2019年09月25日

技術の進化で、がん発症の長年の定説は塗り替えられつつある。ジョブズの言葉で、科学者は固定観念にとらわれず貧欲であれという態度が求められる。


「大隅典子(東北大学教授)著:遺伝子解析の進歩で判明したがんの進化と多剤療法の根拠、週刊ダイヤモンド 2019.08.03」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.2005年6月12日、米スタンフォード大学の卒業式でのスティーブ・ジョブズのスピーチは、「Stay hungry Stay foolish」で締めくくられた。この15分間のスピーチで、ジョブズは自身が膵臓がんにかかっていることに触れた。人類とがんとの戦いは平たんな道のりではない。11年のピュリツァー賞受賞作「病の皇帝:がん」に挑む人類4000年の苦闘によれば、がんについての最初の記載は、紀元前2500年の古代エジプト時代までさかのぼる。
2.著者で腫瘍内科医のシッダールタ・ムカジーは、人類がいまだにこの病を克服できていないことを嘆いた。科学も医学もなかった時代、がんは「体液」の異常と見なされたこともあった。その本質が細胞の異常な増殖によるものだと分かったのは19世紀になってからである。そして20世紀、発がんに関わる化学物質やウイルスが相次いで見つかり、がん細胞の性質の理解が進んだ。
3.私たちの体を構成する約38兆個の細胞の振る舞いには、幾つかの決まり事がある。細胞同士が仲良くくっついて組織を構築する。遺伝情報が青き込まれているDNAに変異が生じた場合は修復する。細胞が自ら分裂して増えるかどうかは周囲を付度する、などである。これらのルールを無視して暴走し、勝手に増殖したり、組織から逸脱して移動したりする悪ガキのような細胞が、がん細胞である。ほかの体の細胞たちはこれに抵抗し、暴走し始めた細胞を自ら死に至らしめる仕組みもある。
4.がんの治療法としての最初のアプローチは、外科手術による病巣の除去である。その後、がん細胞の増殖を化学物質や放射線により抑え込むことが試みられてきた。最近では、がん細胞を見つけて攻撃する体内の仕組みを利用したいわゆる「免疫療法」も登場した。18年に京都大学特別教授の本庶佑先生がノーベル生理学・医学賞を受賞することになったPD-1抗原の発見もそのような研究成果の一つである。
5.だが、ここ数年の聞に、これまで想定されてきたがんの発症モデルを根本的に見直す動きが新たに始まっている。20世紀後半、がんは遺伝子の変異が蓄積することによって生じるという考え方が浮上した。例えば、遺伝的にがんを発症しやすい遺伝子型を持っている人の細胞に、何らかの変異が加わると発症に至る。このことは、網膜芽細胞腫という目の中に生じるがんでモデル化されてきた。
6.がんを発症しやすい「がん抑制遺伝子」の変異を両親から受け継いだ場合に、2つ目の変異として「がん原遺伝子(がん細胞の増殖を促進する遺伝子〉」が活性化するような変異が生じると、網膜芽細胞腫の発症に至る。これは発見者の名を取って「クヌードソン仮説」あるいは「ツーヒットセオリー」と呼ばれてきた。こうしたコ「前がん状態」から徐々に変異が蓄積され、より悪性度が高くなるという考え方は、いわば、遺伝子変異の蓄積を「線形」なものとして捉えている。
7.ところが、次世代シーケンサーの登場と、情報科学的解析法の進歩によって、がんの進行はもっと複雑であることが明らかになりつつある。従来よりもDNAの解読が迅速かつ安価になったことにより、丸ごと解析していたがん病巣の細胞を、もっと細かく分けて解析してみる機運が生まれ。例えば昨年、九州大学の三森功士教授らのグループが英科学誌ネイチャーのオンライン関連誌で報告した論文には、大腸がん患者から採取したがん組織の遺伝子を解析し、その結果、同じ患者のがん病巣の中であっても、細胞集団ごとに異なる遺伝子変異が生じていたことが判明した。さらに生物統計学的な分析を加えると、重要な遺伝子の変異が比較的早期に生じていることが分かってきた。
8.がん化を生物進化の系統樹に見立てると、枝分かれする前の幹の部分で生じた変異が、その後のがんの進化を促進する。P23という細胞の増殖を抑制する「がん抑制遺伝子」や、KRASという「がん原遺伝子」が、このようながん進化を促進させる「ドライバー遺伝子」に相当する。そして重要なことに、前がん状態からがんが進行する様態は、「線形」な推移ではなく、複雑に分枝していることが分かった。
9.つまり、同時多発的な遺伝子の変異が生じ、一つのがん病巣の中に異なる性質を持ったがん細胞集団が併存していることになる。これは、生物の進化で言えば、突然変異と遺伝的浮動を軸とする「中立進化」に相当するといえる。がんの「転移」も病気の進行を左右する。従来の考え方では、遺伝子変異が蓄積していく最後のフェーズにおいて、細胞を転移させる遺伝子の変異が生じると見なされてきた。
10.原発巣や転移病巣をつぶさに遺伝子解析してみると、転移巣に特異的な遺伝子変異は見つからなかった。このことから、遺伝子変異以外の要因(例えば、細胞のエピジェネティックな様態など)が転移に関係していると推測される。さて、がんの進行に伴う変異が複雑で細胞集団が枝分かれしていることは、一つのがん病巣が見つかったとしても、そのがん細胞を駆逐するのに適する薬物が複数必要になる可能性を示している。
11.多剤併用療法が重要になってきた根拠はここにある。つまり、ある遺伝子変異を有するがん細胞集団を殺すのに有効な薬剤Aは、別の変異を持つがん細胞集団には効果がなく、別の薬剤Bを使う必要がある。伝説のスピーチから6年後、ジョブズは亡くなった。今後、ゲノム科学が発展し、新たな解析方法が導人されることにより、がんの診断や治療は大きく変化していくことが期待される。技術の進化で、がん発症の長年の定説は塗り替えられつつある。ジョブズの言葉を借りるならば、科学者は常に「固定観念にとらわれることなく貧欲であれ」という態度が求められる。



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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
・読売奨励賞受賞
・読売新聞社賞受賞
〇日展入選有

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