2019年03月09日
筆頭が、日本にも進出し倉庫型の巨大スーパーのコストコで有料の会員制度を導入した。同社は17年度から10%近い伸びを見せ、利益も10%近く増加し好調である。
「城田真琴（野村総合研究所上級研究員）著：飲み込まれない猛者たち、Newsweek34, 2019.03.05」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。１．
１． アマゾン・エフェクトとともにデス・バイ・アマゾンというキーワードもメディアをにぎわすようになって久しい。デス・バイ・アマゾンとは、アマゾンの台頭によって窮地に陥ると予想される上場企業銘柄の株価を指数化したものである。14年に米国の投資憶報会社ビスボーク・インベストメント・グループが設定したインデックスであり、日本語では「アマゾン恐怖銘柄指数」と訳される、
２． このインデックスはアマゾンの躍進で。業績の悪化が見込まれる小売関連企業54社で構成されている。例えば、世界最大の小売業ウォルマート、大手書籍チェーンのパーンズ&ノーブル、会員制大型量販店コストコ・ホールセールのほか、」・C・ベニーやメーシーズ、ノードストロームなどの、百貨店、ターゲットに代表されるディスカウントストア、さらにはドラッグストアやアパレル,スポーツ用品販売店などが含まれている。
３． これらの企業に共通するのは、収益の大半をリアル店舗から得ており、販売している商品は自社のオリジナル商品ではなく、他社商晶が中心という点である。.デス・バイ・アマゾンの構成企業の中には、小売業の老舗シアーズや、シューズ・スポーツウエアの大アチェーン店フット・ロッカーのように、既に倒産に追い込まれたり、大規模な店舗閉鎖を余儀なくされたりするなど.経営不振に陥っている企業が多い。しかし、一部の企業は、アマゾン・エフエクトを指摘されながらも、しぶとく生き残っている。
４． その筆頭が、日本にも進出し倉庫型の巨大スーパーを展開するコストコである。同社の18年度の売上高は1384億ドルと、17年度から10%近い伸びを見せたほか、利益も同様に10%近く増加するなど、好調な業績を維持している。コストコは、有料の会員制度を導入した初のスーパーとして知られる。一般のスーパーと異なり、顧客は入会手続きを済ませ、年会費を払わなければ入店できないが、手続きを済ませ、倉庫のような店内に一歩足を踏み入れれば、生鮮・加工食贔から飲料、日用雑貨、家電、事務用]川、衣料、力―用品など幅広い商品が並んでおり、そのスケールに圧岡される。ほとんどが業務用のボリュームのある商品だが、実は同じカテゴリーの商品の種類はそれほど多くない。この点がポイントである。同社は会員の年会費を運転資金にして、市場で人気のある質の高い商品に絞って大量に買い付けることで安く仕入れ、顧客には原価すれすれの低価格で販売している。つまり、大量に安く仕入れ、大量に安く販売していることになる。
５． 18年度の同社の営業利益と会費収入は、それぞれ45億ドルと31億ドルである。もし会費収入がなければ.営業利益は14億ドルしか残らない。原価率は約89%にも上り、同社が販売している商品は原価ギリギリである。通常の企業では、ほとんど儲けを残すことができない原価率である。それだけ低価格で商品を提供していることになり、それが顧客満足度を高める。実際、北米では同社の会員の90%が次年度も契約を更新しており、解約率は極めて低い。顧客と長期的な関係を築いていることが分かる。会員制で顧客の囲い込みを行い、会員料金で利溢を出すという点はアマゾンと共通しているが、それもそのはずで、アマゾン・ドットコムのCEOであるジェフ・ペゾスは「アマゾン・プライム」を立ち上げるに当たって、コストコのビジネスモデルに着想を得たとされる。アマゾンはプライム会員に対して、「当日お急ぎ便」や映画見放題の「プライム・ビデオ」、100万曲以上の楽曲が聴き放題の「プライム・ミュージック」など手厚いサービスを提供し、顧客満足度を高めることによって顧客の囲い込みを図っている。
６． コストコも、店舖に併設されているガソリンスタンドで、近隣のガソリンスタンドよりも安く給油できるようにしたり、フードコートでホットドツグやソフトクー1ームなどおいしいと評判のファストフードを低料金で提供したりして、顧客ロイヤリティーを高めることに熱心である。消費者は安く給汕するためにコストコの会員になり、会員になった後は、ガソリンスタンドに来たついでに店舗で買い物をして、さらにフードコートで軽食を取るという好循環を生み出している。同社はこうしたシナジーによって、デス・バイ・アマゾン銘柄に組み込まれながらも、業績を伸ばし続けているのである。
