2018年08月20日

マハティールという政治家の何が素晴らしいかと言えば、ビジョン・ドリブンな姿勢である。「こういう国にしたい」という長期的ビジョンを定めて、ビジョンで政治を駆動していく。


「大前研一著:15年ぶりに復権.マハティールに贈る言葉、PRESIDENT、2018.7.30」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。参謀を辞任後、
1.5月9日に行われたマレーシアの連邦下院選挙はマハティール・ビン・モハマド元首相率いる野党連合がナジブ前首相率いる与党連合に勝利して、マレーシア独立以来初の政権交代が実現、マハティール氏が15年ぶりに首相へ就任した。第7代首相は御年92歳。民主的な選挙で選ばれたリーダーとしては世界最高齢である。
2.マハティール氏が第4代首相を務めたのは1981-2003年の22年間。その間の18年にわたって著者は首相の経済アドバイザーを務めた時の立場から言えば、今回の再登板を素直には祝えない。晩年になっても老骨に鞭打って表舞台に立たなければならない宿命に、同情の意を表明したい。
3.15年前、首相を退いたときに著者のところに「長年世話になった」と挨拶にきてくれたことがある。そのときに「あなたの22年間の成績表だ」と5段階評価の通信簿を手渡した。「経済政策」「マレーシアの国際的地位向上」「国民の生活向上」など、ほとんどの項目は5だったが、ただ一つ1を付けた項目があった。「後継者の育成」である。
4.マハテイール氏には自他共に認める後継者がいた。アンワル・ビン・イブラヒムという学生運動出身の政治家で、当時のマハティール政権の副首相、財務大臣を務めていた。私がマハティール氏の元に報告に出向いたときには、「後継者のアンワルにも同じ説明をしてくれ」と言われて、逐一同じ説明をして同じ資料を手渡すぐらい近しい間柄だった。
5.しかし97年にタイのバーツ危機を契機にアジア通貨危機が起こる。マレーシアにも飛び火して通貨リンギットが売られて、国債の格付けも下がっていた。ある朝、パニック気味のアンワル氏から著者のところに連絡がきた。「5000億円あれば、危機は乗り越えられる」と言い、「集めてやるから安心しろ」と資金の手当てを約束して電話を切った。
6.マレーシアテレコムなど政府がいまだ株を持っている有力企業がいくつかあったので、株を売るだけでそのくらいの資金はすぐに捻出できる、と著者は考えた。しかしその作業に取りかかる間もなく、その日の午後にアンワル氏が逮捕されたというニュースが飛び込んできた。
7.容疑は汚職と同性愛。イスラム国家は同性愛に厳しい。副首相を罷免されたアンワル氏は後に有罪判決を受けて、収監されてしまった。私が問い詰めたら、「逮捕したのは警察。私は与り知らない」とマハティール氏は言ったが、一種の国策逮捕だったと思われる。
8.アジア通貨危機を引き起こしたのはアメリカのヘッジファンドによるサヤ抜き目的のカラ売りである。これに対してマハティール氏は投資家ジョージ・ソロス氏の実名を拳げて「ソロスのようなユダヤ人がイスラム国家を崩壊させようとしている。わが国に対する挑戦だ」と証拠もなく批判を始めた。ソロスは関ワを否定していたし、カラ売りの主犯は著名なヘッジファンドマネージャーのジュリアン・ロバートソンだった。
9.当時のアメリカではソロス氏は人気があったし、アメリカのメディアやジャーナリズム、経済学などのアカデミズムもほぼユダヤ系が占めているために、マハティール氏の発言は猛反発を受けた。
10.日本に範を求めたマハティール氏に対して、アンワル氏はアメリカとの関係を強化することで祖国の発展につなげたいと考えていた。アメリカの議員団を招いて国際会議を主催してマレーシアの将来性をアピールするなど、積極的に関係を構築していた。アジア通貨危機の際にもアメリカの政治家にコンタクトを取ってマレーシア救済に動いてもらおうとしたのだが、そうした動きがアメリカとの対立を深めていたマハティール氏の気に障った。彼の目には「アメリカの言いなりになって国を売り渡す危険人物」と映ったらしい。
11.著者はアンワル氏は非常によい後継者と見たが、善意に解釈すれば、アメリカに接近したのも国際的なバランス感覚のなせる業と言えなくもない。しかしマハティール氏は一時の感情に任せて彼を切り捨て、有力な後継者を失なった。
12.アンワル氏が政治の表舞台から去った後、副首相を務めたアブドラ・バダウィ氏が03年に引退したマハティール氏の後を受けて第5代首相となった。清廉で国民に親しまれるリーダーだったが、総選挙で大敗した責任を取って任期途中で辞任した。
13.後を受けて09年に6代目の首相になったのがナジブ・ラザク氏である。ナジブ前首相は父親が第2代首相、叔父が3代目首相という家系で、もともと首相候補の一 人だった。中華系民族が経済を牛耳っているマレーシアでは、格差是正のために先住のマレー系民族を優遇する「ブミプトラ政策」が長らく続いていた。
