に繰り出して.イスタンブールやアンカラの街はクーデターに抗議する群衆で溢れた。翌16日正午には反乱軍はほぼ鎮圧されて、クーデターは失敗に終わった。
3.イデオロギー不足のお粗末なクーデター計画だったようだが、世論をコントロールする情報戦で形勢が決まった。既存のテレビメディアを掌握した反乱軍に対して、エルドァン大統領はフェイスタイムやツイッターなどのソーシャルメディア(SNS〕を駆使して国民を鼓舞することに成功した。SNSがクーデター鎮圧の立役者になるご時世である。
4.トルコでは1960年、71年、80年と過去に3回のクーデターが起きていて、.国軍が全権を握っている。クーデターの力の裏付けになるのは軍事力であり、トルコ軍はNATOでアメリカに次いで第2の軍事大国といわれるほど強大な兵力を有する。今回のクーデターは、イスラム化と権限強化を推し進めるエルドアン大統領に対して、軍の一部が反旗を翻した。
5.トルコは人口の99%以上がイスラム教徒(大半はスンニ派〕でありながら、23年に共和国として誕生して以来、建国の父である初代大統領ムスタファ・ケマル・アタチュルクが打ち出した世俗主義を国是としてきた。世俗主義とは公の場に宗教思想を持ち込まないという考え方で、政教分離の原則である。軍人アタチュルクの系譜を受け縫ぐトルコの国軍は世俗主義の守護者を自認していので、イスラム色の強い政権のときにはしばしば政治介入し、時にクーデターを引き起こしてきた。
6.エルドアン大統領は民主的な選挙で圧倒的な支持を受けて2003年に首相に選出された。デノミと財政健全化で高インフレを収束させ構造改革で世界からの投資を呼び込み、通貨危機後のトルコ経済を立て直した。当初は非の打ちどころがないリーダーぶりで、エジプトに代わる中束の要と期待され欧米の評判も上々だった。
7.徐々に言論統制などの強権化が目立つようになり、14年にトルコ初の直接選挙で大統領に就任すると、ロシアのプーチン大統領のように手下を首相に据えて大統領権限を強化し、独裁色を強めてきた。
8.もう1つがイスラム回帰である。反イスラム的な運動家や学者を投獄し、最近では大学構内にモスクを建設してイスラム教育を制度化したり、アルコール販売を禁止したりするなど、イスラム色の強い政策を推し進めてきた。民主主義や世俗主義に逆行するエルドアン大統領のこうした政治姿勢に対して内圧が徐々に高まってきて、クーデターという形で噴出した。
9.エルドアン大統領やトルコ政府が首諜者として名指ししたのが、アメリカ在住のイスラム教指導者フェトフッラー・ギュレン師である。ギュレン師は穏健なイスラム指導者で、彼が率いる社会運動(ギュレン運動〕はトルコの教育や医療支援などの社会奉仕活動で大いに貢献してきた。軍や財界などエリート層にも多くのギュレン支持派がいる。もともとエルドアン大統領とギュレン師の仲は悪くなかったが、大統領の汚職疑惑を機に距離が離れていった。
10.ギュレン師はクーデターの関与を否定している。しかし軍の内部にはギュレン派もいて.ギュレン師に煽動されたかどうかは別にして、エルドアン大統領のやり方についていけないと思っていた人がかなりの数いた。
11.クーデターを潰したエルドアン大統領はすぐさま大粛清に乗り出し、軍人や警官、判事や教員など、すでに5万人以上の公務員が拘束されたり、解任や停職処分を受けたりしている。ギュレン派は格好の粛清ターゲットで、今回のクーデター未遂は、ギュレン派を一掃して独裁体制を固めるための自作自演という見方まである。
12.クーデターの2週間以上前に注目すべきトピックスがあった。昨年11月のロシア軍機撃墜問題でロシアの謝罪要求を突っぱねていたエルドアン大統領が、プーチン大統領に謝罪した。トルコにとって外貨を稼ぐ手っ取り早い手段は観光業である。トルコ国内ではテロが続発して観光客数激減。ビザが要らないから大挙してやってきていたロシア人も、撃墜事件の報復措置でトルコへの渡航が禁止された。自国経済が窒息状態のエルドアン大統領としては、渡航禁止を含むロシアの経済制裁を解除したかったので謝罪した。
13.謝罪の直後、プーチン大統領はトルコへの渡航を許可している。エルドアン大統領はロシアとの仲直りついでにシリアのアサド大統領と対話する姿勢も見せているが、これを一番嫌がるのはアメリカである。アメリカからすればNATOがロシアと対立を強めているときにトルコとロシアが接近するのは好ましくないし、打倒しようとしているシリアのアサド政権との関係改善も困る。エジプトみたいに軍事クーデターで親米の傀儡政権を立ち上げるのはアメリカの得意技である。
14.エルドアン大統領はコントロールしにくいリーダーだが、サダム・フセインのように倒すべき敵としてアメリカは見ていない。トルコはNATOのメンバーであり、IS〔イスラム国〕掃討を目指す有志連合の一員でもある。アメリカはトルコの基地を使わせてもらっている。エルドアン大統領が国内のクルド人やギュレン派を迫害して民主主義に逆行する政策を取っても、決定的な対立は避けたい。
15.難民問題を抱えるEUとしても、トルコの存在は非常に重要である。隣国シリアで内戦が始まって以来、トルコはシリア難民の最大の受け入れ先になっていて、.現状でも200万人以上のシリア難民を受け入れている。イラクやアフガニスタンの難民を含めると300万人以上で、それがトルコ経済を疲弊させる原因になっている。
16.トルコが"イラク化したら地続きのギリシャやブルガリアに一気に難民がなだれ込む。ISもトルコ中に群雄割拠することになる。トルコが乱れれば中近東のすべての悩みがヨーロッパを直撃する。ヨーロッパではエルドアン大統領の多少の独裁は仕方がないという考え方が強い。
17.サダム・フセインは独裁者だったが、排除したらイラクは分裂して宗教対立が先鋭化したうえにISの温床になってしまった。ヨーロッパではこれが強烈な教訓になっている。トルコをイラクのようにするわけにはいかない。エルドアン大統領には元気でいてもらわないと困る。


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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
・読売奨励賞受賞
・読売新聞社賞受賞
〇日展入選有

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