2017年09月12日
アメリカへの留学生の出身国は、15〜16年は、中国32万人(31・5%)、インド16万人(15・9%)、韓国の6万人(同5・8%)、日本2万人(1・8%)である。
「野口悠紀雄著著:トランプの外国人排除でローマの轍を踏むか?、
週刊ダイヤモンド、2016.12.10」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.アメリカ大統領選挙におけるドナルド・トランプ氏の勝利を見ていると、アメリカがローマ帝国の轍を踏むのではないかという懸念に襲われる。ローマ帝国が長期にわたって繁栄を続けられたのは、異質性や多様性を尊重したからである。共和制の時代からすでに、征服して属州化した地域の人々にローマ市民権を与えてきた。この結果、ある時期から、ローマ出身ではないローマ皇帝が増え。エドワード・ギボンが『ローマ帝国衰亡史』の中で「人類史上最も幸せな時代をつくった」とした五賢帝には、属州出身者が多い。
2.「3世紀の危機」といわれた混乱の時代からローマを救ったのは、イリリア出身の皇帝たちである。そこはドナウ川の近くなので、属州の中でも辺境に近い。ゲルマン民族の大移動に対してローマを防衛した将軍スティリコも、ゲルマン出身だ。ローマを攻撃したのも、防衛したのもゲルマン人だった。
3.4世紀末ごろからローマ帝国に急速に広がった排他的感情の中で、スティリコは皇帝ホノリウスによって処刑された。ローマ帝国は急速に変質し崩壊した。トランプ氏は、現代のアメリカにおけるホノリウスになる危険がある。
4、ドナルド・トランプ氏が選挙中に公言していたように外国人の就労機会が制限されると、これまでアメリカの成長を支えてきたハイテク産業が失速する。トランプ氏が呼び掛け、そして支持を獲得したのは、古い製造業の労働者たちである。その対極にあるのが、シリコンバレーのハイテクIT産業だから、彼の攻撃の矛先がシリコンバレーに向かうのは自然なことである。
5.実際にシリコンバレーの存立を揺るがすような政策を導入するかもしれない。シリコンバレーで最も重要なのは、人間の頭脳だ。機械設備や資本ではない。その頭脳は、必ずしもアメリカ人のものではない。外国人の頭脳が大きな役割を果たしている。シリコンバレーにおける技術開発はICによってなされたといわれる。
6.ICとは、「インド人と中国人」という意味だ。最近では、グーグルやマイクロソフトに、インド系のCEO(最高経営責任者)が誕生している。ローマ帝国の最盛期を彷彿させるような状況が生じている。ハイテク産業における外国人の就労は、制度的には「H-1Bビザ」によって支えられてきた。これは、特殊技能職に認められる就労ビザである。4年制大学を卒業していることが条件になっている。現在、1会計年度内の発行数が6万5000に限られており、アメリカで修士号を取得した申請者向けに、これ以外に2万の枠が設定されている。2003年度の発行数が19万5000だったので、最近は大幅に縮小されていることになる。このため、取得が難しく、抽選になっている。
7.事業者からも、専門的技能を持つ外国人に対する需要は強い。こうしたことを背景に、昨年8月にフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏が、H-1Bビザの発行数を増やすべきだと主張した。これに対してトランプ氏は、「多くのアメリカの大企業がH-1Bビザを悪用して外国人労働者を雇用している。このためアメリカ人が職を得られなくなった」と主張した。
8.トランプ氏が実際の政策でこれをどう扱うか、まだ分からない。11月21日にYouTubeの動画で優先政策課題について説明した中で、「アメリカ人の.雇用を奪う可能性のあるビザ悪用を調査する」とした。彼は、シリコンバレーでの外国人専門家の重要性については認めているようだ。しかし、他方で、H-1Bビザを廃止するかもしれない。トランプ氏は「J1-ビザ」も廃止するとしている。これは、交換留学生やビジネストレイニー、インターンシップ生などに発給されるビザで、研修を目的に米国で就労することができる。
9.外国人専門家の就労が難しくなると、才能が海外に流出する危険がある。これまで、才能を持った多くの人々がシリコンバレーに集積することの効果が大きかった。それが駄目になると、アメリカの技術開発力が低下する可能性が高い。これはアメリカの成長にとって非常に深刻な事態である。
