2019年10月02日
イランがシーア派の大国なら、スンニ派の大国がサウジアラビアである。いま、サウジアラビアが大きく変わろうとしている。
「池上彰著:
知らないと恥をかく世界の大問題10 角川新書、2019.6.10」は参考になる。「第3章:サウジの焦り、したたかイラン、イスラム世界のいま」の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。・
1.イランがシーア派の大国なら、スンニ派の大国がサウジアラビアである。いま、サウジアラビアが大きく変わろうとしている。サウジアラビア国籍のジャーナリスト、ジャマル・カショギ記者が、2018年10月2日、トルコのイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館で殺されるというショッキングな事件があった。「総領事館」と「大使館」の違いは、大使館は外交政策を担うが、総領事館は外交活動を行なわない。その国に住む自国民に、戸籍・国籍を与えたり、旅行にやって来た自国民がパスポートを失くした際の手続きを行うなどの行政サービスをする機関である。カショギ記者は総領事館に結婚手続きのため入った後、行方不明になった。彼は、アメリカを拠点にワシントン・ポストなどにサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン・アール=サウード皇太子が主導する改革などを批判する記事を書いていたジャーナリストである。
2.事件後、ムハンマド皇太子の関与が取りざたされたが、アメリカのトランプ大統領は、事件をウヤムヤにした。トランプ大統領としては、サウジアラビアはアメリカの兵器や飛行機を大量に買ってくれる客だから精一杯、擁護した。ムハンマド皇太子は非常に焦っている。サウジアラビアは石油がたくさん出る国である。いずれ石油はなくなる。そのときどうするか、という問題に直面している。ヨーロッパ各国は地球温暖化対策として、ガソリン車やディーゼル車の販売を禁止し、竃気自動車にするという方針を示した。「石油が枯渇する日」より先に「石油が売れなくなる日」が来てしまう。石油依存から脱却を図りたいのに、なかなか進まない。皇太子の父親で80歳を超えるサルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ国王は贅沢三昧である。
3.サルマーン国王が来日した際、羽田空港に空輸されたエスカレーター方式のタラップで、専用機から降りてきたのには驚いた。1500名の随行員を連れ、借り上げたハイヤーは500台、指定された車種はBMW、レクサス、ベンツだった、大阪や名古屋からもかき集めた。宿泊したホテルはもちろん帝国ホテルやホテルニューオータニなどの五つ星ホテルばかり。百貨店での消費も大きな話題となった。若きムハンマド皇太子は「これではいけない」と改革に必死である。これまで禁止されてきた女性の自動車運転を認めたり、映画館をオープンさせたりした。また、投資立国を目指し、海外からの投資を集めようとしている。同時に、急速な改革に反発する王族の批判を抑え込んでいる。
4.サウジアラビアの改革のーつのモデルがUAE(アラブ首長国連邦)である。UAEは7つの首長国(アブダビ、ドバイ、シャルジャ、ラス・アル・ハイマ、フジャイラ、アジュマン、ウンム・アル・カイワイン)により構成される連邦国家である。首長とは、国王の次のランクのことである。サウジアラビアの国王に敬意を表して、この7つの首長国は、国王は置かず首長がトップになっている。中でも、ドバイの首長は切れ者で、いずれ石油がなくなったときのことを考え、ドバイを世界の物流の中継都市・国際金融都市として発展させてきた。ドバイを見て、オイルマネーの威力はすごいと思っている人がいるが、実は海外からの直接投資で築いたのである。ドバイ国際空港は砂漠の中の巨大な空港です。夜明け前に世界中から航空便が着き、また世界中に飛び立っていく。ここを使ってさまざまな物が行き来している。最近、日本で薔薇が安く買えるようになったのは、南アフリカ共和国で栽培した薔薇をドバイ空港経由で出荷することができるからで、翌日には日本に届く。
