2019年06月12日
企業価値が500万ドルだつた頃のウーバーに2万5000ドルの投資を行った投資家、ジェイソン・カラカニス氏、リスクマネーでベンチャーを育てる米資本市場の懐の深さ。
「森川郁子(本誌):ライドシェア首位が情状へ ベール脱ぐウーバーの実態、
週刊東洋経済、2019.5.11」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.米ライドシェア最大手のウーバー・テクノロジーズがいよいよ上場する。5月にもニューヨーク証券取引所に株式を公開する。3月29Hには米2位のリフトが先立って上場し、初値ベースの時価総額は約2・7兆円を.記録した。企業価値10兆円前後とされるウーバーはまさに超ユニコーン企業である。
2.設立は2009年。パリでタクシーが拾えずに困っていた創業者のトラビス・カラニック氏が、空いている自家用車と利用者を仲介するアプリの着想を得たことに始まる。原則、仲介に徹するライドシェアアプリ事業は、車両を保有しドライバーを雇用するタクシー事業よりコスト競争力で有利である。
3.高い利便性もあって、瞬く間に利用者の支持が集まった。空いた時問に簡単に稼げることからドライバーも増加。需要と供給がともに増える正のスパイラルを描き、ライドシェアアプリ「ウーバー」は世界63力国に拡大(うち自家用車のシェアは57力国)。昨年は50億回以上使われた。
4.米調査会社マーケッツアンドマーケッツによると、ライドシェアの市場規模は現在約613億ドル。 25年に約2180億ドルまで拡大する見通しである。米国ではリフト、中国では滴滴出行、東南アジアではグラブなど新勢力の台頭も著しい。それでもウーバーは依然トップランナーである。
5.ソフトバンクグループは「ライドシェアは自動車業界の地図を丸ごと塗り替える」(孫正義社長)と、これまでウーバーに約77億ドルを出資し、16・3%を握る筆頭株主である。トヨタ自動車も18年に5億ドルを出資しており、自動運転やライドシェアで共同開発を行う。さらに独ダイムラーやスウェーデン・ボルボとも提携している。
6.輝かしい未来が約束されているかのようなウーバーだが、4月11日に開示された上場目論見書からは収益化に苦しむ現実がうかがえる。18年の売上高は約1・2兆円。17年比4割増、16年比では約3倍に拡大している。だが、営業損益は約3300億円の赤字。過去3年間の合計営業赤字は1兆円を超える。
7.18年の最終損益はl100億円の黒字だが、これは東南アジアの事業をグラブに譲渡した際の売却益などによる一時的なものである。営業キャッシュフローは赤字が続いており、優先株などで調達した資金.で赤字を埋めながら走っている。かつての米アマゾンのように、初期に赤宇でも一定規模まで成長すれば利益を出せるという考えがある。
8.ウーバーの収益構造を分析すると先行きは楽観できない。現状、利用者が支払う料金の総額から80%弱をドライバーに支払い、残った20%強がウーバーの売り上げとなっている。売上原価にはドライバーの保険料や運行費用、デバイス提供費、カード手数料などがある。売上高に占める原価比率は17年に52%。4割増収になった18年でも50%と高止まりしたままである。加えてサポートの人件費やマーケティング費用、研究開発費、一般管理費もかさむため、営業里…宇化が見えてこない。
9.肝心の成長率も鈍化している。18年10〜12月の利用者がドライバーに支払った料金は、同年7〜9月比で9%増加した。だが、同じ期間のウーバーの手数料収入は横ばいだった。これは主力の米国市場でリフトの攻勢を受けてシェアを落としており、従来の手数料率を維持できていないからである。もっとも、シェア拡大を図るリフトも18年の売上高が約2400億円と前年から倍増したが、営業損益は約l100億円の赤宇。互いに採算割れの中でしのぎを削っている。この先も競争が続けば、手数料率の引き上げは容易ではない。
10.グローバルで見ても、ローカル企業との競争が激しく、中国と東南アジアでは、滴滴出行とグラブに事業を譲渡した。対価として一部株式を得たものの、事業からは撤退している。