10.専門家のビザを制限したところで、アメリカの一般労働者の職が増えるわけではない。これはメキシコからの違法移民問題とは全く別の問題である。異質性の尊重こそがアメリカの力の源だ。もともとアメリカの科学技術は、外国人によって支えられてきた。第2次世界大戦中には、ナチスドイツを逃れてヨーロッパからアメリカに来た科学者たちが、アメリカの科学水進を飛躍的に向上させた。このようなアメリカの長い伝統が、ここで大きく変わることになる。
11.ハイテク分野でのアメリカの技術力が衰えれば「日本が先端技術分野で挽回するチャンスになる」という意見があるが、全くの見当違いである。そのことは、アメリカへの留学生の出身国を見れば明らかである。15〜16年における留学生の国別内訳は、中国が32万人(全体の中での比率31・5%)、インドが16万人(同15・9%)であり、日本は2万人(同1・8%)にすぎない。人口が日本の半分未満である韓国の6万人(同5・8%)にも及ばない。
12.圧倒的に中国とインドが多い。彼らの中には、卒業後アメリカでH-1Bビザによって就労した者が多い。アメリカで排他的な風潮が強まれば、彼らは、中国やインドで就労する方がチャンスが大きいと考える。中国やインドの成長率は驚異的である。15年のフィンテック投資額の対前年伸び率は、中国が455%、インドが1115%だ。こうした地域に、先端
的IT企業が移ってしまう可能性がある。
13.こうした事態に対して、カリフォルニア州では、イギリスのEU離脱を意味する「Brexit」になぞらえて、「Calexit」を求める声が広がっている。合衆国からの離脱は、EUからの離脱より難しいが、州の権限は強いので、全面的な離脱でなくとも、新しい改革を独自に行うことは老えられる。例えば、タクシー配車サービスUberの広がりに対応して、カリフォルニア州では、タクシー免許を持っていないドライバーでも保険に加入するなど一定の基準を満たせば、営業ができるようになった。少し古いが、1978年には、カリフォルニア州の住民は、固定資産税に関する「プロポジション13」(提案13号)を住民投票で可決した。これは、固定資産税に関する改革で、全米に波及した。カリフォルニア州には、もともと革新的な考えが強い。カリフォルニア州の人々がトランプ政権にどのように対応するのか。ハイテク産業の対応はどうか、これからの推移を見守りたい。
週刊ダイヤモンド、2016.12.10」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.アメリカ大統領選挙におけるドナルド・トランプ氏の勝利を見ていると、アメリカがローマ帝国の轍を踏むのではないかという懸念に襲われる。ローマ帝国が長期にわたって繁栄を続けられたのは、異質性や多様性を尊重したからである。共和制の時代からすでに、征服して属州化した地域の人々にローマ市民権を与えてきた。この結果、ある時期から、ローマ出身ではないローマ皇帝が増え。エドワード・ギボンが『ローマ帝国衰亡史』の中で「人類史上最も幸せな時代をつくった」とした五賢帝には、属州出身者が多い。
2.「3世紀の危機」といわれた混乱の時代からローマを救ったのは、イリリア出身の皇帝たちである。そこはドナウ川の近くなので、属州の中でも辺境に近い。ゲルマン民族の大移動に対してローマを防衛した将軍スティリコも、ゲルマン出身だ。ローマを攻撃したのも、防衛したのもゲルマン人だった。
3.4世紀末ごろからローマ帝国に急速に広がった排他的感情の中で、スティリコは皇帝ホノリウスによって処刑された。ローマ帝国は急速に変質し崩壊した。トランプ氏は、現代のアメリカにおけるホノリウスになる危険がある。
4、ドナルド・トランプ氏が選挙中に公言していたように外国人の就労機会が制限されると、これまでアメリカの成長を支えてきたハイテク産業が失速する。トランプ氏が呼び掛け、そして支持を獲得したのは、古い製造業の労働者たちである。その対極にあるのが、シリコンバレーのハイテクIT産業だから、彼の攻撃の矛先がシリコンバレーに向かうのは自然なことである。
5.実際にシリコンバレーの存立を揺るがすような政策を導入するかもしれない。シリコンバレーで最も重要なのは、人間の頭脳だ。機械設備や資本ではない。その頭脳は、必ずしもアメリカ人のものではない。外国人の頭脳が大きな役割を果たしている。シリコンバレーにおける技術開発はICによってなされたといわれる。
