2020年03月26日
7300年前、鹿児島県南都海域の「鬼界カルデラ」で噴火が起き、九州南部の縄文文化が壊滅した。火山灰.や軽石が降り積もり、火山灰は関東地方にまで及んだ。
「巽好幸(神戸大学教授)著:鬼界力ルデラ掘削で見えた2度の超巨大噴火の痕跡 週刊ダイヤモンド2020.03.21」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.7300年前、鹿児島県南都海域の「鬼界カルデラ」で噴火が起き、九州南部の縄文文化が壊滅した。火山灰.や軽石が降り積もり、高さ40kmにも達した噴煙柱が崩壊して高温の「火砕流」が襲来した。豊かな森や内湾の環境が破壊された。火山灰は偏西風に乗って広がり、現在の関西地方でも20cm堆積し、降灰は関東地方にまで及んだ。
2.噴出したマグマの総量はおおよそ100立方km。日本史上最大の富士山貞観噴火では1.7立方kmだったことと比べると、桁外れの規模であった。ただこの噴火は、海底火山の活動だったため、未確認の噴出物が海の底に大量に分布している可能性がある。
3.鬼界カルデラ周辺の海底を掘削するプロジェクトが今年初めに実施された。主役は世界最高レベルの掘削能力を誇る地球深部探査船(ちきゅう)で地層をほとんど乱すことなく、100mの筒状試料を採取できる。これまでの神戸大学の地下構造調査で、海底下数10mまでに、少なくとも2つの火砕流とおぼしき地層が見つかっていた。そこには実際に何があるのか。超巨大.噴火の規模やメカニズムの解明を目指して、ちきゅうは鬼界カルデラ海域へ向かった。
4.鬼界カルデラの成り立ちはそれほど詳しく分かっていないが、数10万年前から活動を始めたようだ。そして、少なくとも2度、9万5000年前(鬼界葛原噴火〉と7300年前(鬼界アカホヤ噴火)に超巨大噴火を起こしたといわれている。大量のマグマの噴田によって地下にできた空洞が陥没し、巨大なくぼ地、カルデラが形成される。東西25キ。層南北15キ。財の鬼界カルデラもこうして形成されたが、二重のくぼみが存在する。
5.海底地形の特徴などから、内側のカルデラは7300年前の噴火でできたと考えられる。だが外側は、過去2度のどちらの超巨大噴火に伴なうものなのか定かではない。もう一つ、このカルデラには大きな特徴がある。それは、内側のカルデラができた7300年前以降に、カルデラ内に世界最大観模の溶岩ドームが誕生したことである。
6.カルデラ形成後、例えば桜島火山や阿蘇中岳といった小規模の山体が形成されることは多い。しかし鬼界ドームのように約40立方kmものマグマが短期間で畷出した例はない。しかもこのマグマは、鬼界アカホヤ噴火のものとは化学的特性が異なり、新たに地下深部から上昇してきたものである。従ってこの火山では、地下深部から活発.なマグマの供給が続いており、次の超巨大噴火の準備段階にある可能性が高い。
7.ちきゅうは1月5日に静岡市の清水港を出港。まず御前崎沖で過去の南海トラフ沿いの地震の履歴を探る掘削を行い、鬼界カルデラ海域へ向かった。紀伊半島―四国沖では、爆弾低気圧.による強風や大波に見舞われ、甲板へ出ることも危険な状況だった。ただ船内は極めて快適だ。新年らしいメニューの食事も楽しめた。ちなみに食事の提供は1日4回。12時間交代で作業するクルーや研究者に対応するためである。そして1。月10日に竹島沖の掘削地点に到着。掘削作業が開始された。
8.今回は比較的軟らかい火山砕屑物がターゲットである。このため、先端に鋭い刃が付いたパイプを海底に突き刺す手法で挑んだ。1回に刺すパイプの長さは10m弱。これを繰り返し、海底下100mまで掘削した。しかし、ちきゅうにとって初経験である火山砕屑物は、なかなか手ごわかった。海底の表層部を覆う礫状の火山性地層が崩れやすく、掘削孔をふさいでしまう。そこで掘削地点をわずかにずらして前回の深さまで新しい穴を開け、先端からピストンを突き刺すことを繰り返す方法が採用された。
9.神戸大が過去に実施した反射法地震探査によって、この地点の海底下200mまでに、少なくとも5つの地層があることが分かっていた。このうち第1層と第3層は広範囲に分布し、堆積以前の海底地形の影響を受けていることから、火砕流堆積物の可能性が高いと考えていた。掘削の結果、これらの層はやや粗粒の軽石と同質の細粒の火山灰から成る火砕流堆積物であることが判明した。ではこれらの火砕流は、鬼界カルデラの超巨大噴火によってもたらされたものなのだろうか?
10.第1で採取した試料はややオレンジ色を呈している。これは名前の由来になった鬼界アカホヤ噴出物の特徴である。この層が7300年前の超巨大噴火によって形成されたものであることは間違いないであろう。
噴火の火砕流〔幸屋火砕流)の堆積物は、九州南部の陸トでは1眉以下の厚さしかない。これにより噴出したマグマの総量は40立方キu麿程度と見積もられてきた。もちろんこれでも莫大な量だが、今回の第-層の採取試料を基.に噴出したマグマ量を求めると、100立方kmを超える。
11.7300年前の超巨大噴火は、従来考えられてきた噴火よりもはるかに大規模だった。陸上では火砕流堆積物は容易に浸食されるために、その総量を求めることは困難である。掘削と反射法探査の結果を合わせることで、世界で初めて超巨大噴火の親模を正確に見積もることができ。
12.もう1つの特筆すべき結果は、第3層の火砕流堆積物が、9万5000年前の鬼界葛原超巨大噴火に由来するいう裏付けが取れたことである。この噴火に伴う火砕流〔長瀬火砕流〕は竹島の海岸沿いで確認されただけだが、これまで知られている鬼界カルデラ由来の火砕流の中で唯一石英を含むものである。今回第3層から採取された軽石にもこれが含まれていた。今後、反射法地震探査の結果を再度精査して、この超巨大.噴火の規模を正確に求める検討も進める。
13.これらによって、この巨大海底カルデラ火山の地下で起きてきたマグマの供給や蓄積など、超巨大噴火に至るプロセスの理解が格段に進むものと期待される。掘削を成功裏に終えたちきゅうは1月15日に佐世保港へ入港し、現在ドックで検査を受けている。