11.大赤字を垂れ流しながらも投資のアクセルは踏み続ける。18年の研究開発費15億ドルは2年前のおよそ2倍。ウーバーATGという自動運転の開発事業部門に研究開発費の3割をつぎ込むほか、「空飛ぶクルマ」の開発や中東のライドシェア企業「カリーム」の買収など先行投資も積極的である。
12.16年に立ち上げた出前事業「ウーバーイーツ」は世界500都市で展開するまでに育っているが、手数料率が10%前後と低いうえ、こちらもプラットフォームへの投資が続く。4月19日には、自動運転部門のATGを分社し、トヨタグループやソフトバンク・ビジョン・ファンドから合計10億ドルの出資を受けると発表した。トヨタは21年までに最大3億ドルを開発費用として拠出する。上場後は投資家の視線も厳しくなるためか、外部資金.を引き入れて開発投資の負担を軽減する狙いである。
13.それでも、事業上のリスクは山積している。世界各国でタクシー業界がライドシェアへの反発を強めており、ドライバーの雇用を求める訴訟や規制強化の動きがある。近年はカラニック元CEOの退任騒動、自動運転実験中の死亡事故なども起きた。存在感の拡大とともに、社会との軋櫟も大きくなっている。こうしたことから目論見書ではリスク情報の文章が延々と続く。
14.さまざまなリスクを抱え巨額赤字であっても、資金が集まり、10兆円前後の値段がつく。日本企業で時価総額10兆円を超えるのはトヨタとソフトバンクグループのみである。リフトの株価も初値から3割ド落したとはいえ、時価総額は依然約1・9兆円ある。15.SBI証券の遠藤功治アナリストは「タクシー代わりのウーバー、というだけでは先は知れている。乗り物の役割がサービスへと変わっていく中、ライドシェアや自動運転の領域で主役になるとの期待が高い」と解説する。
16.企業価値が500万ドルだつた頃のウーバーに2万5000ドルの投資を行ったエンジェル投資家、ジェイソン・カラカニス氏は「シリコンバレーでは規格外のリターンを得られる可能性が世界一高い」と話している。本当にすごいのはウーバーやリフトではなく、リスクマネーを供給してベンチャーを育てる米資本市場の懐の深さである。
週刊東洋経済、2019.5.11」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.米ライドシェア最大手のウーバー・テクノロジーズがいよいよ上場する。5月にもニューヨーク証券取引所に株式を公開する。3月29Hには米2位のリフトが先立って上場し、初値ベースの時価総額は約2・7兆円を.記録した。企業価値10兆円前後とされるウーバーはまさに超ユニコーン企業である。
2.設立は2009年。パリでタクシーが拾えずに困っていた創業者のトラビス・カラニック氏が、空いている自家用車と利用者を仲介するアプリの着想を得たことに始まる。原則、仲介に徹するライドシェアアプリ事業は、車両を保有しドライバーを雇用するタクシー事業よりコスト競争力で有利である。
3.高い利便性もあって、瞬く間に利用者の支持が集まった。空いた時問に簡単に稼げることからドライバーも増加。需要と供給がともに増える正のスパイラルを描き、ライドシェアアプリ「ウーバー」は世界63力国に拡大(うち自家用車のシェアは57力国)。昨年は50億回以上使われた。
4.米調査会社マーケッツアンドマーケッツによると、ライドシェアの市場規模は現在約613億ドル。 25年に約2180億ドルまで拡大する見通しである。米国ではリフト、中国では滴滴出行、東南アジアではグラブなど新勢力の台頭も著しい。それでもウーバーは依然トップランナーである。
5.ソフトバンクグループは「ライドシェアは自動車業界の地図を丸ごと塗り替える」(孫正義社長)と、これまでウーバーに約77億ドルを出資し、16・3%を握る筆頭株主である。トヨタ自動車も18年に5億ドルを出資しており、自動運転やライドシェアで共同開発を行う。さらに独ダイムラーやスウェーデン・ボルボとも提携している。
