2019年03月12日
データ流通の促進は重要で、データサイエンティストの育成が必要。この分野の日本の人材不足は、深刻である。ビッグデータ活用の日本の最大の問題である。
![週刊ダイヤモンド 2019年 3/9 号 [雑誌] (小規模農家こそ勝機あり 儲かる農業2019)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51VRUJ6ue0L._SL160_.jpg)
「野口悠紀雄著：データ流通のために必要とされる諸条件、週刊ダイヤモンド、2019.3.09」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
１．ビッグデータの重要性が認識されるようになってきた。これとともに、データを売買しようとする試みが広がっている。これには、幾つかの形態がある。「データ流通環境整備検討会AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ」(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室)は、2017年3月の「中間とりまとめ」で、次のような類型を区別している。(1)PDS(Personal Data Store)。これは、他者保有データの集約を含め、個人が自らの意思で自らのデータを蓄積・管理するための仕組みであって、第三者への提供に係る制御機能を有するもの。(2)情報銀行。これは、個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示またはあらかじめ指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者に提供する事。(3)データ取引市場。これは、データ保有者と当該データの活用を希望する者を界し、売買等による取引を可能とする仕組みだ。価格形成・提示、需給マッチング、取引条件の詳細化、取引対象の標準化、取引の信用保証等の機能を担う。日本でもこれまでビッグデータの売買を行おうとする試みはなされてきたが、同時に論議も引き起こした。
２．13年には、東日本旅客鉄道(JR東日本)がICカード乗車券（Suica）の利用履歴を日立製作所に販売していることが、新聞やテレビに取り上げられて問題となった。日立は7月に、データを利用し、駅周辺のマーケティング情報として企業に提供するサービスを開始した。JR東日本は、ωE雷のデータを販売することを、事前に利用者に説明していなかった。「個人情報の無断販売だ」との批判に対して、当初、「個人が特定できるようにはなっていないから、個人情報に当たらない」としていた。しかし、批判が収まらなかったので、事前の説明が足りなかったと謝罪し、販売を中止した。最近では、金融機関によるデータ利用の動きが注目される。三井住友力ードは、17年6月から、外国人客による加盟店でのカード支払い情報を自治体に提供するサービスを始めた。
３．三井住友フィナンシャルグループ(FG)とヤフーは、17年8月、データ分析やアブリサービスの開発を行う合弁会社の設立を発表した。ところが、情報を匿名化するのか、本人の同意を得るのかを明らかにしなかったため、批判を浴びた。この新会社は、ブレインセルとして18年6月に設立された。三井住友FGの顧客データの分析などを手掛け、金融商品の開発や提案、市場調査を行っているとされる。
４．相対取引だと、データの書式や格納方式が場合によつて異なり、データのやりとりに手間がかかる。この問題を克服するため、「ビッグデータ取引所」をつくる構想がある。これによってデータの流通基盤ができれば、企業は購入したデータを効果的に利用できるようになるとされる。
５．中国では、国務院が15年9月に「ビッグデータ発展促進行動要綱」を公表し、ビッグデータの活用を進める方針を示した。これ以来、ビッグデータ活用の機運が高まった。貴陽市にビッグデータセンターがつくられ、関連企業を誘致する試みがなされている。16年4月には、上海市静安区の市北高新技術服務業園区に、上海数据交易中心(上海データ取引センター)が設立された。これは、上海市政府の承認を受けて設立した初のビッグデータ取引所である。
６．上海市は、さまざまなデータを保有している。上海データ取引センターでは、こうしたデータや、企業が保有するデータを取引する。各種データは、個人情報などが特定されない形に加工され、暗号化してやりとりされる。日本でも、エブリセンスジャパンによるデータ取引サービスが、18年10月に始まった。日立やオムロンは、センサーデータなどを流通させる環境を整える。
７．情報の流通でまず重要なのは、プライバシーへの配慮である。17年5月に施行された改正個人情報保護法では、「匿名加工情報」という概念がつくられた。これは、特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、当該個人情報を復元できないようにした情報のことである。国会の審議では、ポイントカードの購買履歴、交通系のICカードの乗隆履歴などの利用、医療機関が保有する医療情報の活用が例として挙げられた。
８．「匿名加工情報・個人情報の適正な利活用の在り方に関する動回調査、事業者の匿名加工情報利活用事例集」では、これらのカテゴリーごとに、事例が示されているが、活用の可能性が示されているだけで、実際の具体例が示されているわけではない。しかし、匿名加工情報によって問題が完全に解決されたのかどうか、疑問である。交通糸のICヵードや銀行預金など、利用者が極めて多数である場合に本人の同意なしの利用が行われたとすると、利用者が多数であるために、反対する人も多数になるだろう。
９．それ以外の問題もある。特に難しいのは、データの値付けだ。購人したデータが価格に見合つだけの経済価値を生み出すかどうかは、確実とはいえない。なぜなら、ビッグデータは、個別のデータそれ自体が直接に価値を持っているわけではなく、全体として価値が出るものだからである。また、分析を行うことによって価値が出る。例えば、データを用いてプロファイリングを行い、それをマーケティングに用いることが価値を生む。その際、いかなるモデルを用いて分析するかによって、価値が大きく異なる。.また、データの欠損値をどう処理するかが結果を左右する。
１０．予測モデリングや分析手法を競い合つサイトであるKaggleでは、タイタニック号事件での死者の推計など幾つかの事例についてコンペを行っているが、同じデータセットを用いるにもかかわらず、データの処理や用いるモデルによって、参加者の成績には大きな差が出る。加工や分析がされていない元データに近いほど、付加価値が低く、データ流通に対する許容性は高いといわれる。しかし、利用企業が処理能刀を持たない場合も多い。
１１．Suicaの日立の場合には、日立にデータ分析者がいたのだろうが、どの企業もそうした能力を持っているわけではない。これまでのところ、ビッグデータの価値は、GAFA、BATが企業内で実現した場合が多かったのだが、それは、こうした事情による。データ流通の促進は重要な課題だが、それだけでなく、データサイエンティストの育成が必要である。この分野での日本における人材不足は、深刻である。これこそが、ビッグデータ活用に当たって日本が抱える最大の問題である。
