2018年01月03日

大村氏たちは微生物の作る天然有機化合物を発見するだけではなく、化学の力でそれを改良してきた。

「大村智著:微生物創薬と国際貢献、學士會会報No.922(2017-1)」は参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
1.大村氏が発見してきた化合物の多くは、「マクロライド系抗生物質」に分類され、以下の通りである。
2.ロイコマイシン:抗菌剤として使用されている「ロイコマイシン」は、恩師である秦藤樹先生が発見したもので、この化合物は構造が分かる前から薬として売られていた。、構造を突き止めたのは大村氏である。さらに改良を加えて「ロキタマイシン」という抗生物質を合成しました。これは現在、「リカマイシン錠」という医薬品として使用されている。
3.タイロシン:「タイロシン」という抗生物質も、製薬会社イーライ・リリーが開発し、構造が分かる前から動物用医薬品として使われていた。大村氏は会社と話し合って研究費をもらい、構造を明らかにした。この時も改良を加え、「チルミコシン」という抗生物質を合成した。現在、豚や牛の肺炎に有効な医薬品「ミコチル」として使用されている。これは、後述する「イベルメクチン」に次ぐ程の動物用医薬品になった。このように、大村氏たちは微生物の作る天然有機化合物を発見するだけではなく、化学の力でそれを改良してきた。
4.ナナオマイシン:「ナナオマイシン」という医薬品は、石川県七尾市の土壌から分離した微生物が作る化合物である。この薬は家畜や牛が罹る白癬症(カビによる皮膚病)に有効で、今も使用されている。この病気は人にも感染するので早めの治療が必要だが、動物の患部に一回塗るだけで綺麗に治る。
5.スタウロスポリン:「スタウロスポリン」という抗生物質は、現在世界中で最も使用されている研究用試薬の一つである。この化合物は、大村氏が見つけた代表例である。当時、多くの研究者は、「病原菌の働きを抑える」「酵素の機能を阻害する」といった活性をまず考え、そうした活性を持つ物質を探すという順序で研究を進めていたが、大村氏は順序をひっくり返し、最初に化合物を見つけ、後からゆっくり性質や活性を調べることにした。後から他の研究者が同じ活性を持つ化合物を見つけても、先に大村氏たちが化学構造を明らかにし、特許を取っていれば、優先権を持つことができる。この方法で見つけた20個以上の新化合物のうちの一つが、「スタウロスポリン」だった。その後、この新化合物がプロテインキナーゼ阻害剤であることが分かった。これをもとに欧米の製薬会社が開発を進め、慢性骨髄性白血病の治療薬「グリーベック」(イマティニブ)が生まれた。慢性骨髄性白血病は、染色体の9番と22番が入れ替わる染色体異常により、チロシンキナーゼ(プロテインキナーゼの一種)という酵素が異常増殖して発病する。この酵素にATPが結合し、がん細胞を増殖させる。この酵素の働きを阻害するために、ATPの代わりにイマティニブを結合させることでがん細胞の増殖を抑えた。この薬は効果が高く、副作用が起きにくい分子標的薬として有名になった。
6.ピリピロペン:現在、病院でコレステロールが高いと診断されると、「スタチン」という薬を処方される。この薬はコレステロールの生成を初期の段階で阻害する。しかし、コレステロールはホルモンを作る材料でもある。むしろ悪いのはコレステロール・エステルで、これが粥状の塊を作って動脈を詰まらせる。コレステロール・エステルはコレステロールの水酸基の部分にアシル基が結合した化合物なので、「この結合を促進するACATという酵素の働きを阻害すればよい」と考えた。探索の結果、神宮外苑の土壌から分離した微生物が作る「ピリピロペン」という化合物が、ACAT阻害剤と判明した。現在、ベンチャー企業が医薬品に向けて開発研究をしている。その後、MeijiSeikaファルマ(株)の研究グループが、「ピリピロペンには昆虫活性がある」ことを発見し、改良を重ね、「アフィドピロペン」という化合物を開発した。これも、害虫駆除剤「インスカリス」として発売される予定である。
7.ラクタシスチン:がん化したマウスの神経芽細胞を用いて神経突起の成長を促す物質を探し、「ラクタシスチン」という生理活性物質を発見した時、ハーバード大学のコーリー教授から、「合成したいので、ラクタシスチンのサンプルをくれないか」と依頼された。早速、送付すると、彼の同僚のシュライバー教授が関心を持ち、「ラクタシスチンは、不要タンパク質の分解を促すプロテアソームという酵索の働きを阻害する」ことを発見した。そうした経緯があったので、その後ラクタシスチンの合成に成功したコーリー教授は、阻害活性を持つ本体に「オームラライド」と名付けてくた。人の名前がつく元素はいくつかあるが、人の名前が付く化合物は珍しい。この後、多くの化学者からラクタシスチンのサンプルを請求された。2004年、その中から3人のノーベル化学賞受賞者が誕生した。彼らはラクタシスチンを用いて、不要タンパク質の分解機構を明らかにした。彼らの業績はがん治療に応用された。人体では絶えずがん細胞が生まれているが、一方でそのがん細胞を自然に消滅させるタンパク質も働いている。ところが、折角のこのタンパク質をプロテアソームが分解してしまう。そこで、「プロテアソームの働きを阻害すれば、がんは防げる」と考えて開発されたのが、抗がん剤「ボルテゾミブ」だった。


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工学博士、技術士(応用理学)、
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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
・読売奨励賞受賞
・読売新聞社賞受賞
〇日展入選有

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