2019年11月03日
個々の積乱雲の寿命は数時間、台風でも1週問程度である。数10日もかけて、測ったように赤道に沿って動く巨大雲塊の成因やメカニズムは大いに気象学者の興味を引いた。
「木本昌秀(東大教授):ゆっくり進む巨大雲塊と東西風 熱帯の大気現象の摩訶不思議、週刊ダイヤモンド、2019.9.21」は面白い。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.秋雨前線や台風に要注意の時期である。残暑厳しい日もある。暑い熱帯の気象について話である。太陽光が地面に垂直に近い角度で注ぐので熱帯は暑い。暖められた海水から大量の水蒸気が大.気に供給されて、大量の雲と雨が生じる。雲域の上昇流とそれを補う下降流の問で上下運動を伴って大気が循環するのが熱帯気象の特徴である。熱帯では、水蒸気が雲水になるときの凝結熱が重力に抗して上昇流を起こすのを助ける。
2.中高緯度では、上下よりも水平の運動の方が勝る。自転の影響が大きくなり、気圧の水平差と釣り合うので、大きな水平運動がより容易に実現するためである。地球の自転に伴って北半球では地面が反時計回りに回転しているが、南半球では逆向きの時計回り、そして赤道では地面の回転成分はゼロになる。従って、実際に赤い線が引かれていなくとも、大気は赤道がどこにあるかを知って運動することになる。このことが、熱帯にさまざまな特徴のある運動様式をもたらしている。
3.「エルニーニョ現象」もその一つで、東太平洋の海水温は、ぴたりと赤道に沿って上昇、下降する。赤道上の興味深い大気現象が2つある。静止気象衛星画像を見ると、赤道近くに白い雲がたくさんある。熱帯の白い雲は、大量の積乱雲群であり、豆粒のよい見える個々の積乱雲頂から噴き出るのが白く広がって見えている。
4.10日後にはインド洋の雲域がゆつくりと日本の南の経度まで移動してきたことが分かる。このような.巨大雲塊が赤道上をゆっくりと東へ進む現象が1970年代初頭に発見された。発.見者の名を取って「マッデン・ジユリアン振動〔MJO)」と呼ばれる。
5.MJOに伴う雲域の東進の平均的な様子を示すと、全期間40〜60日で、インド洋上で発達した巨大雲塊)がゆっくりと赤道に沿って移動していることが分かる。雲活動が不活発な領域があり、雲活動の正負が対になって波動の様相を呈している。雲のデータで見ると、システムの東進は日付変更線以東で.不明瞭になるが.、大気の他の.要素で見ると、赤道を1周している。
6.個々の積乱雲の寿命は数時間、台風でも1週問程度である。数10日もかけて、測ったように赤道に沿って動く巨大雲塊の成因やメカニズムは大いに気象学者の興味を引いた。特に不思議なのは、赤道に沿って東に進む波動の存在は理論的に知られているのだが、MJOの東進速度はこれよりはるかに遅いことである。近代の数値シミユレーションでもなかなかこの遅い移動を.再現することは難しい。
6.熱帯に住む人々にとって、明日の夕方に必ず来ると.分かっているスコールよりも、数週間先の雨季や乾季の動向が分かれば、農作業などの計画を立てるのに有用である。世界の気象機関が「熱帯の1.カ月予報」実用化のために、MJOの予報向上に取り組んでいる。日本のスーパーコンピュータ「京」での研究を含め、めどが立ちつつある。
7.中緯度上空には偏西風と、熱帯地表付近の偏東風(=貿易風)がある。熱帯で暖まつた空気が中緯度に移動すると、自転軸からの距離が短くなるため、フィギュアスケーターがスピンするときに腕を縮めて回転を速くするのと同じ理屈で、地面に相対的な西風の速度が増し、偏西風になる。一方、これを補うために中緯度から熱帯に侵人する空気は、逆の理屈で偏東風になる。従って、熱帯で地面の自転より速い西風が吹くためにはもう少し複雑なメカニズムが必要である。赤道の風の年々の変化を見ると、東風と西風が交互に入れ替わり、上空から降りてくるように見える。風向きの交替周期は26〜28カ月である。60年代に発見されたこの現象は「赤道成膚圏準2年周期振動(QBO)」と呼ばれる。この現象も大いに気象学者の興味を引いた。
8.上から降りてくるように見えるが.実はそうではなく、原因は対流圏で積乱雲などに励起され、上方に伝搬する、水平方向に小さなスケールのたくさんの波の働きであることが明らかにされた。西風と東風を強める2種類の波が代わり番こに働いて大きなスケールの平均東西風を変える。代わり番こに働くのは、これらの波の伝わり方が、平均風の向きに依存するからだという理論説明が、70年代になされた。
9.ここで紹介した波の実態を通常の気象観測網で提えることは困難で、定量的な解明には、赤道レーダーなど革新的な観測が貢献した。
10.長年にわたって極めて規則的な変化を繰り返してきたQBOが2016年に突如.小規則に変化し、学者たちを驚かせた。この事象は、「京」と共に日本が誇る高速コンピューダの「地球シミユレータ」を用いて再現され、上方に伝わる波だけでなく、北半球側から水平に伝わってきた中緯度の波が、引き起こしていたことが分かった。QBOは、MJOや中高緯度への影響を通じて長期予報にも貢献することのさらに研究が期待されている。
yuji5327 at 06:52