2018年02月06日
米国企業が海外に保有する資金は、アップル:約24兆円、ファイザー:約20兆円、マイクロソフト:約14兆円など、全体で約230兆円規模になると推定される。
2018/2/2付けの 大前研一さんの「 ニュースの視点 」(発行部数 167,444部)は、「ダボス会議/米通商政策/米税制改革」と題する記事である。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.トランプ米大統領は先月26日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で演説し、
「アメリカ第一主義は孤立したアメリカではない」と語り、国際的なルールや秩序の強化に積極的に関与する考えを示した。中国を念頭に「いくつかの国は他国を犠牲にして国際社会のシステムを食い物にしている」と述べ、知的財産侵害などの「略奪的な行動」を非難した。
2.トランプ大統領の演説は、「結局、何を言いたいのか?」は全く理解できない。「TPPに加盟するのか?」「パリ条約を離脱するのか?」はいずれも明確ではない。大統領就任当初、TPPもNAFTAもパリ条約も離脱すると息巻いて、トランプ大統領は早々にサインをしていたが、今になって「条件さえ良ければ」復帰を考えてもいいと発言し始めた。
3.トランプ大統領が言う「条件」は曖昧で、TPP、NAFTA、パリ条約、それぞれについても、具体的にどこに問題があるのか指摘していない。米国にとって良いディールであればと繰り返すばかりである。
4.米国の産業界にとっては、自由貿易が重要だから、TPP、NAFTA、パリ条約のいずれも大きな問題ではない。NAFTA脱退ともなれば、これまで農産物を大量に購入してくれていたメキシコを締め出すことになる。産業界からの批判を受けて、トランプ大統領もようやく間違いに気づいた。
5.トランプ大統領は石炭を復活させて雇用を創出すると主張していたが、石炭産業で増加する雇用などたかが知れている。雇用を増やすのであれば、農業のほうがよほど効率的である。今になって、トランプ大統領も自分の間違いには気づいている。それを素直に認めずに「ディールの条件が良ければ」といった曖昧な発言でお茶を濁している。
6.トランプ大統領はダボス会議のような理屈が求められる会議体には向いていない。ダボス会議の最後に演説したトランプ大統領は、「アメリカ第一主義は、孤立したアメリカではない」と述べていたが、多くの人がすでに帰っていて、トランプ大統領が孤立した状態になっていた。
7.トランプ政権は先月22日、太陽光パネルと洗濯機の輸入急増に対応するため、緊急輸入制限(セーフガード)を発動すると発表している。米国の貿易相手国別貿易収支を見ると、対中国の赤字が約3674億ドルで断トツである。台湾(約149億ドル)韓国(約280億ドル)に対しても、赤字であり貿易不均衡の状態である。
8.この統計はやや中国に不利な数字になっている。台湾と韓国から中国を経由して米国へ輸出される額も大きく、それが中国に対する赤字を膨らませている。台湾の鴻海はiPhoneを中国で作って米国へ輸出しているし、韓国企業も遼東半島で作ったものを米国へ輸出している。中国側が主体的に米国へ売っているというよりも、米国側(例えば、ウォルマートなど)が勝手に中国製品を買いまくっているという面もある。中国は、米国に対して「売りまくれる」ほど、中国企業の経営手腕は成熟してはいないと自覚している。トランプ大統領には、こうした実態も全く見えていない。
9.米国の貿易相手国別貿易収支(サービス)では、米国はサービスが強いので、中国に対しても約333億ドルの黒字である。TPPはサービス部門を含んでいるので、米国にとっては有利だったが、一度白紙に戻した上で、トランプ大統領は「条件さえ良ければ」TPPへ加盟の可能性も示唆している。
10.今さら、米国が加盟してくるのは、甚だ迷惑である。米国が加盟するのであれば、トランプ大統領が言う「良い条件」など考慮する必要はなく、以前(米国も含め)12カ国で合意したものがあるはずだから、それで再度合意するだけである。日本は米国のTPP加盟を歓迎するような姿勢を見せているが、ころころと意見を変えるトランプ大統領など、しばらく放っておけばいい。
11.日経新聞は先月22日、「トランプ減税が変える租税回避の地図」と題する記事を掲載した。米国の税制改革がM&A(合併・買収)を活発にし、節税を巡るマネーの動きにも変化を与えている。法人税率が引き下げられるほか、米国本土とその他地域の資金のやり取りに課税される仕組みが導入されることをうけたもので、今後は「新たな租税回避地」となった米国を狙う買収が増える可能性もある。
12.これにより、これまで租税回避地の集積地となっていたバミューダを利用するメリットもかなり少なくなる。米国企業が海外に保有する資金は、アップル:約24兆円、ファイザー:約20兆円、マイクロソフト:約14兆円など、全体で約230兆円規模になると推定される。
13.これはトランプ大統領が推し進める雇用創出につながらない。ビジネスウィーク誌は、「アップルのキャッシュが戻ってくるとき」という記事の中で、資金が戻ってきても工場が戻ってくるわけではないので、雇用創出につながらないと指摘している。トランプ大統領は誤解しないでほしい。
