2019年01月02日
製造業中心の研究開発に終始する日本企業は、ビジネスモデルの点でも置き去りにされている。科学技術立国・ニッポンが置かれている状況は極めて厳しい。
「瀬戸際の科学技術立国:週刊ダイヤモンド、2018.12.8」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.先月10日、スウェーデンのストックホルムでノーベル賞授賞式が行われた。昨年のノーベル生.理学・医学賞を受賞した本庶佑・京都大.学高等研究院特別教授は、若手研究者支援のための基.金を設立し、賞金の約5700万円(共同受賞者と分割した額〕を寄付することを表明している。
2.基金自体の規模は数千万円にとどまるものではない。本庶氏の構想では「数百億〜1000億円規模」とのことである。この金額が意味するものは、本庶氏の持つ「日本の基礎研究分野に対する危機感」である。本庶氏はかつて本誌のインタビューで、日本の基.礎研究の状況について「かなり瀬戸際だ。私たちの世代、次の世代までは何とかやってこられた。今の時代は大変つらい思いをしている。
3.近年、日本人のノーベル賞受賞が続いているが、それは1980〜90年代までの研究環境による成果であって、その後の日本の科学技術政策を鑑みると、これから先は期待が持てないと、訴える研究者は多い。
4.「2004年の法人化以降、大学として独自にやらなければいけないことが増えたにもかかわらず、運営費交付金は毎年減ってきた。その結果、大学の研究の力は完全に落ちた。そう嘆くのは、15年のノーベル物理学賞受賞者、梶田隆章・東京大学宇宙線研究所所長である。
5.2000年、日本の科学技術予算は3兆2859億円で、同3兆2891億円の中国と並んでいたが、その後、日本がほぼ横ばいで推移する中、中国はで科学技術予算を積み増していった。16年は22兆3988億円で日本の6倍以上である。当然ながら、同時に研究者数、論文数でも日本は中国に大差をつけられている、ノーベル生.理学・医学賞を受賞した大隅艮典・東京工業大学科学技術創成研究院名誉教授も、「現状を放置すれば日本の基礎科学は徹底的に駄目になる。さまざまな領域で世界レベルに対応できず、その穴を埋めるには何十年もかかる。しかし国の危機意識は非常に乏しい」と警鐘を鳴らす.。
6.1973年のノーベル物理学賞受賞者、江崎玲於奈・茨城県科学技術振興財団理畢長も、基礎研究に対する世聞の理解に苦言を呈する。.基.礎研究に対して『役に立たない」という不当な評価がある。当初から役に立つことを狙っているような基礎研究などあり得ない。7.日本の研究開発投資の8割を占める民間企業も頼りない。大企業の多くが「中央研究所」を抱え、基礎研究の一翼を担っていたが、バブル崩壊以降は収益への貢献度を理由に撤退が相次いだ。企業における研究開発領域で存在感を強めているのは、米国のグーグル、アマゾン、フェイスプック、アップルのGAFAを代表とするITジャイアントである。米国でもAT&Tのベル研究所や、IBMのワトソン研究所など.基礎研究分野を担う中央研究所の存在感は薄れているが、新たな主役に躍り出たGAFAたちは、AI(人工知能)をはじめとするコンピユーターサイエンスの研究成果を続々とITサービスのプラットフォームに投入し、収益に結び付けていく。さらに彼らの研究領域は、旧来型の製品・サービスの破壊を伴う例が多い。
8.中国のアリババ、テンセント、ZTE、バイドゥといった企業も、こうした米国型の研究開発で猛追を始めている。相変わらず製造業中心の研究開発に終始する日本企業は、ビジネスモデルの点でも置き去りにされている。科学技術立国・ニッポンが置かれている状況は極めて厳しい。