2019年05月31日
中央集権的な管理は、環境変化が激しい中で企業を成長させる場合の足かせになる。令和の時代は、成長を目標にした攻めの経営が待望される。
校條浩著:シリコンバレーの流儀、人事部による人事は成長できるか、週刊ダイヤモンド、2019.04.27」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.先日、配車サービス企業の米リフトが米ナスダック市場に上場した。時価総額は上場時、優に2兆円を超えた。競合である米ウーバーも上場を予定しており、時価総額は6兆円を超凡ると予想されている。
2、今年、時価総額1兆円を超える上場は民泊仲介サービスの米エアビーアンドビーなど6社ある。これらの合計時価総額は18兆円程度といわれ、それは、東証マザーズに上場している約300社の時価総額の合計約5兆円をはるかに超える。
3.これらの急成長企業は、ほんの10年ほど前に産声を上げたベンチャー企業である。そこで頭をもたげるのが、急増する従業員の人事をどう運営しているのか、という疑問である。何百人という人を頻繁に採用し、配属・動機付けをした上で、評価し、昇給・昇進を行うと同時に、急成長する事業の運営も行わなくてはならない。
4.そこで活躍するのが「HR(Human Resources)テック」である。最先端のITを活用して、人材の採用、配置、育成などのさまざまな人事業務を飛躍的に効率化させるものである。MBO(Management by Objectives)、OKR(Objectives and Key Results)、タレントマネジメントなどの近代的な人事管理手法をクラウド上で実現できる。
5.MBOは、経営の神様といわれたピーター・ドラッカーが提唱したもので、上司と部下で相談した仕事の目標(Objectives)を定期的に評価するもので、結果はボーナスや昇給・昇進に反映され、日本企業でも古くから行われている。一方、OKRも目標と成果を見るのだが、従業員個人ではなく、組織の成果を最大限に押し上げるための評価を見る。組織の具体的な目標である「Objectives」を達成するために必要な結果「KR」を具体的にブレークダウンして、比較的頻繁に評価する。
6.OKRは企業に急成長をもたらす手法として知られる。採用した企業として有名なのは、世界的な半導体企業である米インテル。創業期から関わり、後に経営トップを務めたアンディ・グローブが1970年代に取り入れた。最近、再びこのOKRに注目が集まっているのは、米グーグルで積極的に使われ、その急成長を支えてきたからである。持ち込んだのは米クライナー・パーキンス(KPCB)のパートナー、ジョン・ドーア。KPCBはまだ誕生したばかりのグーグルに投資した、世界最強のベンチャーキャビタルの一つといわれている。
7、ドーアは、もともとインテルで半導体事業の営業をしていた。そこで、グローブからOKRの指導を受けていた。それから約20年後、ドーアは、グーグルにOKRを適用した。グーグルを初めて知ったときには従業員は数百人程度だったが、今は10万人規模である。時価総額は99年にKPCBがグーグルに投資したときの約100億円程度から85兆円になった。OKRはこのような成長を人事面から支える、会社の経営の根幹となった。
8.グーグル共同創業者のラリー・ペイジは、「OKRを実行することで、10倍の成長を何度も繰り返すことができた」と述懐している。OKRを採用している企業は多い。米リンクトインや米ツイッター、ウーバーなどである。それら企業の共通点は、成長への飽くなき欲求と、具体的な目標に対して一丸となって取り組むことである。こう聞くと、日本の60代以上の人にはなじみのある響きである。それは戦後日本の高度経済成長の前向きな雰囲気と同じだからである。
9.過去30年の間に日本の雰囲気は変わってしまった。長い経済停滞の中で、顔を上げて未来への成長に胸を躍らせることがなくなってしまった。このような後ろ向きの状況で、日本企業はHRテックをどう活用すればいいのだろうか。人事評価の効率化はできるだろが、今の日本企業にはより根本的な問題がある。
10.米ワークデイでソフトウェア開発のディレクターを務める宇田川博文氏から興味深い話を聞いた。宇田川氏は、人事・財務管理システムを提供するワークデイの米国本社と日本法人を行き来しており、日米両方の人事システムに詳しい。宇田川氏によれば、米国で成長している企業の経営は、ミッシヨンを明確にしたプロジェクト志向になってきているという。多.くの場合はOKRを活用し、プロジェクトを推進するために業務を具体的に定義し、業務管理、人事管理をする。人を配置したり異動させたりするには、個々人のスキルを評価し、見える化する必要がある。それを可能にするタレントマネジメントも取り入れている。
11.HRテックにより、こうした人材情報はクラウドで誰もがアクセスできるようになる。プロジエクト型の経営を推進する場合は、関係者全員が閲覧可能となっていることが常識となりつつある。一方、宇田川氏によれば、日本でのこうした人材悟報は、人事部が独占している。人事部が掌握した情報を基に、人事部によって人材配置をすることが前提になっている。宇田川氏はこのような中央集権的な管理は、環境変化が激しい中で企業を成長させる場合の足かせになると指摘している。令和の時代は、成長を目標にした攻めの経営が待望される。HRテックが、既存人事システムの効率化だけではなく、OKRや透御(独)の効用を最大限に掌受でき、成長への足掛かりになる。