2019年08月30日

政治の場で行われている論争は、そもそも争点の設定を誤った空虚なものである。


「野口悠紀雄著:アンケートで探る老後資金についての考え、週刊ダイヤモンド、2019.7.13」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.年金だけでは老後生活には不十分で、2000万円程度の蓄えが必要」とする金融庁の報告書(以下、報告書)を巡る論議が続いている。6月18日の参議院財政金融委員会では、日本共産党の小池晃書記局長が、「多くの国民は、年金で100年間安心して暮らせると受け取っている」と述べた。それに対して、安倍晋三首相は、報告書は「乱暴な議論で不適切」と答弁した。6月19日の党首討論でも、この問題が取り上げられた。安倍首相は、報告書が不適切な内容であるとした。このように、野党も政府も、報告書が不適切だという点では一致している。、
2.人々はこの問題をどのように考え、政治家たちの議論をどのように評価しているか、を探るために、筆者はWEBページでアンケートを行った。7日間で188件の回答が得られ、結果は、第1問では、金融庁の報告書に対する評価を問うたが、81・5%の回答が、「老後資金に対する適切な注意」だとしている。人々のこうした理解は、上で見た政治家たちの議論と大きく隔たっている。小池書記局長が言うように「年金だけで老後を送れると政府が約束した」と受け取っている人は少ない。他方で、安倍首相が言うように「この報告書が乱暴で不適切」とも考えていない。これは、報告書に対する冷静な受け取り方である。
3.老後生活に必要とされる資金が、個々のさまざまな条件によって大きく変わることは間違いない。報告書もその旨を断っている。このアンケートでも、多くの人がそのように受け取っている。この設問に対する「その他の回答」では、「年金に全てを期待するのは間違いだ」との考えを述べている人が多い。
4.このようなアンケート回答の結果を見ると、政治の場で行われている論争は、そもそも争点の設定を誤った空虚なものである。
5.アンケートでは、第2に、「あなた自身の老後資金は十分か?」と問うたのに対しては、69・5%の回答が「不十分」としている。「十分」という回答は、19・7%である。この点を、政府の統計と比べると、総務省の家計調査報告によれば、高齢者の貯蓄は、1世帯当たり平均で2284万円である。金融庁の報告書が述べている条件は、多くの人について満たされている。それにもかかわらずアンケートで「不十分」との答えが多くなるのは、正規分布のようにデータが平均値の周りに対称的に分布している場合には、「人々が普通と思う値」と平均値が一致する。しかし、資産の分布は、大きな偏りがあり、ごく少数の人々が多額の資産を保有している場合が多い。このため、平均値は、「人々が普通と思う値」よりかなり大きくなる。資産分布については、中央値の方が「人々が普通と思う値」に近くなる。これは、データを小さい順に並べたときに、中央に位置する値である。今の調査について中央値を見ると、貯蓄現在高は1560万円である。つまり、家計調査報告においても、貯蓄が2000万円に達しない人の方が多い。アンケートの回答で多くの人が「不十分」と答えているのは、こうしたことを考えれば、当然の結果である。
6.もつ1つの統計を見ると、厚生・労働省の平成30年就労条件総合調査によると、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の定年時の退職給付額は、2000万円程度である。この結果を見ると、「2000万円必要」という報告書の条件は、多くの人が退職金でクリアできるように思える。しかし、現実には、そうはいかない場合が多い。例えば、住宅ローン等の返済に退職金の大部分を充てざるを得ない場合がある。また、将来退職するときには、これだけの退職金を期待できないと考える。アンケートで注目されるのは、多くの人が、自分自身の積み立ては不足だと認識しながら、「だから年金で面倒を見てほしい」と考えているわけではない。自助努力が必要であると認識している。そのために、報告書の指摘は適切だと認めている。この点で、国民は、政治家が考えているよりずっと冷静で合理的な判断をしている。
7.「いつまで働き続けるか?」という第3問に対しては、69・7%の回答が「健康が許す限りいつまでも」とした。「定年まで」は、12・0%でしかない。これは、多くの人々が、年金だけに頼って老後を送ろうとは考えていないこと、働くことに生きがいを見いだそうと考えていることの表れと解釈ができる。ただし、どのような形で働くか、それは実現できるか、といった点は、このアンケートでは聞いていない。
8.以上で紹介したアンケート結果は、大新聞が行う世論調査に比べれば、10分の1程度でしかない。だから、標本選択バイアスの可能性は十分にある。そのような制約があるとはいえ、人々の考えについて貴重な情報が得られたとは評価できる。アンケートの結果から言えることは、老後生活をいかに支えるかは、現在の最重要課題の一つであり、参議院選挙でも主要な論点の一つとすべきものだ。ただし、その際に議論すべきは、「金融庁の報告が適切か否か?」ではない。あるいは、「年金だけで100年間安心して生きられるか?」でもない。つまり、現在政治の場で議論されていることではない。
9.議論すべきは、(1)老後生活を年金だけで支えることはできないことを認める。ただし、どの程度のことを自助努力でできるかは、さまざまな制度や経済政策に依存するのだから、それらについての議論が必要である。(2)老後生活のために十分な資金を蓄積できるようにするには、今の経済政策では不十分で、経済政策を転換する必要があるのではないか? 金融緩和政策は見直す必要があるのではないか? (3)働く意欲と能力がある限り、いつまでも働くことができるような社会を実現するには、何が必要か? そのために取り除くべき障害は何か? (4)本来の意味での「100年安心年金.」、つまり、100年間継続できる年金制度は、本当に確立されているのか?多くの人々が、以上で述べた問題についての議論が深められることを望んでいる。そうした期待に正面から応えることのできる政治勢力が登場してほしい。


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工学博士、技術士(応用理学)、
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池上湖心 プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山に師事
書象会に所属、書象会理事
審査会々員
○作品展の開催
・主宰している「さざ波会」
 作品展を毎年8月開催
(於:稲毛ギャラリー)
・土曜会(グループ展)
 作品展を毎年10月開催
(於:銀座大黒屋)
○公募展の受賞、入選
・日展入選
・読売書法展(現在理事)
 読売奨励賞
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・謙慎展(現在理事)
 春興賞の受賞:2回
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