2017年08月08日
2050年頃の世界のエネルギー需要の3分の1を人工光合成プロセスで製造したソーラー水素でまかなうには、日本列島の15分の1の面積で済むので非現実的ではない。
「光化学協会編:夢の新エネルギー:
人工光合成とは何か、講談社、2016年」は参考になる。第7章:人工光合成大規模プラント実現への挑戦」の印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.ホンダ・フジシマ効果の発見以来、半導体光触媒を用いて水素を作る方法の実用化への検討が進んでいる太陽エネルギーを利用して水を分解して得られる水素はソーラー水素とよばれている。
2.ソーラー水素製造の実用化には経済性が必要である。経済産業省は、2020年頃に水素の価格を450円/kgにすることを目標としている。2015年時点で、燃料電池自動車用水素の水素ステーションでの値段は1000円/kgである。米国エネルギー省は水素供給価格の目標を200〜400円/kgと定めており、日本の価格目標に近い。
3.2013年に米国で種々の形式のソーラー水素製造プラントの水素の販売価格について分析されている。ソーラー水素の作り方は、半導体光電極を用いる方法と粉末光触媒を水の中に分散させて用いる方法がある。光触媒電極を用いた場合に、太陽光水素エネルギー変換効率(STH)が10%を達成でき、水素の価格は160〜1040円/kgになる。STHとは、全太陽光入射エネルギーのうち、水素に蓄えたかを示す指標である。
4.いずれの方法でも、10%程度以上のSTHを達成することが、水素供給価格の目標を満たすうえで必要である。半導体光触媒でSTHが10%に達するには、量子収率という吸収で生成した電子とホールがどれだけの割合で反応に使われたかを示す指標を上げる必要がある。
5.太陽エネルギーは入射強度が時問帯や天候や季節により大きく変動し、エネルギーが豊富な地域も砂漠地帯に偏在している。太陽エネルギーを利用するには長期間の貯蔵や長距離の輸送技術が必要である。体積が大きくなる気体のソーラー水素はそのまま輸送するのではなく、触媒プロセスを用いていったん炭化水素やアンモニアなどの液体燃料に変換して輸送し、そのまま利用したり、水素に戻したりして利用することが想定さる。
6.太陽エネルギー強度の強いサンベルト地帯(アメリカ合衆国南部、ほぼ北緯37度以南の温暖な地域フロリダ州、ジョージア州など)で、25km^2の規模の人工光合成型ソーラー水素製造プラントが10%のSTHで稼働する場合、1日あたり5100トンの水から570トンの水素が製造される。これを分離・精製して貯蔵や輸送が容易な液体燃料に物質変換し、消費地まで運送して利用することか想定される。
7.2050年頃の世界のエネルギー需要の3分の1を人工光合成プロセスで製造したソーラー水素でまかなうには、25万km^2の面積が必要となる。この面積は、日本列島の面積:377万7900km^2なので日本列島の15分の1の面積で済む。アフリカのサハラ砂漠の面積は約940万km2なのでその37分の1で良い。ソーラー水素製造プラントの建設は、決して非現実的ではない。
8.ソーラー水素製造プラントで使う大規模な人工光合成装置のイメージは、粉末光触媒の粒子が固定化されたシート状のデバイスを作り、それを太陽電池のようにモジュール化し、パネルの上に並べる。シート状のデバイスを「光触媒シート」とよび、それを並べて水を入れ、発生した水素を集めるしくみを「人工光合成パネル」とよぶ。
9.粉末光触媒をガラス基板や柔軟な膜上に塗布・固定化すれば、パネル状、シート状の光触媒として利用できる。このシートを水に浸して光を当てるだけで、水素と酸素が発生する。可視光で水を水素と酸素に分解することができる光触媒の窒化ガリウム酸化亜鉛固溶体を光触媒シートにするには、シート状に固定化された光触媒をそのまま水に浸漬させただけでは、粉末光触媒をそのまま懸濁させた場合と比較して水を分解する活性が落ちる。10.理由は、光触媒粒子が緻密に積層するために、光触媒粒子の隙間に水が浸透しにくくなったり、生成した水素や酸素の気泡が光触媒層から出にくくなる。そこで、親水性の二酸化ケイ素粒子を光触媒粒子に混ぜて光触媒パネルを作製したところ、粉末をそのまま水に懸濁させた場合と同じ程度の水分解速度を示す。シリカ粒子の添加効果はシリカ粒子の粒径が大きいほど高い。粒径が大きな親水性の二酸化ケイ素粒子が混じることにより光触媒粒子層に十分な空隙が生じて気泡や水の出入りが改善され。
11.光触媒粒子をシートに層として固定する手法を検討することで、粉末のまま光触媒を使ったときと同じ水分解速度を発揮する光触媒パネルを作製することができるので、将来大規模なプラントで用いる光触媒パネルの作製に活用できる。
12.粒子転写法という方法を用いて金属膜上に固定化した光触媒シートが開発された。この方式では、光触媒粒子と金属膜などの導電層の間に十分な機械的強度があり電気的導通性も良いものを作ることができる。
13.金属膜を用いた光触媒シートの一般的な作製手順はシンプルで、まず、水素を生成する光触媒と酸素を生成する光触媒のそれぞれの粉末の混合物をガラス基板などに塗布する。次に、光触媒粒子の層上に金属膜などの導電層を製膜する。その後、光触媒粒子層・導電層の接合体を別の基板に転写する。最後に、超音波処理などにより余分の光触媒粒子を取り除く。これで、水素生成光触媒と酸素生成光触媒の粉末が導電層に埋め込まれた光触媒シートを簡単に作ることができる。