14.米国に約230兆円の殆どが戻ってくるとしたら、米国経済に与える影響は大きい。米国経済は緊縮に傾きつつ、金利も上げていこうとしている矢先に、230兆円もの資金が市場に放出されるとなると、かなり予測が難しい。
1.トランプ米大統領は先月26日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で演説し、
「アメリカ第一主義は孤立したアメリカではない」と語り、国際的なルールや秩序の強化に積極的に関与する考えを示した。中国を念頭に「いくつかの国は他国を犠牲にして国際社会のシステムを食い物にしている」と述べ、知的財産侵害などの「略奪的な行動」を非難した。
2.トランプ大統領の演説は、「結局、何を言いたいのか?」は全く理解できない。「TPPに加盟するのか?」「パリ条約を離脱するのか?」はいずれも明確ではない。大統領就任当初、TPPもNAFTAもパリ条約も離脱すると息巻いて、トランプ大統領は早々にサインをしていたが、今になって「条件さえ良ければ」復帰を考えてもいいと発言し始めた。
3.トランプ大統領が言う「条件」は曖昧で、TPP、NAFTA、パリ条約、それぞれについても、具体的にどこに問題があるのか指摘していない。米国にとって良いディールであればと繰り返すばかりである。
4.米国の産業界にとっては、自由貿易が重要だから、TPP、NAFTA、パリ条約のいずれも大きな問題ではない。NAFTA脱退ともなれば、これまで農産物を大量に購入してくれていたメキシコを締め出すことになる。産業界からの批判を受けて、トランプ大統領もようやく間違いに気づいた。
5.トランプ大統領は石炭を復活させて雇用を創出すると主張していたが、石炭産業で増加する雇用などたかが知れている。雇用を増やすのであれば、農業のほうがよほど効率的である。今になって、トランプ大統領も自分の間違いには気づいている。それを素直に認めずに「ディールの条件が良ければ」といった曖昧な発言でお茶を濁している。
6.トランプ大統領はダボス会議のような理屈が求められる会議体には向いていない。ダボス会議の最後に演説したトランプ大統領は、「アメリカ第一主義は、孤立したアメリカではない」と述べていたが、多くの人がすでに帰っていて、トランプ大統領が孤立した状態になっていた。
7.トランプ政権は先月22日、太陽光パネルと洗濯機の輸入急増に対応するため、緊急輸入制限(セーフガード)を発動すると発表している。米国の貿易相手国別貿易収支を見ると、対中国の赤字が約3674億ドルで断トツである。台湾(約149億ドル)韓国(約280億ドル)に対しても、赤字であり貿易不均衡の状態である。
8.この統計はやや中国に不利な数字になっている。台湾と韓国から中国を経由して米国へ輸出される額も大きく、それが中国に対する赤字を膨らませている。台湾の鴻海はiPhoneを中国で作って米国へ輸出しているし、韓国企業も遼東半島で作ったものを米国へ輸出している。中国側が主体的に米国へ売っているというよりも、米国側(例えば、ウォルマートなど)が勝手に中国製品を買いまくっているという面もある。中国は、米国に対して「売りまくれる」ほど、中国企業の経営手腕は成熟してはいないと自覚している。トランプ大統領には、こうした実態も全く見えていない。
9.米国の貿易相手国別貿易収支(サービス)では、米国はサービスが強いので、中国に対しても約333億ドルの黒字である。TPPはサービス部門を含んでいるので、米国にとっては有利だったが、一度白紙に戻した上で、トランプ大統領は「条件さえ良ければ」TPPへ加盟の可能性も示唆している。
10.今さら、米国が加盟してくるのは、甚だ迷惑である。米国が加盟するのであれば、トランプ大統領が言う「良い条件」など考慮する必要はなく、以前(米国も含め)12カ国で合意したものがあるはずだから、それで再度合意するだけである。日本は米国のTPP加盟を歓迎するような姿勢を見せているが、ころころと意見を変えるトランプ大統領など、しばらく放っておけばいい。
11.日経新聞は先月22日、「トランプ減税が変える租税回避の地図」と題する記事を掲載した。米国の税制改革がM&A(合併・買収)を活発にし、節税を巡るマネーの動きにも変化を与えている。法人税率が引き下げられるほか、米国本土とその他地域の資金のやり取りに課税される仕組みが導入されることをうけたもので、今後は「新たな租税回避地」となった米国を狙う買収が増える可能性もある。
12.これにより、これまで租税回避地の集積地となっていたバミューダを利用するメリットもかなり少なくなる。米国企業が海外に保有する資金は、アップル:約24兆円、ファイザー:約20兆円、マイクロソフト:約14兆円など、全体で約230兆円規模になると推定される。
13.これはトランプ大統領が推し進める雇用創出につながらない。ビジネスウィーク誌は、「アップルのキャッシュが戻ってくるとき」という記事の中で、資金が戻ってきても工場が戻ってくるわけではないので、雇用創出につながらないと指摘している。トランプ大統領は誤解しないでほしい。
14.米国に約230兆円の殆どが戻ってくるとしたら、米国経済に与える影響は大きい。米国経済は緊縮に傾きつつ、金利も上げていこうとしている矢先に、230兆円もの資金が市場に放出されるとなると、かなり予測が難しい。