2019年10月18日
世界一高い山は、標高8848mのエベレストである。これは海水面からの高さで、山の麓から、正味の山の高さの世界一はハワイ島のマウナケア〔標高4205m〕である。
「巽好幸(神戸大学教授)著:地球深部の熱源は移動するかホットスポットの熱い議論、週刊ダイヤモンド
、2019.8.31」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.世界一高い山は、標高8848mのエベレストである。これは海水面からの高さである。山の麓から、つまり正味の山の高さの世界一はハワイ島のマウナケア〔標高4205m〕である。海底から1万0203mもそびえ立っている。太平洋のど真ん中にこんなにごつい山ができた理由は、ハワイ島は、地球深部の「ホットスポット」と呼ばれる熱源から、マグマが次々と供給されてできた巨大火山だらである。このようなホットスポット火山の研究は、「プレートテクトニクス」の成立に大きく貢献した。そして今も新たな研究が進むホットな分野である。
2.ドイツの気象学者、アルフレッド・ウェゲナーが「大陸移動説」を唱えたのは1915年である。当時、この説はあまりにも先鋭的だった上に、大陸を動かす原動力がよく分からなかった。このため、彼の死後はすっかり忘れ去られた。しかし、大陸移動説は60年代に復活する。海嶺と呼ばれる海底大火山山脈で誕生した海底〔プレート〕が、左右に拡大していることが発見され、それが大陸移動の原動力だと分かった。これをきっかけに、大陸移動説はプレートテクトニクスへと進化した。
3.その頃、太平洋の「海山列」に注目した2人の研究者がいた。カナダのツゾー・ウィルソンと米国のウィリアム・モーガンである。太平洋の海底には、ハワイ島からアリューシャン列島の西端付近まで約6000kmにわたり「海山」が並んでいる。「ハワイ・天皇海山列」である。海山は古い火山で、ハワイ島から離れるほど年代は古くなる。天皇海山列の北端は、8000万年前にできたものである。このような火山の年代と距離の関係は、他の海山列でも認められた。彼らは、ハワイ島や太平洋南部のピトケアンなどの活火山の源は、プレート運動に影響されない地球深部に存在し、そこから次々とマグマがヒ昇すると考えた。
4.プレートは一定の速度で動いているのだから、古い火山ほど活火山の源から離れた所まで移動する。この地球深部の熱源はホットスポットと名付けられた。この「不動」のホットスポットという概念の登場で、過去のプレート運動を見積もることが可能になった。例えばハワイ海山列の各火山の年代とハワイ島からの距離に基づくと、太平洋プレートは年間8cmの速さで北西方向へ移動していることになる。
5.太平洋プレートヒにある海山列はいずれも"くの字“形に折れ曲がっている。そして屈曲点の火山は約4700万年前にできたものである。このことは、太平洋プレートの運動方向がこのときに急変したとすればうまく説明できる。その後、海山列の調査が進むにつれて奇妙なことが分かってきた。天皇海山列の海山が、予想される位置からずれている。このことは、ハワイホットスポットがずっと不動だったのではなく、かつて「移動」していた可能性を示す。もしそうならば、天皇海山列とハワイ海山列の"くの字"は、4700万年前のプレート運動の急変を意味するのではなく、移動していたホットスポットが停止した結果なのかもしれない。
6.太平洋プレートの運動が急変したという説には、別の観点からも疑問が出ていた。もしこんな急変が起きたならば、日本列島などの太平洋プレートが沈み込む地帯では「大異変」が起きたはずである。しかし、4700万年前に特段の異変は認められない。
7.ホットスポットの「不動説」と「移動説」は、激しい論争を引き起こした。それぞれのシナリオは、不動説では、現在のハワイ島の位置にできた火山は、4700万年前までは北北西に移動する。そして、プレート運動の急変で、古い火山は天皇海山列を、4700万年前よりも後に誕生した火山はハワイ海山列を形成する。一方の移動説では、大昔には現在のハワイ島よりも北側で火山が誕生し、プレート運動によって現在の天皇海山列まで移動。そして4700万年前にホットスポットが停止した後に、ハワイ海山列が形成される。ハワイホットスポットの移動を認めると、4700万年前までのホットスポットは、現在のハワイ島よりも北に存在したはずである。
8.これを実証したとする論文が2003年に発表された。それは溶岩に記録された過去の地球磁場に注日したものだった。日本列島付近では、磁石は水平よりも約50度北に傾いている。この角度は赤道では0度、北極では90度である。この関係を使い過去の溶岩を調べると、火山が誕生した緯度を推定できる。ハワイー天皇海山列のデータは、天皇海山列では古い火山ほど高緯度に位置していた可能性を示した。このデータはホットスポット移動説の決定打になると思われた。しかしその後、過去の磁極の移動を考慮すると、天皇海山列の火山にも、現在のハワイ島とほぼ同じ緯度で形成されたものがあることが分かった。つまり、ハワイホットスポットは約6000万年前には今の位置に達し、その後は不動だった可能性が高い。ならば、太平洋プレートの運動方向の急変が、ハワイー天皇海山列の屈曲の主な原因ということになる。
9、だが昨年、移動説を後押しするデータが発表された。他の海山列とハワイー天皇海山列の形成年代のデータが整備され、ホットスポット聞の距離が推定された。これによると、ハワイと太平洋南部のルイズビル、ルルツの両ホットスポット問の距離は、4700万年前以降は 一定なのに対して、それ以前はもっと離れていた。つまり、ハワイホットスポットは決して不動ではない。
10.ホットスポット不動説はプレートテクトニクスの成立に重要な役割を果たした。しかし今では、少なくともハワイホットスポットについては、過去に南方へ移動したことは確からしい。なぜこのようなホットスボットの移動が起きて、なぜそれがストップしたのかは、今後も議論される。