5.UAEは文化にも投資している。2017年11月、首都アブダビに「ルーブル・アブダビ」が開館した。本家・フランスのルーブル美術館の分館として、初めての海外展開となる。ルーブル・アブダビはペルシャ湾にぽっかり浮かぶサディヤット島という島にあるが、ここには2018年にニューヨークのグッゲンハイム美術館の分館として「グッゲンハイム・アブダビ」もオープンした。高等教育機関の整備にも力を入れています。2010年、アブダビにアメリカ、ニューヨーク大学のアブダビ・キャンパスが設立されたほか、ドバイにもハーバード大学など、欧米名門大学が現地校で続々と進出している。高等教育でもハブを目指している。首長は、石油が出る間に、と思っているらしい。その点、サウジアラビアはこういうことをまったくやってこなかった。格下の国に負けるわけにはいかない、と、ムハンマド皇太子が急速に改革を進めている。
6.サウジアラビアは非常に封建的なイスラム教の国である。スンニ派でも、とくに厳格なワッハーブ派である。女性は大切にしなければならないとの考えから、性的な対象になることを恐れ、外出するときは黒ずくめの服をまとう。酒も映画館も禁止。ひたすら地上では神のことを考えろと教えられる。女性の自動車運転が禁じられている世界で唯一の国だったが、こういうことで海外の投資家がなかなか足を踏み入れなかった。そこで皇太子は「普通の国」にしようとして、映画館の開設を認め、映画館の座席で男女が隣り合ってもよくなった。女性の自動車運転も認められた。
7.国内にはこの改革に反対の保守派がいる。サウジアラビア国内での支持を取り付けようと必死なのに、自分を批判したのがアメリカのカショギ記者だった。カショギ記者の殺害をムハンマド皇太子が命じたとはサウジアラビアは認めていない。カショギ記者殺害の背景には、サウジアラビアの置かれている切羽詰まった状況がある。
8.皇太子には、もう一つの野望がある。「中東の盟主」としての地位を確実にすることである。気がかりなのが、イランを中心としたイスラム教シーア派の勢力伸長である。サウジアラビアの南隣イエメンでは2015年から内戦が続いている。これはサウジアラビアとイランの代理戦争である。イエメンは国民の4割強がシーア派。2015年、アラブの春で誕生したアブド・ラッボ・マンスール・ハーディー政権に不満を募らせたイスラム教シーア派の反政府勢力「フーシ派」を、イランが支援している。これに対し、ムハンマド皇太子はサウジアラビア軍をイエメンに派遣。そのサウジアラビアをアメリカが支援している。さらに、イランと友好関係を持つカタールに対して、断交を宣言した。反発したカタールはOPEC(石油輸出国機構)からの脱退を表明。いよいよOPECの解体が現実味を帯びてきた。
知らないと恥をかく世界の大問題10 角川新書、2019.6.10」は参考になる。「第3章:サウジの焦り、したたかイラン、イスラム世界のいま」の概要を自分なりに補足して纏めると以下のようになる。・
1.イランがシーア派の大国なら、スンニ派の大国がサウジアラビアである。いま、サウジアラビアが大きく変わろうとしている。サウジアラビア国籍のジャーナリスト、ジャマル・カショギ記者が、2018年10月2日、トルコのイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館で殺されるというショッキングな事件があった。「総領事館」と「大使館」の違いは、大使館は外交政策を担うが、総領事館は外交活動を行なわない。その国に住む自国民に、戸籍・国籍を与えたり、旅行にやって来た自国民がパスポートを失くした際の手続きを行うなどの行政サービスをする機関である。カショギ記者は総領事館に結婚手続きのため入った後、行方不明になった。彼は、アメリカを拠点にワシントン・ポストなどにサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン・アール=サウード皇太子が主導する改革などを批判する記事を書いていたジャーナリストである。
2.事件後、ムハンマド皇太子の関与が取りざたされたが、アメリカのトランプ大統領は、事件をウヤムヤにした。トランプ大統領としては、サウジアラビアはアメリカの兵器や飛行機を大量に買ってくれる客だから精一杯、擁護した。ムハンマド皇太子は非常に焦っている。サウジアラビアは石油がたくさん出る国である。いずれ石油はなくなる。そのときどうするか、という問題に直面している。ヨーロッパ各国は地球温暖化対策として、ガソリン車やディーゼル車の販売を禁止し、竃気自動車にするという方針を示した。「石油が枯渇する日」より先に「石油が売れなくなる日」が来てしまう。石油依存から脱却を図りたいのに、なかなか進まない。皇太子の父親で80歳を超えるサルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ国王は贅沢三昧である。