14.当初、ナジブ政権はブミプトラ政策の見直しや外資規制の緩和など自由化政策を推進して国内外の投資の活性化を目指した。しかし、自ら創設して経営にも関与してきた政府系投資会社で巨額の負債が発覚、さらには一族が絡んだ不正疑惑や同社からナジブ氏の個人口座への不正送金疑惑が噴出した。政権批判が高まるとナジブ前首相は強権政治に転じて、首相の責任を追及する野党やメディア、ジャーナリストなどを弾圧。釈放後、野党の指導者として政権批判を強めていたアンワル氏は14年に再び同性愛容疑で逮捕、収監された。
15.首相退任後のマハティール氏は政権与党「統一マレー人国民組織〔UMNO〕」の長老的立場で、時の政権を批判したり、注文を付けたりしていた。マハティール氏は自ら政権でナジブ氏を閣僚に起用していたし、ナジブ政権発足当初の関係は良好だったが、政策が意に沿わないことから徐々に政権批判を強め、1MDBの疑惑が浮上すると公然と退陣を要求するようになった。
16.党内の権力闘争も絡んでついにはUMNOを離脱、新党を結成し、野党連合の議長として5月の総選挙に出馬した。建国以来、政権交代が一度もなく、政権の締め付けが厳しい中で、にわかづくりの野党連合が勝つと本気で信じていた国民はほとんどいないだろうが、マハティール氏の衰え知らずの人気と求心力に加えて、服役中ながらやはり国民人気の高いアンワル氏との関係を修復して共闘できたことも選挙戦を盛り上げて、野党連合に地滑り的な勝利を呼び込んだ。
17.首相に返り咲いたマハティール氏は、消費税を廃止して高速鉄道計画の中止を発表するなど、前政権の政策を次々と撤回している。またナジブ夫妻の出国を禁じて歪疑惑の捜査にも着手、初の政権交代の成果を国民にわかりやすく示している。
18.本業が医者だから、健康管理をうまくやっている。ニュース映像を見ていても発言内容はしっかりしているし、声のトーンも昔とまったく変わらない。恐るべき92歳である。それでも首相を続けるのは長くて2年、短ければ1年以内にアンワル氏に職責を譲ると思われる。それは選挙公約にも掲げていた。マハティール氏は首相になった次の日に国王にアンワル氏の恩赦を願い出て、数日後にアンワル氏は釈放された。「しばらく家族との時間を大切にしたい」というコメントしか残していないが、アンワル氏もやる気はあると思われる。ただし、恩赦で自由の身になっても、若かったアンワル氏も、もう70歳、国会議員ではないから今はまだ首相にはなれない。いずれ、どこかの補欠選挙にでも出馬すると思われる。
19.思えばマハティール氏との出会いは35年以上前。彼がニューヨークの書店で著者がプレジデント社から出版Lた『企業参謀』の英語版『マインド・オブ・ザ・ストラテジスト』を手に取ったことがきっかけだった。自分で連絡してきて「この本に書いてあることをウチの国でやってくれ」と頼まれた。18年に及ぶ付き合いの始まりだった。
20.マハティールという政治家の何が素晴らしいかと言えば、ビジョン・ドリブンな姿勢である。「こういう国にしたい」という長期的ビジョンを定めて、ビジョンで政治を駆動していく。ニッパヤシの小屋に住む人々が適切な住宅に住めるようにしたい、が最初のリクエストであった。90年代になってからは著者が描いたICT時代のビジョンや戦略をすぐに共有して、同じ絵を見ることができた。だからとても仕事のしがいがあった。
21.もし、再びマハティール氏からアドバイザーを頼まれたら、もはや昔のように付き合う元気はないが、アドバイスするとしたら「人材育成」である。かつて著者はサイバーで勝負できる国にならなければマレーシアの将来はないと考えて、「マルチメディア・スーパー・コリドー」というICT構想を練った。
22.今またマレーシアの将来を見据えたとき、AIが人間の頭脳を凌駕する45年のシンギュラリティを見据えて、世界のどこにいても活躍できる人材を育成しなければならない。もちろん日本の課題も同じなのだが、日本の政治家の反応は鈍い。マハティール氏なら打てば響くように理解して、コンピュータにはできない人間の能力開発を目指した教育を国家戦略の要とする大号令を発するに違いない。


yuji5327 at 06:28 
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工学博士、技術士(応用理学)、
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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
・読売奨励賞受賞
・読売新聞社賞受賞
〇日展入選有

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