6.ICとは、「インド人と中国人」という意味だ。最近では、グーグルやマイクロソフトに、インド系のCEO(最高経営責任者)が誕生している。ローマ帝国の最盛期を彷彿させるような状況が生じている。ハイテク産業における外国人の就労は、制度的には「H-1Bビザ」によって支えられてきた。これは、特殊技能職に認められる就労ビザである。4年制大学を卒業していることが条件になっている。現在、1会計年度内の発行数が6万5000に限られており、アメリカで修士号を取得した申請者向けに、これ以外に2万の枠が設定されている。2003年度の発行数が19万5000だったので、最近は大幅に縮小されていることになる。このため、取得が難しく、抽選になっている。
7.事業者からも、専門的技能を持つ外国人に対する需要は強い。こうしたことを背景に、昨年8月にフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏が、H-1Bビザの発行数を増やすべきだと主張した。これに対してトランプ氏は、「多くのアメリカの大企業がH-1Bビザを悪用して外国人労働者を雇用している。このためアメリカ人が職を得られなくなった」と主張した。
8.トランプ氏が実際の政策でこれをどう扱うか、まだ分からない。11月21日にYouTubeの動画で優先政策課題について説明した中で、「アメリカ人の.雇用を奪う可能性のあるビザ悪用を調査する」とした。彼は、シリコンバレーでの外国人専門家の重要性については認めているようだ。しかし、他方で、H-1Bビザを廃止するかもしれない。トランプ氏は「J1-ビザ」も廃止するとしている。これは、交換留学生やビジネストレイニー、インターンシップ生などに発給されるビザで、研修を目的に米国で就労することができる。
9.外国人専門家の就労が難しくなると、才能が海外に流出する危険がある。これまで、才能を持った多くの人々がシリコンバレーに集積することの効果が大きかった。それが駄目になると、アメリカの技術開発力が低下する可能性が高い。これはアメリカの成長にとって非常に深刻な事態である。
10.専門家のビザを制限したところで、アメリカの一般労働者の職が増えるわけではない。これはメキシコからの違法移民問題とは全く別の問題である。異質性の尊重こそがアメリカの力の源だ。もともとアメリカの科学技術は、外国人によって支えられてきた。第2次世界大戦中には、ナチスドイツを逃れてヨーロッパからアメリカに来た科学者たちが、アメリカの科学水進を飛躍的に向上させた。このようなアメリカの長い伝統が、ここで大きく変わることになる。
11.ハイテク分野でのアメリカの技術力が衰えれば「日本が先端技術分野で挽回するチャンスになる」という意見があるが、全くの見当違いである。そのことは、アメリカへの留学生の出身国を見れば明らかである。15〜16年における留学生の国別内訳は、中国が32万人(全体の中での比率31・5%)、インドが16万人(同15・9%)であり、日本は2万人(同1・8%)にすぎない。人口が日本の半分未満である韓国の6万人(同5・8%)にも及ばない。
12.圧倒的に中国とインドが多い。彼らの中には、卒業後アメリカでH-1Bビザによって就労した者が多い。アメリカで排他的な風潮が強まれば、彼らは、中国やインドで就労する方がチャンスが大きいと考える。中国やインドの成長率は驚異的である。15年のフィンテック投資額の対前年伸び率は、中国が455%、インドが1115%だ。こうした地域に、先端
的IT企業が移ってしまう可能性がある。
13.こうした事態に対して、カリフォルニア州では、イギリスのEU離脱を意味する「Brexit」になぞらえて、「Calexit」を求める声が広がっている。合衆国からの離脱は、EUからの離脱より難しいが、州の権限は強いので、全面的な離脱でなくとも、新しい改革を独自に行うことは老えられる。例えば、タクシー配車サービスUberの広がりに対応して、カリフォルニア州では、タクシー免許を持っていないドライバーでも保険に加入するなど一定の基準を満たせば、営業ができるようになった。少し古いが、1978年には、カリフォルニア州の住民は、固定資産税に関する「プロポジション13」(提案13号)を住民投票で可決した。これは、固定資産税に関する改革で、全米に波及した。カリフォルニア州には、もともと革新的な考えが強い。カリフォルニア州の人々がトランプ政権にどのように対応するのか。ハイテク産業の対応はどうか、これからの推移を見守りたい。