2018年11月02日
北方領土はアイヌ民族固有の土地ではあったが、日本固有の領土と証明されたことは一度もない。実効支配したもの勝ちが世界共通のルールで、力で奪い返す以外にない。
「大前研一著:平和条約締結。プーチン提案の真相、PRESIDENT、2018.11.12」は参考になる。概要の続きを自分なりに纏めると以下のようになる。
1.「前提条件なしに平和条約を結ぶ。その後、争いのある問題は友人として解決する」というプーチン大統領の提案は、日ソ共同宣言のスタンスに基づいている。実際、00年に来日したプーチン大統領は「56年宣言は有効」と語っている。16年に来日した際には首脳会談後の記者会見で、わざわざ「ダレスの洞喝」にまで言及した。プーチン大統領と安倍首相は幾度となく会談を重ねる中で、こうした歴史認識を共有したと思われる。
2.「ダレスの洞喝」がロシア側の一方的な認識であれば、トップ同士で合意を得た首脳会談の後に持ち出すわけがない。日露のボタンの掛け違いは「ダレスの恫喝」というアメリカの横槍で生じた。ならばもう一度、56年宣言に立ち返って、平和条約の締結から始めよう。条約締結後に領十問題を解決しようというプーチン提案を安倍首相はどこかの段階で受け入れると私は思う。
3.領土問題を解決して国境線を画定してから、平和条約を結ぶという従来のアプローチでは、日露関係は何一つ動かない。これを動かすためには、アプローチを変えて先に平和条約を持ってくるしかない。そのことを安倍首相は十二分に理解しているはずだ。しかし平和条約を先行すれば、結果として北方領土問題は棚上げになる。当然、世論の反発が予想されるが、これを乗り越えるためには日本政府と外務省は国民に一度頭を下げて詫びなければいけないと思う。なぜなら「北方領土はわが国固有の領土」などとナショナリズムを煽る誤ったプロパガンダで国民世論を先導してきたからである。
4.「風土病」と呼んでいるが、それぞれの国には政府のプロパガンダによって刷り込
まれ、国民の間に根付いた都市伝説のような「歴史」がある。たとえば中国では「中国共産党が抗日戦争に勝利して人民を解放した」とほとんどの人が信じ込んでいる。しかし、それは中国共産党が、党独裁や土地の所有を正当化するためのプロパガンダにすぎない。5.毛沢東が率いていた当時の中共軍は長江の上流に逃げ込んでいて、日本軍とは戦っていない。日本がアメリカに無条件降伏して終戦を迎えただけで、抗日戦争に勝利したと言える中国人は一人もいない。強いて挙げれば、カイロ会談にも参加している国民党の蒋介石くらいである。
6.アメリカにも風土病がある。広島、長崎への原爆投下である。東京裁判で規定された戦争犯罪でいえば、20万人以上の命を奪った原爆投下は紛れもなく「人道に対する罪」である。しかし多くのアメリカ人は「原爆投下は戦争終結を早め、米兵、日本国民双方の死者を減らした。必要な手段だった」という関係者や研究者のアナウンスメントを信じている。
7.同じように「北方領土は日本固有の領土であり、ロシアが不法に侵攻、占拠して実効支配を続けている。北方領土が返る日が、平和の日。北方四島が戻ってくるまで、平和
条約なんてありえない」というのも典型的な日本の風土病である。
だ。
8.そもそも北方領土はアイヌ民族固有の土地ではあったが、「日本固有の領土」と証明されたことは一度もない。領土というのは実効支配したもの勝ちである。これは世界共通のルールで、納得できなければ力で奪い返す以外にない。
9.北方領土の領有は第二次世界大戦の結果、戦勝国のソ連が獲得した正当な権利、とロシアは主張する。戦後処理の流れを精査すると、ロシアの言い分は正.しい。北方領土は
戦勝権益としてロシアに与えられて、アメリカ以下の連合国から承認された。「日本固有の領土」と主張するのは、日本が第二次世界大戦の結果を受け入れていないことにながる。だからプーチン大統領やラブロフ外相からことあるごとに「第二次世界大戦の結果を受け入れるのが話し合いの原点」と言われる。
10.安倍首相はプーチン大統領と何度も話し合って、領土問題の因果を深く埋解しているはずである。まずは平和条約を結ぶ。その後に友人であるロシアの善意と日本の見返りをバランスしながら領土問題を解決していく。今後ロシアとそうした交渉をしていくためには、北方領土に関する日本の風土病を我々自身か克服することがきわめて重要である。11.政府や外務省が国民に突然頭を下げるわけがない。従って、たとえば日露関係や北方領土問題を正しく見つめ直すための有識者会議を組織して、政府にクレバーな日露関係のあり方や北方領土問題の解決の仕方を提言させる。決して簡単なことではないが、そうした形で歴史を正していけば国民の納得と理解も得られやすい。