2018年08月01日
記憶があいまいだから、いままで思いもよらなかった別々の記憶がポンとつながったり、内容の一部が書き替わったりする。これは想像であり、新しいものを創造でもある。
「池谷裕二著：進化しすぎた脳、講談社、2017年第34刷」は面白い。「第3章：人間は曖昧な記憶しかもてない」の印象に残った部分の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。
１． 情報を整理するのに、単語のリストが並んだときに、それがどういう連繋のしかたをを考える。甘いものに関係する単語がたくさんあると、全部甘いものだ意識する。記憶を、わざわざあいまいにする理由は、情報がいっぺんに入ってきたときに、脳が整理する。
２． その目的はなるべく多くの情報を覚え、迅速に処理するためである。脳のキャパシティは限られてる。いくら神経細胞の数が多いからといっても、世の中のことをすべては覚え切れない。
３． 人間は見たものそのものを覚えるのではなく、そこに共通している何かを無意識に選ぶ。完壁な記憶は役に立たない。脳はあいまいにものを蓄えようとしている。現実のリンゴは一個一個形が違うけど、どれもリンゴだとわかる。脳の中にはきっとリンゴのモデル(理想のリンゴ)があって、ある最低の条件を満たせば、いま見ているものをリンゴだと判断する。記憶があいまいであることは応用という観点から重要である。
４．学習のスピードが速いと、表面に見えている浅い情報だけに振り回されてしまって、その奥にひそんでいるものが見えてこない。それはこの脳の作用の裏返しである。ものごとの裏にひそんでいるルールを確実に抽出して学習するためには、学習スピードが遅いことが必須条件である。
５．コンピュータには柔らかい学習がむずかしい。そういうプログラムを組めば多少はできるけれども、相当に凝ったプログラムを組まない限り、そんな学習はできない。単語リストで、リスト中の「味」という正解を無視して、リストになかった「甘い」と答えるのは、コンピュータにはかなり難しい。表面に見えているものに振り回されないためには、学習スピードの遅さがキーになる。
６．共通のルールを見つけ出して一般化すること、これを「汎化」と言う。論理的思考法には大きく2種類ある。帰納法と演繹法で、数学の証明はすべて演繹法である。公理や定理、つまり絶対的なルールがあらかじめあって、そのルールから導かれる個々の結果はつねに正しい、という論法である。たとえば、人はみな死ぬ、だから、私もいつか死ぬ、という考え方である。本質的には演繹法である。
７．人間の脳にはそんなことはできない。脳は解釈するだけである。世界は広すぎるから全部は調べられない。ある程度限られた例のなかからルールを見つけて、それを一般化する帰納法で、脳のやり方は「帰納法」である。そういう意味では、〈汎化〉と〈帰納法〉は同義語である。
８．汎化のために有利なプロセスが、「抽象化」である。抽象化すると、いろいろなことに応用が利く。数学や物理は抽象化だから応用範囲が広い。ものごとを個別に考えるのではなくて、一歩下がって「これらを結びつけるものは何だろう」という抽象的な考え方ができるからこそ、脳は〈汎化〉ができる。
９．抽象的な考え方ができるほど、〈汎化〉が得意になる。そして汎化によってルールを知れば、新しい状況・環境へも応用が利く。人間がほかの動物に比べて、著しく応用力が高いのは、抽象的な思考ができるからである。
１０．人間が抽象的な思考ができる理由は、「言語」を持ってるからである。人間は言葉を持っているから抽象的な思考ができる。言葉がないと抽象的な思考はむずかしい。意識や心は多くの場合、言葉によって生まれる。意識や心は言語がつくり上げた抽象である。
１１．〈心〉が生命に不要なものではない。〈心〉は人間の生活の飾りでない。人間には〈心〉を活用して抽象的な思考をして、そして周囲の環境から基底ルールを抽出して、それを未来に向けて蓄えて、応用して、環境に適応している。
１２．〈汎化〉が言葉によって生まれるとしたら、言葉には2つの側面がある。1つはコミニュケーションの手段、伝達のための信号・記号も推象的思考をするための道具、考えるためのツールとしての側面である。人間は、言語を操るようになって、それをツールとして抽象的思考を扱うようになり、応用力・環境適応力の高い動物になった。
１３．人間の記憶のあいまいさは、コンピュータにはない、コンピュータは融通が利かないぐらいに正確。人間には柔軟性がある。脳はあいまいで不正確である。神経細胞はどんどん減っていくと言われるののであいまいになると:いうのは一部正しい。だけど、神経細胞の数は限られてるから、記憶をあいまいにするという目的だけで神経細胞を殺すのは、効率が悪い。
１４．記憶があいまいだから、いままで思いもよらなかった別々の記憶がポンとつながったり、内容の一部が書き替わったりする。これは想像であり、新しいものを創造でもある。コンピュータに比べると、人の記憶は容易に変わる。でも、記憶が「あいまいだ」ということは脳細胞が破壊とは違う。雑居して蓄えられるから相互作用する。