6.輝かしい未来が約束されているかのようなウーバーだが、4月11日に開示された上場目論見書からは収益化に苦しむ現実がうかがえる。18年の売上高は約1・2兆円。17年比4割増、16年比では約3倍に拡大している。だが、営業損益は約3300億円の赤字。過去3年間の合計営業赤字は1兆円を超える。
7.18年の最終損益はl100億円の黒字だが、これは東南アジアの事業をグラブに譲渡した際の売却益などによる一時的なものである。営業キャッシュフローは赤字が続いており、優先株などで調達した資金.で赤字を埋めながら走っている。かつての米アマゾンのように、初期に赤宇でも一定規模まで成長すれば利益を出せるという考えがある。
8.ウーバーの収益構造を分析すると先行きは楽観できない。現状、利用者が支払う料金の総額から80%弱をドライバーに支払い、残った20%強がウーバーの売り上げとなっている。売上原価にはドライバーの保険料や運行費用、デバイス提供費、カード手数料などがある。売上高に占める原価比率は17年に52%。4割増収になった18年でも50%と高止まりしたままである。加えてサポートの人件費やマーケティング費用、研究開発費、一般管理費もかさむため、営業里…宇化が見えてこない。
9.肝心の成長率も鈍化している。18年10〜12月の利用者がドライバーに支払った料金は、同年7〜9月比で9%増加した。だが、同じ期間のウーバーの手数料収入は横ばいだった。これは主力の米国市場でリフトの攻勢を受けてシェアを落としており、従来の手数料率を維持できていないからである。もっとも、シェア拡大を図るリフトも18年の売上高が約2400億円と前年から倍増したが、営業損益は約l100億円の赤宇。互いに採算割れの中でしのぎを削っている。この先も競争が続けば、手数料率の引き上げは容易ではない。
10.グローバルで見ても、ローカル企業との競争が激しく、中国と東南アジアでは、滴滴出行とグラブに事業を譲渡した。対価として一部株式を得たものの、事業からは撤退している。
11.大赤字を垂れ流しながらも投資のアクセルは踏み続ける。18年の研究開発費15億ドルは2年前のおよそ2倍。ウーバーATGという自動運転の開発事業部門に研究開発費の3割をつぎ込むほか、「空飛ぶクルマ」の開発や中東のライドシェア企業「カリーム」の買収など先行投資も積極的である。
12.16年に立ち上げた出前事業「ウーバーイーツ」は世界500都市で展開するまでに育っているが、手数料率が10%前後と低いうえ、こちらもプラットフォームへの投資が続く。4月19日には、自動運転部門のATGを分社し、トヨタグループやソフトバンク・ビジョン・ファンドから合計10億ドルの出資を受けると発表した。トヨタは21年までに最大3億ドルを開発費用として拠出する。上場後は投資家の視線も厳しくなるためか、外部資金.を引き入れて開発投資の負担を軽減する狙いである。
13.それでも、事業上のリスクは山積している。世界各国でタクシー業界がライドシェアへの反発を強めており、ドライバーの雇用を求める訴訟や規制強化の動きがある。近年はカラニック元CEOの退任騒動、自動運転実験中の死亡事故なども起きた。存在感の拡大とともに、社会との軋櫟も大きくなっている。こうしたことから目論見書ではリスク情報の文章が延々と続く。
14.さまざまなリスクを抱え巨額赤字であっても、資金が集まり、10兆円前後の値段がつく。日本企業で時価総額10兆円を超えるのはトヨタとソフトバンクグループのみである。リフトの株価も初値から3割ド落したとはいえ、時価総額は依然約1・9兆円ある。15.SBI証券の遠藤功治アナリストは「タクシー代わりのウーバー、というだけでは先は知れている。乗り物の役割がサービスへと変わっていく中、ライドシェアや自動運転の領域で主役になるとの期待が高い」と解説する。
16.企業価値が500万ドルだつた頃のウーバーに2万5000ドルの投資を行ったエンジェル投資家、ジェイソン・カラカニス氏は「シリコンバレーでは規格外のリターンを得られる可能性が世界一高い」と話している。本当にすごいのはウーバーやリフトではなく、リスクマネーを供給してベンチャーを育てる米資本市場の懐の深さである。