3.サルマーン国王が来日した際、羽田空港に空輸されたエスカレーター方式のタラップで、専用機から降りてきたのには驚いた。1500名の随行員を連れ、借り上げたハイヤーは500台、指定された車種はBMW、レクサス、ベンツだった、大阪や名古屋からもかき集めた。宿泊したホテルはもちろん帝国ホテルやホテルニューオータニなどの五つ星ホテルばかり。百貨店での消費も大きな話題となった。若きムハンマド皇太子は「これではいけない」と改革に必死である。これまで禁止されてきた女性の自動車運転を認めたり、映画館をオープンさせたりした。また、投資立国を目指し、海外からの投資を集めようとしている。同時に、急速な改革に反発する王族の批判を抑え込んでいる。
4.サウジアラビアの改革のーつのモデルがUAE(アラブ首長国連邦)である。UAEは7つの首長国(アブダビ、ドバイ、シャルジャ、ラス・アル・ハイマ、フジャイラ、アジュマン、ウンム・アル・カイワイン)により構成される連邦国家である。首長とは、国王の次のランクのことである。サウジアラビアの国王に敬意を表して、この7つの首長国は、国王は置かず首長がトップになっている。中でも、ドバイの首長は切れ者で、いずれ石油がなくなったときのことを考え、ドバイを世界の物流の中継都市・国際金融都市として発展させてきた。ドバイを見て、オイルマネーの威力はすごいと思っている人がいるが、実は海外からの直接投資で築いたのである。ドバイ国際空港は砂漠の中の巨大な空港です。夜明け前に世界中から航空便が着き、また世界中に飛び立っていく。ここを使ってさまざまな物が行き来している。最近、日本で薔薇が安く買えるようになったのは、南アフリカ共和国で栽培した薔薇をドバイ空港経由で出荷することができるからで、翌日には日本に届く。
5.UAEは文化にも投資している。2017年11月、首都アブダビに「ルーブル・アブダビ」が開館した。本家・フランスのルーブル美術館の分館として、初めての海外展開となる。ルーブル・アブダビはペルシャ湾にぽっかり浮かぶサディヤット島という島にあるが、ここには2018年にニューヨークのグッゲンハイム美術館の分館として「グッゲンハイム・アブダビ」もオープンした。高等教育機関の整備にも力を入れています。2010年、アブダビにアメリカ、ニューヨーク大学のアブダビ・キャンパスが設立されたほか、ドバイにもハーバード大学など、欧米名門大学が現地校で続々と進出している。高等教育でもハブを目指している。首長は、石油が出る間に、と思っているらしい。その点、サウジアラビアはこういうことをまったくやってこなかった。格下の国に負けるわけにはいかない、と、ムハンマド皇太子が急速に改革を進めている。
6.サウジアラビアは非常に封建的なイスラム教の国である。スンニ派でも、とくに厳格なワッハーブ派である。女性は大切にしなければならないとの考えから、性的な対象になることを恐れ、外出するときは黒ずくめの服をまとう。酒も映画館も禁止。ひたすら地上では神のことを考えろと教えられる。女性の自動車運転が禁じられている世界で唯一の国だったが、こういうことで海外の投資家がなかなか足を踏み入れなかった。そこで皇太子は「普通の国」にしようとして、映画館の開設を認め、映画館の座席で男女が隣り合ってもよくなった。女性の自動車運転も認められた。
7.国内にはこの改革に反対の保守派がいる。サウジアラビア国内での支持を取り付けようと必死なのに、自分を批判したのがアメリカのカショギ記者だった。カショギ記者の殺害をムハンマド皇太子が命じたとはサウジアラビアは認めていない。カショギ記者殺害の背景には、サウジアラビアの置かれている切羽詰まった状況がある。
8.皇太子には、もう一つの野望がある。「中東の盟主」としての地位を確実にすることである。気がかりなのが、イランを中心としたイスラム教シーア派の勢力伸長である。サウジアラビアの南隣イエメンでは2015年から内戦が続いている。これはサウジアラビアとイランの代理戦争である。イエメンは国民の4割強がシーア派。2015年、アラブの春で誕生したアブド・ラッボ・マンスール・ハーディー政権に不満を募らせたイスラム教シーア派の反政府勢力「フーシ派」を、イランが支援している。これに対し、ムハンマド皇太子はサウジアラビア軍をイエメンに派遣。そのサウジアラビアをアメリカが支援している。さらに、イランと友好関係を持つカタールに対して、断交を宣言した。反発したカタールはOPEC(石油輸出国機構)からの脱退を表明。いよいよOPECの解体が現実味を帯びてきた。