2017年08月11日

今の日本社会では、老人の側から「尊厳死」「安楽死」を口にすることさえ、半ばタブーである。人々の不安が隠れている。超高齢者層の激増に無言のプレッシャーがある。

「五木寛之著:
嫌老社会を超えて
五木 寛之
中央公論新社
2015-09-19

嫌老社会を超えて、中央公論社、2015年」は面白い。「国民の戦争責任」の印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.第2次大戦時の講演会で人々は、自らの意志で足を運んだ。会場はどこも超満員で、「満洲は日本の生命線である」といった講話に、「そうだ!」盛り上った。日露戦争の時も、「露助撃つべし!」という激烈な大衆の感情があった。
2.「太平洋戦争の端緒は、中国大陸その他における現地軍の暴走にある」という論議を耳にするが、日本軍が暴走できたのは、ひそかに世論、国民感情を注視していたに違いない。敵に対する反発の感情を燃え上がらせる国民の姿を感じて動いた。
3.日本軍にとって、内閣や政党が何を言おうとも問題ではない。たとえ文句を言われても、国民大衆があれだけ「やる気満々」なのだから大丈夫と踏んだ。逆に言えば、国民の支持がなければ、無謀なことはできなかった。
4.「マスメディアが世論をリードする」というのは常識だが、戦時中の経験から、その「常識」は怪しい。あの時期、新聞は、好戦的な大見出しを掲げるほど売れた。国民が、そのニュースを欲したからである。需要に応えて、新聞社はさらにデカデカと、「わが軍、大勝利す」の大本営発表を載せるようになった。
5.マスコミと世論とは相補的な関係にある。常にメディアがリードする、と考えるのは、幻想である。大衆が喜ぶのは、その時々のプラスのニュースです。戦争中は、憎むべきアメリカをやっつけるニュースを喜んだ。その様子を最も大きく、詳しく伝える新聞に、人々は群がった。その結果、記事の方向性も、どんどん狭まった。
5.戦争という非常時だったからではない。新聞もテレビも、ビジネスであることは、昔も今も変わらない。購読部数や視聴率は、彼らにとって生命線で、市場調査の結果でプラスという話になれば、それが論調に影響を与える。
6.社会の変動は、何の前触れもなく突然起こるものではない。地下で蚕くマグマが成長するにつれ、振動が発生したり、小さな地割れが観測される。本格的な階級闘争に至る嫌老社会の前兆現象も、日本社会にすでにそこここに顔を出している。
7.経済成長がストップし、人口が減少に転じるなど、明らかに下り坂の局面に入った日本で、このまま嫌老社会の入り口にあることを自覚せずに歩んでいくと、やがて広範な嫌老ヘイトスピーチに転化し、老人階級とそれ以外の世代との、階級闘争を呼び覚ます。
8.勤労者世代、若者世代の嫌老意識の背景に横たわる現実は、複雑で深刻で、ある意味、恐ろしい世界である。今後、100歳を超える高齢者がさらに増加し、その介護、医療に投じられるお金は、否応なく膨らんでいく。そんな老人たちのかなり多くの人が意識も体の自由も失った状態で、ただベッドに横たわっているだけ、という現実がある。
9.同じく国が直面する課題に、使用済み核燃料の処理がある。時間をかけ、知恵を集めれば、何らかの方策を探し当てることができる、とみんななんとなく思っているが、それは"モノ"なのだからである。
10.生身の老人を「処理」できるのは、マンガの中だけで、そんなに生きられても困る、なんとかしてくれ、と心の中で思っても、それを公言できない。今の日本社会では、老人の側から「尊厳死」「安楽死」を口にすることさえ、半ばタブーで、触れてはいけない問題である。タブーの裏には、人々の恐れなり不安なりが、隠れている。それに触れずして行くというのは、社会にとっては大きなストレスでもある。戦後70年を経たこの国は、超高齢者層の激増により、国ぐるみで無言のプレッシャーを感じている。
11.国のリーダーたちも国民も、いたずらに時を過ごし、これといった進路も定めぬまま歩みを進めた結果、期せずして嫌老が当たり前の社会を現出させてしまう。金食い虫の高齢者世代に対する強い憎悪、嫌悪感、拒否感が芽生え、蓄積していく。
12.お金をかけられないとなれば、将来、老人の扱いは、極めて粗雑なものになる。一部のそうした施設では、高齢者をベッドに縛りつけたり、日常的に暴力を振るったり、は「居場所」を提供する代わりに年金手帳を取り上る事態が報道されている。今は社会的非難を受ける振る舞いも、日常茶飯になるのが、嫌老社会の行き着く先である。
13.深刻な嫌老社会を招かないために、なすべことは、自らに向けられる嫌老意識に、気づくこと。世代間格差を認識すること。怖いのは、潜在意識から嫌老ヘイトスピーチが、拡散していく状況である。
14.高齢者とはいえ、一人の国民として、社会が直面する課題に向き合っていくこと。、お互い分かりあうべきという精神論、道徳では状況を動かすことはできない。嫌老社会を育む原因は、超高齢化と社会保障をめぐる世代間格差の急拡大、勤労者、若者世代の経済的負担の増大と絶望的にみえる将来展望である。現代日本の国のあり方、経済に根差した課題である。
15.対策は産業意識の転換で、高齢者による構造改革で、自立のためには、社会と関わり、その活動に寄与しているという実感も必要である。高齢者が社会進出してきたら、若者の仕事を奪うことになるという批判が聞こえてもやる。




yuji5327 at 06:47 
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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
・読売奨励賞受賞
・読売新聞社賞受賞
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