７． コストコは、会員制というビジネスモデルを変えずに好調を維持しているが、ビジネスモデルを大きく転換することで生き残りを図っている企業もある。その典型が、北米で百貨店チェーンを展開するノードストロームである。同社は、ファッションに特化した実店舗中心の高級百貨店のイメージが強いが、現.在の同社の成長を支えているのは,ーオフプライス部門とーデジタルセールスである。オフプライスとは、ブランドメーカーや小売業の過剰在庫を買い取って、常時ディスカウント価惰で販売する小売り形態である。品質が保証された有名プランドの商品が安く手に入るとあって、近年人気を集めている。ノードストロームが、オフプライス専門の百貨店：ノードストローム・ラックの1号店をオープンしたのは1975年と、その歴史は長い。ただし、しばらくは定価販売のフルプライス店舗が中心であった。例えば、今から約10年前の08年11月時点では.フルプライス店舗が109、オフプライス店舗が56であったが、18年11月には米国内のフルプライス店舗がl16、オフプライス店舗は238と完全に逆転している。
８． .オフプライス店舗では、商品を定価の30〜70%引きで販売しているため、売り上げはまだフルプライス店舗には及.ばないものの.全体の約3分の1を占めるまでになっている。18年第3四半期決算では、売り上げが前年同期比5・8%増(フルプライス店舗は0.4%増}と妊調だ。
９． 最近の成長の原動力となっているのが、デジタルセールスである。これには一般的なEC〔電子商取引}のほか、ネットで注文した商品を店舗で受け取る「BOPUS9」やネットで予約した商品を店舗で試着後に購入する「ストアリザーブ」などが含まれる。現在、同社はこのデジタルセールスに注力しており、18年度の売リ上げは前年度から20%も増加し、全売り上げの30%を占める見込みである。同業のデス・バイ・アマゾン銘柄であるJ・C・ペニーなどが業績悪化に苦しんでいるなか、ノードストロームは、積極的にオフプライス店舗とデジタル戦略に舵を切ることで、生き残りの道が見えてきた。
１０．デス・パイ・アマゾンを作成したビスポーク・インベストメント・グループは、アマゾンの影響を受けづらい企業で構成する「アマゾン・サバイバー」という指数も発表している。中でも好調なのが、住宅リフォー!ム・建設資材などをう世界最大級のホームセンター、ホーム・デポである。ホーム・デポがアマゾン・サバイバーたる大きな理由は、顧客に家の建築やリフォーム、配管などを行う専門業者が多い点である。店内には、作業用照明や多彩なバリエーションの建築資材がそろっているほか、材料の大量販売も
行っている。同社の売り上げの30〜40%はこうした業者向けの売り上げが占めており、これは、専門業者からの要求にも応えられるほど高度な専門知識・スキルを持ワた従業員がいることも意味する。そして、この点は一般消費者向けのサービスにも大きく寄与している。
１１．同社のキャロル・トメCFOは「われわれは、顧客が問題を抱えているときに、その解決の手助けをする。バスルームが水漏れしていたら、それはあなたに似合うセーターを探す場合とは全く異なるニーズだ」と言う。米国は伝統的にDIYが盛んであ.り、日本人なら通常、専門業者に頼むような家の修繕であっても、一般消費者がホーム・デポや競合のローズのようなホームセンダーで材料を購人し、自分で修理してしまうことが多い。
１２．このためホーム・デポは、動画によるDIYのハウツーコンテンツを提供したり、高度な専門知識を持つ従業員の育成に多大な投資を行うなどして、DlY層の拡大に熱心に取り組んできた。この点が、良くも悪くも商品を売るだけのアマゾンとの大きな違いである。ホーム・デポは、家一軒を建てるのに必要なものを全てそろえており、DIY向けの工具や建設資材などのほか、芝生や園芸資材などのガーデニング用品も取り扱う。高価な住宅資材は実際に自分の目で確認してから購入したいというニーズが根強く、また、材木やブロックなどの大きく重い資材は配送が困難であり、オンライン販売ではコストがかさむ。アマゾンといえども安易には近づけない領域である。
１３．三者三様のサバイバル戦略を紹介したが、同じことをやったからといって、今後も生き残れる保証はどこにもない。近年のアマゾンは、ECには不向きとされてきた食料品や家具の販売にも進出したほか、レジなしの無人店舗「アマゾンGO」をオープンさせるなど、誰も予想できない手を次々と繰り出してきた。競合他社ができるのは、アマゾンが進出してこないことをただ祈ることだけである。