14、この方法では、理想的には光触媒粒子が1層に並んだ配置となり、電子が縦方向に粒子と金属膜の間を移動するだけなので電気抵抗の少ない光触媒と導電層の接合体を得ることができる。
人工光合成とは何か、講談社、2016年」は参考になる。第7章:人工光合成大規模プラント実現への挑戦」の印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.ホンダ・フジシマ効果の発見以来、半導体光触媒を用いて水素を作る方法の実用化への検討が進んでいる太陽エネルギーを利用して水を分解して得られる水素はソーラー水素とよばれている。
2.ソーラー水素製造の実用化には経済性が必要である。経済産業省は、2020年頃に水素の価格を450円/kgにすることを目標としている。2015年時点で、燃料電池自動車用水素の水素ステーションでの値段は1000円/kgである。米国エネルギー省は水素供給価格の目標を200〜400円/kgと定めており、日本の価格目標に近い。
3.2013年に米国で種々の形式のソーラー水素製造プラントの水素の販売価格について分析されている。ソーラー水素の作り方は、半導体光電極を用いる方法と粉末光触媒を水の中に分散させて用いる方法がある。光触媒電極を用いた場合に、太陽光水素エネルギー変換効率(STH)が10%を達成でき、水素の価格は160〜1040円/kgになる。STHとは、全太陽光入射エネルギーのうち、水素に蓄えたかを示す指標である。
4.いずれの方法でも、10%程度以上のSTHを達成することが、水素供給価格の目標を満たすうえで必要である。半導体光触媒でSTHが10%に達するには、量子収率という吸収で生成した電子とホールがどれだけの割合で反応に使われたかを示す指標を上げる必要がある。
5.太陽エネルギーは入射強度が時問帯や天候や季節により大きく変動し、エネルギーが豊富な地域も砂漠地帯に偏在している。太陽エネルギーを利用するには長期間の貯蔵や長距離の輸送技術が必要である。体積が大きくなる気体のソーラー水素はそのまま輸送するのではなく、触媒プロセスを用いていったん炭化水素やアンモニアなどの液体燃料に変換して輸送し、そのまま利用したり、水素に戻したりして利用することが想定さる。
6.太陽エネルギー強度の強いサンベルト地帯(アメリカ合衆国南部、ほぼ北緯37度以南の温暖な地域フロリダ州、ジョージア州など)で、25km^2の規模の人工光合成型ソーラー水素製造プラントが10%のSTHで稼働する場合、1日あたり5100トンの水から570トンの水素が製造される。これを分離・精製して貯蔵や輸送が容易な液体燃料に物質変換し、消費地まで運送して利用することか想定される。
7.2050年頃の世界のエネルギー需要の3分の1を人工光合成プロセスで製造したソーラー水素でまかなうには、25万km^2の面積が必要となる。この面積は、日本列島の面積:377万7900km^2なので日本列島の15分の1の面積で済む。アフリカのサハラ砂漠の面積は約940万km2なのでその37分の1で良い。ソーラー水素製造プラントの建設は、決して非現実的ではない。
8.ソーラー水素製造プラントで使う大規模な人工光合成装置のイメージは、粉末光触媒の粒子が固定化されたシート状のデバイスを作り、それを太陽電池のようにモジュール化し、パネルの上に並べる。シート状のデバイスを「光触媒シート」とよび、それを並べて水を入れ、発生した水素を集めるしくみを「人工光合成パネル」とよぶ。
9.粉末光触媒をガラス基板や柔軟な膜上に塗布・固定化すれば、パネル状、シート状の光触媒として利用できる。このシートを水に浸して光を当てるだけで、水素と酸素が発生する。可視光で水を水素と酸素に分解することができる光触媒の窒化ガリウム酸化亜鉛固溶体を光触媒シートにするには、シート状に固定化された光触媒をそのまま水に浸漬させただけでは、粉末光触媒をそのまま懸濁させた場合と比較して水を分解する活性が落ちる。10.理由は、光触媒粒子が緻密に積層するために、光触媒粒子の隙間に水が浸透しにくくなったり、生成した水素や酸素の気泡が光触媒層から出にくくなる。そこで、親水性の二酸化ケイ素粒子を光触媒粒子に混ぜて光触媒パネルを作製したところ、粉末をそのまま水に懸濁させた場合と同じ程度の水分解速度を示す。シリカ粒子の添加効果はシリカ粒子の粒径が大きいほど高い。粒径が大きな親水性の二酸化ケイ素粒子が混じることにより光触媒粒子層に十分な空隙が生じて気泡や水の出入りが改善され。
11.光触媒粒子をシートに層として固定する手法を検討することで、粉末のまま光触媒を使ったときと同じ水分解速度を発揮する光触媒パネルを作製することができるので、将来大規模なプラントで用いる光触媒パネルの作製に活用できる。
12.粒子転写法という方法を用いて金属膜上に固定化した光触媒シートが開発された。この方式では、光触媒粒子と金属膜などの導電層の間に十分な機械的強度があり電気的導通性も良いものを作ることができる。
13.金属膜を用いた光触媒シートの一般的な作製手順はシンプルで、まず、水素を生成する光触媒と酸素を生成する光触媒のそれぞれの粉末の混合物をガラス基板などに塗布する。次に、光触媒粒子の層上に金属膜などの導電層を製膜する。その後、光触媒粒子層・導電層の接合体を別の基板に転写する。最後に、超音波処理などにより余分の光触媒粒子を取り除く。これで、水素生成光触媒と酸素生成光触媒の粉末が導電層に埋め込まれた光触媒シートを簡単に作ることができる。
14、この方法では、理想的には光触媒粒子が1層に並んだ配置となり、電子が縦方向に粒子と金属膜の間を移動するだけなので電気抵抗の少ない光触媒と導電層の接合体を得ることができる。