2020年03月16日
量子コンピューターのすごみは、性能が指数的に上がること。グーグルの53量子ビットのチップならば、2の53乗、約1京種類の情報を同時に計算できる。
「大矢博之、杉本りうこ(ダイヤモンド編集部)著:IBMの「虎の子」が日本上陸、週刊ダイヤモンド 2020.3.14」参考になる。印象に残った部分の概要を自分なりに補足して自分のコメントもカッコ内に付記して纏めると以下のようになる。
1.2019年.夏、一本の論文が大阪大学教授の藤井啓祐の元に届いた。差出人は英科学誌:ネイチャーの編集部で査読の依頼だった。執筆者は米グーグルの研究チームで、量子コンピューターで、既存のスーパーコンピューターよりも高速で計算する量子超越を達成したとする内容だった。
2.実機を使って実験する青写真は数年前から予定されていた。いずれは発表されると期待していたが、本当に出たことは驚異的である。量ゴコンピューターのアイデア自体は30年以上前から存在していた。1982年、米物理.学者のリチャード・ファインマンが、もしも自然をコンピューターでシミユレーションしたければ、量子力学のルールで動くコンピューターを作るべきだ、と提唱した。
3..94年、米数学者のピーター・ショアが量子コンピユーターを使えば素因数分解を高速で解くことができるアルゴリズムを開発した。これで産業界の量子コンピューターへの見方が変わった。電子メールやインターネット上での商品の注文や、日々の暮らしでこうしたツールを気兼ねなく使えるのは、情報を暗号が守ってくれるからである。この暗号には、素因数分解が使われている。
4.量予コンピューターが登場すれば、暗号の安全性が根底から覆るかもしれない。ショアのアルゴリズムの登場で、量子コンピューターの第1次ブーム"が到米する。99年、の中村泰信(現東大教授)と蔡兆申〔現東京理.科大教授)が、超伝導を使って量子コンピューターの基本素子となる量子ビットを初めて実現。ところがここから冬の時代を迎える。量子ビットが安定せず、数を増やすことは困難を極めた。
5.潮目が変わったのは14年。米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授のジョン・マルティニスが、高精度の5量子ビットのチップを実現した。これならば量子ビットを増やすことができるかもしれない。グーグルはマルティニスを研究室ごと買収することを決断した。今回量子超越を達成したのは、この研究.チームである。
6.グーグルの論文は、世界最速のスパコンで計算に1万年かかる問題も、量子コンピユーターを使えばたった200秒で、約15億倍速く解けるという内容である。ただ、解いたのは、量子コンピューターに極めて有利な問題である。量子コンピューターの動作を、量子コンピューターにシミュレーションさせた。
7.今回のグーグルの成果が、売り上げの改善など、すぐにビジネスに影響を及ぼす可能性は100%ない。しかし将来、量子コンピューターを社会で活用するならば、そもそも従来のコンピューターに勝てることを示さねばならない。
8.注目すべきは、グーグルはたった53量子ビットしか使っていないことである。これで世界一のスパコンを凌駕できると示した。量子コンピューターの強さの秘密は、計算に「重ね合わせ」という量子力苧の性質を使うことである。既存のコンピューターは、全ての情報を0とーの紐み合わせで表現する。この情報の基本単位がビットである。一方、量子力学の世界では、状態を必ずしも1つに確定する必要はなく、あいまいな状態を取ることが許されている。量子ビットは0と1を重ね合わせることで、その両方の状態を同時に表すことができる。例えば2景子ビットならば.00、01、10、11の4パターンを一度に表現することが可能である。
9.量子コンピューターの真のすごみは.性能が指数的に上がっていくことである。グーグルが使った53量子ビットのチップならば、2の53乗、約1京種類の情報を同時に保存して計算できる。量子ビットの数が増えるにつれ、性能が爆発的に上がっていく。もしも270量チビットのチップが実現すれば、そのパターンは10の80乗、宇宙に存在する全ての原子の数に匹敵する。これが、量子コンピューターの潜在力である。