2019年03月13日
ちっぽけな天体に向かう理由は、これらの小天体は、大型の惑星に比べると極めて多くの情報を提供してくれる。46億年前の太陽系の誕生時の情報である。
![週刊ダイヤモンド 2019年 3/9 号 [雑誌] (小規模農家こそ勝機あり 儲かる農業2019)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51VRUJ6ue0L._SL160_.jpg)
「渡部潤一（自然科学研究機構国立天文台教授副台長）著：惑星探査で明らかになった太陽系小天体のバラエティ、週刊ダイヤモンド、2019.3.9」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
１． 惑星探査が盛んである。大型の惑星を調べるだけではなく、惑星と呼ばない小さな天体への探査が盛んになってきている。小惑星、彗星といった太陽系小天体への探査である。特にサンブルリターンで先陣を切ったのが、わが日本である。世界で初めて小惑星のかけらを持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ」は、科学的成果はもちろんだが、種々のトラブルや困難を乗り越えて地球に帰還したことが話題になって、商業映画が複数作られるなど.日本の宇宙開発史上に金字塔を打ち立てた。
２． 現在その後継機である「はやぶさ2」が、2月22日にタッチダウンを見事に成功させた。その帰還が待ち遠しい。米国も、はやぶさに続けとばかりに「OSIRIS-Rex」という探査機を小惑星ベンヌへ向かわせ、サンプルリターンを狙っている。ヨーロッパは氷を含む小天体、彗星への探査で先行した。2014年夏に、彗星探査機「ロゼッタ」が、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到着し、ランデブーしながら16年まで、この彗星の詳細な観測を行った。また、地球からはるか遠方の小天体にも初めて人類の手が届いた。米国の探査機「ニューホライズンズ」が、太陽系の外縁にある小天体2014MU69に接近し、その姿を明らかにした。
３、こうしたちっぽけな天体に向かう理由は、これらの小天体は、大型の惑星に比べると極めて多くの情報を提供してくれる。それも46億年前の太陽系の誕生時の情報である。太陽系がどのようにして生まれかは、太陽が生まれ、その周りで塵やガスの円盤ができる。これを原始太陽系円盤と呼ぶ。ぐるぐる回っているので、全てが太陽に落ち込むことはできない。円盤の中では、次第に固体物質が沈殿していく。太陽に近い場合は温度が高いために、岩石や鉄などの金属が固体の塵となる。太陽から遠いと温度が低いため、水も氷となって岩石や金属と同様に固体となる。それらが円盤の中で衝突、合体を繰り返していき、次第に大きくなっていく。砂粒が岩に、そして山のような大きさの天体へ成艮し、それらがさらに合体を繰り返し、やがて巨大な惑星へと成艮していく。いったん巨大な惑星になると、内部が高温高圧となって溶けてしまい、成分分離が起きる。比重の大きな物質が中心に落下し、軽い物質が表面に浮いてくる。地球の中心には鉄やニッケルの核があり、表面の地殻にはケイ酸塩鉱物から成る岩石があるのも、この成分分離のせいである。
４．これは日常生活で使うドレッシングに例えられる。比重の異なる成分を含むドレッシングは、そのままにしておくと容器の下の方に重い成分が沈み、上の方には軽い成分が浮いてくる。かける前にドレッシングをよく振るのは、均一に混ぜるためである。ただ、惑星を混ぜるわけにはいかない。いくら表面を掘っていったとしても、核には届かないため、いったい地球のような惑星がもともとどういった成分からできたのか分かり得ない。
５．そこで小天体への探査である。小天体はもともと惑星.になり損ねた、太陽系形成の残澤であり、サイズが小さいために成分分離が起こるほど温度がトがったことがない。そのため、成分的にも均一な状態であり、いってみれば惑星をつくり出した卵の化石といえる。化石を調べれば、太古の太陽系形成のもともとの成分や、どのように衝突、合体していったのかという歴史に対するヒントも与えてくれる。特に後者の視点で、面白いことが明らかになりつつある。衝突、合体する前の単独の天体と思われるもの、そして明らかに衝突、合体した直後の姿と思われるものが、それぞれ見えてきた。
６．単独の天体の代表は、はやぶさ2のターゲットである、小或蒐.リユウグウ、そして小惑星ベンヌである。どちらもそろばん玉のような形状で、コマのような姿をしている。1度衝突し、破壊された破片が再集積して、自転軸を中心に回転対称形になつたものと想像されている。一方、こうした二つの天体が衝突し、合体した直後と思われるのが、ニューホライズンズが接近した太陽系の最果ての小天体、2014MU69である。それはまるで宇宙に浮かんだ雪だるまのように見える。直径がそれぞれ19kmと12kmの大小二つの天体がくっつき、全体では長さが約30kmの雪だるま天体といってもよい。
７．実際、太陽から遠いため、氷を大量に含んでいるとみられており、本当に雪だるまなのだろう。ニューホライズンズのチームでは、この天体にウルティマ・チユーレというニックネームを付けている。北方にある聖地を指す言葉だが、人類が天体として接近したものとしては、その距離が約65億kmと最も遠いので、ふさわしい命名である。
８．彗星探査機ロゼッタが明らかにしたチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星も、ウルティマ・チューレに近い。雪だるまには程遠いが、アヒルのおもちゃのような形状は、頭部と胴体と別々の天体が合体した名残のように思える。こういった天体を接触型の二重小惑星などと呼ぶことがある。通常は原形をとどめずにやや細長くなったりすることも多い。その意味では、どちらも割合にゆっくりと、静かに衝突して一つになった可能性が高い。もともと重力的に結び付いて、お.互いをぐるぐる回っていた天体が、その距離を縮めていき、最終的に合体したのかもしれない。
９．その後のウルティマ・チューレの観測データの解析から、さらに不思議な報告がなされた。球形と思われた二つの玉が、パンケーキのように.平べったい形状だという。これによって、ますます謎が深まった。今後の探査でも、予想もしない姿の小天体が明らかになるかもしれない。
yuji5327 at 06:36
