2019年05月06日

全世界の注目の機会だったのに、ゴーン前会長は、それを逃してしまった。この機会を利用しなかったのは、社会に顔向けできないと彼自身が考えていたから。


「野口悠紀雄著:なぜゴーン前会長は演説しなかったのか?、週刊ダイヤモンド。2019.4.6」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.3月6日、逮捕から108日目・保釈され、待ち構えていた報道陣の前に姿を現したカルロス・ゴーン・日産自動車前会長は、作業服で変装していた。そして、黒塗りの大きな車ではなく、目立たない小さなワゴン車に乗って東京拘置所を後にした。これは、報道陣に追跡されて保釈後の居場所を把握されないための措置だったとされる。これを見た多くの人々は、あぜんとしたに違いない。世界的な企業をリードしてきた人であれば、それにふさわしい堂々とした姿を見せるだろうと考えてい。もし、何の罪もなく清廉潔白であり、長期の拘留が不当なものであるというなら、拘置所の前で待ち構えた報道陣の前で、そのことを訴えて演説すべきだった。 
2.1月には、東京地方裁判所で無罪であることの主張をしている。このときは映像や声が報道されたのでなく、記者による間接的な報道だった。3月6日はこれとは違い、ゴーン前会長の姿が全世界に向かって伝えられた。それを見た人々がその主張に共鳴すれば、彼に対する世の中の受け止め方は、大きく変わったに違いない。これからはゴーン前会長側と検察との間で、法廷闘争が繰り広げられる。弁護団は高給をもって雇われた超優秀な人々なので、裁判の行方は見通せないといわれている。彼が鉦罪を勝ち取る可能性は十分ある。
3.法律的な観点とは別に、人々の評価というものもある。それが法廷の判決と違うことになっても、それを無視できない。給与を隠したり、損失を会社に付け替えたりする行為は、ゴーン前会長の評価を左石する重要な点である。これらに関して報道されていることが正しければ、人々の信頼を裏切る行為であり、彼は私利私欲の権化としか言えない。
4.それらが虚偽の報道であると主張したいのであれば、ネガティブなイメージを一瞬のうちに払拭できる機会が与えられた。全世界の人々が注目していたまたとない機会だったのに、ゴーン前会長は、それをみすみす逃してしまったことになる。なぜこの機会を利用しなかったのか? それは、社会に顔向けできないと彼自身が考えていたからではないのか? そう考える他はない。
5.このように言うとき、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」におけるマルクス・アントニウスのユリウス・カエサル追悼演説を思い出す。ブルータス一派によるシーザー暗殺を、ローマ市民は喜び、これを支持して熱狂した。暴君を倒したブルータスは、ローマの新しい英雄になっていた。そうした空気の中で市民の前に姿を現したアントニーは、まず「私はシーザーを賞賛するために来たのではない」と言って、人々に迎合するそぶりを見せる。しかし、そのすぐ後に、「悪行は死後も生きながらえるが、善行は葬られる」と不思議なことを言う。そして、シーザーが生前、ローマの人々をいかに気遣っていたかという例を、次々に挙げていく。ただしすぐに、「しかし、プルータスによれば、彼は野心家だった」と認める。
6.シーザーの善行が繰り返し言及されるにつれて、「プルータスは高貴な人」という褒め言葉がどんどん空虚なものになっていく。巧みなすり替えが行われていく。ローマ市民の考えは、いつの間にか180度変わってしまい、プルータスは悪者になる。そして、市民は大挙してプルータスの屋敷の焼き打ちに押し掛ける。驚くべき逆転劇である。注意したいのは、アントニーは、シーザーが野心家でないことを理詰めで証明したわけではない。彼が挙げた例は知られていたことである。
7.ローマ市民は彼の演説の論理で説得されたのでなく、彼が操った言葉の魔術で考えを変えたのである。これは、言葉が人々を動かすことができることを示す見事な例である。もっと正確に言えば、人々が考えを変えるのは、言葉によってであることを示している。この演説は史実ではなく、シェイクスピアの創作である。しかし、仮にこのような演説が実際に行われていたら、人々はシェイクスピアが描いた通りに考えを変え、ブルータスを倒しにいったことだろう。
8.中学生のときに、これをラジオの英会話番組で聞いて、暗記した。全文を覚えることはできなかったが、最初の方は、今でも覚えている。『ジュリアス・シーザー』は何度か映画化されている。マーロン・ブランドによるアントニーが有名だが、私はチャールトン・ヘストンの演説が好きである。指導者の言葉が人々に強い影響を与えた例は、歴史上、幾つもある。
9.ローマの将軍ポンペイウス・マグヌスは、暴風の中の絶望的な航海で、「航海が必要だ。生きることは必要でない」といって部下を鼓舞し、航海を完遂させた(この言葉は、ハンザ同盟のモットーになった)。英仏百年戦争におけるアジンコートの戦いの前夜に、ヘンリー5世は、「あの有名な勝利の戦いにあなたは参加したのですか、と後世の人々はあなたに言う」と告げて将兵を激励した。
10.エリザベス1世は、ティルベリーで行った演説で、「私は、あなた方の中で生き、そして死ぬ」と兵士に呼び掛けて、攻め寄せるスペイン無敵艦隊に立ち向かった。ナポレオンは、エジプト遠征の際、「ピラミッドの頂きから4000年の歴史が諸君を見下ろしている」と言って遠征が歴史的偉業であることを思い起こさせ、居並ぶ将兵を奮い立たせた。
11.言葉によって人々を動かした政治家は現代にもいる。最も有名なのが、第35代アメリカ大統領のジヨン・F・ケネディである。就任演説、ベルリンでの演説、キューバ・ミサイル危機の際のテレビ放送などを聞いて感激し、暗記した人は大勢いる。自分も、就任演説の全文を暗記した。当時は、音源を得るのが難しかった。ソノシートというレコードのような新襲品の音源を見つけたときのうれしさは、忘れられない。冷静に考えてみると、ケネディが実際の政治で行ったことは、キューバ危機を乗り切ったことを別にすれば、あまりない。むしろ、演説によって、人々に夢を与え、政治の可能性を信じさせたことの方が大きかった。
12.その意味では「虚構の政治家」だったかもしれない。しかし、言葉が人々を動かすことをかくも印象的に教えてくれたのは、大変重要なことである。最近では、名演説というものを聞かなくなった。レーガンやサッチャーの後には、ほとんどないといってよい。現代はもはや演説と雄弁の時代ではないとすると、アントニーの演説を思い出したのは、時代錯誤ということになる。
13.そうであれば、ゴーン前会長が保釈の際に演説しなかったのは、先に述べたような事情によるのではなく、言葉が魔刀を失った時代の必然ということになる。


yuji5327 at 06:26 
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池上湖心 プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山に師事
書象会に所属、書象会理事
審査会々員
○作品展の開催
・主宰している「さざ波会」
 作品展を毎年8月開催
(於:稲毛ギャラリー)
・土曜会(グループ展)
 作品展を毎年10月開催
(於:銀座大黒屋)
○公募展の受賞、入選
・日展入選
・読売書法展(現在理事)
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