2019年02月13日
グーグルのデータ利用について、問題なのは、さまざまなデータを総合して、プロファイリングされることである。どのようにプロファイリングされているか分からない。
「野口悠紀雄著:プラットフォーム企業の支配力にどう対処するか、週刊ダイヤモンド、2019.2.16」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.フランスのデータ保護機関である情報処理・自由全国委員会(CNIL)は、1月21日、グーグルが欧州連合(EU)の一般データ保
護規則(GDPR)」に違反していたとして、約62億3000万円の制裁金を科した。CNILは、個人情報の利用目的などを説明したグーグルのページが分散していて分かりにくい。ユーザーがアカウントを作る際にグーグルは一括して利用規約への同意を取っていたが、CNILは同意は利用目的別に行うべきだ」と強調し、グーグルの方法が不適切であるとした。
2.グーグルが提供するサービス利用の見返りとしてグーグルが個人情報を得ることは、多くの人が、十分承知していた。それを知りながらも、検索、メール、地図などのサービスを使わざるを得ない。説明が分かりやすくなったために、グーグルのサービスを使わないこという人は出てこない。
3.昨年12月の米下院司法委員会による公聴会で、ある議員は、「このスマートフォンを持って歩けば、どこにいるか分かるのか?」として、グーグルのスンダー・ピチャイCEOを詰問した。しかし、位置情報をオンにしていれば位置が知られることは、多くの人が承知している。写真を撮れば撮影地の記録が残ることも、それをSNS等で拡散すれば問題が生じ得ることも、多くの人が知っている。この議員の追及は、見当違いである。
4.グーグルのデータ利用について、問題なのは、さまざまなデータを総合して、プロファイリングされることである。どのようにプロファイリングされているか分からない。グーグルが把握しているのは、現在の位置よりもっと詳細なことだ。グーグルは2012年に「グーグル・ナウ」というサービスを始めた。これは、個人が生活の中で必要とする情報を、尋ねる前に自動的に表示するサービスだ。そこでは、勤務先を教えてもいないのに、勤務先の場所が特定されたりしている。この程度のブロファイリングは、すでになされているのだ。このサービスについては「気味が悪い」という人が多い。個人の状況があまりに詳細に、正確に知られて
いるようだからだ。年齢、所得、健康状態、趣味、家族状況、政治的信条等まで知られているのではないか? という懸念を消すこと
ができない。
5.プロファイリングされた結果がどう利用されているのかも分からない。広告に用いられることは知っているが、それだけかどうかわからない。他企業に売られているかどうかわからない。プロファイリングが正しくないと判断したとしても、それを変えてもらうことなど到底できない。以上のことは、グーグルだけでなく、プラットフォーム企業と呼ばれるものについて、多かれ少なかれ共通した問題である。
6.昨年12月、日本政府は、IT大手の規制に関する基本原則を公表した。それによれば、個人情報などのデータを「金銭と同じ価値」があるとみなして、独占禁止法の運用範囲に含め、企業による「優越的地位の乱用」の適用を検討するという。しかし、グーグルは、無料でサービスを提供した結果、利用者を増やした。この問題は、独禁法では対処できない。「価格支配力の行使」とか「優越的地位の乱用」という概念は適用しにくい。プラットフォーム企業が新しい支配力を持ちつつあることに問題があること。どう対処したらよいのかどうかわからない。適切な方法を見いだせないのが現状である。
7.もう一つ問題は、個人情報が吸い上げられてビッグデータとして活用される機会が増えることである。これまでビッグデータの供給源として重要な役割を果たしてきたのは、検索、メール、地図、オンラインショッピング、SNSなどである。今後はそれ以外のものも登場する。端末やアプリのログインにパスワードの代わりに顔認証が用いられると、人々は顔のデータを提供することになる。また、加入者の個別状況に応じて保険料や保険金を細かく変える保険では、加入者はさまざまの詳細な個人データを提供する。
8.個人情報が吸い上げられるもつ一つの重要なチャネルは、マネーである。現金は匿名性を持つ支払い手段だから、個別の支払い状況を追跡することはできなかった。現金に関して収集できるのは、発行残高、流通量などのマクロデータである。銀行は、データを電子的に処理するようになってから、個々の取引を個人名や個別企業名とひも付けて把握できるようになった。だから、かなりのデータを蓄積し得た。しかし、プライバシーの問題があるので、こうしたデータを積極的に活用することはなかった。また、仮にデータ分析を行っても、それを収益化する手段がなかった。把握できるのは自行の取引だけである。クレジットカードもマネーの一種だが、情報は部分的だった。ところが、この状況が最近になって変わってきた。電子マネーの利用履歴が利用可能になったからである。
9.中国の電子マネーであるアリペイの利用履歴は、その子会社によって信用度スコアリングに使われている。このスコアリングは、SNSのデータなどより正確に、プロファイリングができる。さらに、民間の大手銀行や中央銀行が仮想通貨を発行することになれば、取引データによって極めて詳細な個別状況を把握できることになる。とりわけ中央銀行の仮想通貨の場合には、事実上全ての取引がこれによって行われるようになるから、中央銀行は、これまでどんな主体も持つことができなかったデータを持つようになる。こうした状況をどう考え、どう対処すべきか、これまでなかった新しい問題に直面している。