2020年03月28日
今回の株価の動きによって浮き彫りになったのは、21世紀の今、20世紀の経済原論は通用しない、ということである。
「2020/3/20付の 大前研一さんの「ニュースの視点」(発行部数 159,362部)は「新型コロナ/金融/原油〜20世紀の経済原論は通用しない」と題する記事である。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.12日のニューヨーク株式市場で、寄り付き直後から売り注文が殺到し、9日に引き続き、取引を中止するサーキットブレーカーが発動しました。再開後も流れは変わらず、終値は前日比2352ドル安と過去最大の下げ幅となった。
2.トランプ大統領は「全てコントロール下にありうまくいっている」と発言していたのに、急に非常事態宣言を発動した。トランプ大統領らしい。今回の株価の動きによって重要な問題として浮き彫りになったのは、「21世紀の今、20世紀の経済原論は通用しない」ということである。
3.21世紀の経済原論は、ボーダレス経済、マルチプル経済、サイバー経済であり、これまでにも何度も20世紀の経済原論とは異なるものだと主張してきた。両者の特性は、極端に言えば「真逆」である。
4.20世紀の経済原論では、景気を刺激するためには、金利を下げて、マネーサプライで市場をジャブジャブにするという方法が有効だった。トランプ大統領も安倍首相も基本的にこの考え方しか持ち合わせていない。国債を発行し、中央銀行に吸収させるというリフレ派の発想です。今回の米国の対応も、トランプ大統領がパウエル氏に指示を出して、金利を強引に下げさせるというものだった。
5.これまで0.25%ずつ引き下げてきた金利を、一気に0.5%引き下げた。しかし、マーケットの反応はゼロだった。むしろマーケットはさらに下落した。これは20世紀の経済原論に対して、マーケットが反旗を翻した。また、マネーサプライも通用しませんでしなかった。約150兆円の資金を注入したが、マーケットから全く反応はなかった。マネーサプライで市場をジャブジャブにしても、その市場にニーズがなければ資金はさらに高いリターンを求めて外へ出ていく。
6.例えば日本円が外へ出て行く場合は「円キャリー」である。今週に入って米国の株式市場は少し値段を戻したが、この1週間で見ると約2600ドル下落していて、リーマンショックに次ぐ大きな下げ幅を記録した。
7.日米の株価の騰落率の推移をみると、下がる一方の日本に対して、米国は上下の振れ幅が非常に大きくなっている。深刻な問題になりつつある。今回、リーマンショックのときよりも厄介なのは、問題が明確ではないために、対策を打ちづらいということである。
リーマンショックにおいては、問題は貸し込んでいた銀行であることが判明していたから、対策を立てることが可能だった。
8.ところが、今回の相手はコロナウイルスである。今後どのくらい感染が広がっていくのか、ドイツのメルケル首相が言うように国民の6〜7割が感染してしまうのか、誰にもわかっていない。日本にしても、とりあえず2〜3週間様子見をしている状況にすぎない。この間に収束するかどうか、見通しはたっていない。
9.今回の株価下落によって、トランプ大統領が就任以来稼いできた株価上昇分はほとんど消えた。また、ツイッターでパウエル氏に指示を出して何とかごまかしていた手法も、今後は通用しない。
10.日経新聞は10日、「OPECの『落日』鮮明」と題する記事を掲載した。ロシアのノワク・エネルギー担当相が6日、OPECとの会合で4月以降の協調減産強化を拒否したと紹介している。一方、原油価格の国際指標である北海ブレント先物が9日、一時1バレル30ドル台に急落し、ロシアは高コストのサウジアラビアに付き合うより、相場下落で自ら傷を受けながら強敵に育った米国のシェール企業を攻撃するほうが得策と判断したとしている。非常に興味深い話題だが、日本にとっては喧嘩を対岸から見ているだけで、原油価格は安ければ安いほどありがたい状況である。
11.OPECの原油減産に対して、ロシアが反対した。すなわち、OPECの中心にいるサウジアラビアとロシアが敵対したという構図になる。その後、サウジアラビアの皇太子と
ロシア側が話し合いを持ち、対立するのではなく協力して米国を叩こうということになった。背景にあるのは、米国の原油生産量、輸出量の伸びである。特にこの数年間の伸びは急激で、今や米国は国際供給で世界最大級の原油産出国であり輸出国に成長している。OPECからすれば、成長する米国にいじめられているような状況だった。
12.それに対して、この原油価格の下落を利用して米国の足腰が立たないようにしてしまいたい、というのがサウジアラビアとロシアの狙いである。米国は経済原則の国である。シェールオイルの価格が1バレル30ドルを下回ってきたら、次々と閉鎖していくことになる。そのようにして、一度米国を叩きのめして退場させてから、ゆっくりと自分たちだけで稼ごうということである。
13.実際のところで言えば、サウジアラビアも1バレル80ドルくらいの価格を維持しないと今の無駄遣いの国家予算を正当化することはできない。ベネズエラなどは1バレル120ドルほどの価格でなければ経済が成り立たない。ロシアは1バレル40ドルが限界と言われていたが、先日プーチン大統領が1バレル25ドルでも戦えると公言している。
14.米国の原油生産量の推移を見ると、原油価格の上昇に比例して次々シェールオイルを掘ってきたことがわかる。原油輸出量も、サウジアラビアとロシアに迫る勢いを見せている。今のうちに叩き潰しておかないといけないと感じるのも当然かもしれない。OPECとロシアにとってはそんな米国を叩きのめすのは、今や「共通の夢」と言っても過言ではない。「サウジアラビアとロシア」VS「米国」という新しい対決の構図が見えてきて、これも市場の混乱に拍車をかけている状況である。
1.12日のニューヨーク株式市場で、寄り付き直後から売り注文が殺到し、9日に引き続き、取引を中止するサーキットブレーカーが発動しました。再開後も流れは変わらず、終値は前日比2352ドル安と過去最大の下げ幅となった。
2.トランプ大統領は「全てコントロール下にありうまくいっている」と発言していたのに、急に非常事態宣言を発動した。トランプ大統領らしい。今回の株価の動きによって重要な問題として浮き彫りになったのは、「21世紀の今、20世紀の経済原論は通用しない」ということである。
3.21世紀の経済原論は、ボーダレス経済、マルチプル経済、サイバー経済であり、これまでにも何度も20世紀の経済原論とは異なるものだと主張してきた。両者の特性は、極端に言えば「真逆」である。
4.20世紀の経済原論では、景気を刺激するためには、金利を下げて、マネーサプライで市場をジャブジャブにするという方法が有効だった。トランプ大統領も安倍首相も基本的にこの考え方しか持ち合わせていない。国債を発行し、中央銀行に吸収させるというリフレ派の発想です。今回の米国の対応も、トランプ大統領がパウエル氏に指示を出して、金利を強引に下げさせるというものだった。
5.これまで0.25%ずつ引き下げてきた金利を、一気に0.5%引き下げた。しかし、マーケットの反応はゼロだった。むしろマーケットはさらに下落した。これは20世紀の経済原論に対して、マーケットが反旗を翻した。また、マネーサプライも通用しませんでしなかった。約150兆円の資金を注入したが、マーケットから全く反応はなかった。マネーサプライで市場をジャブジャブにしても、その市場にニーズがなければ資金はさらに高いリターンを求めて外へ出ていく。
6.例えば日本円が外へ出て行く場合は「円キャリー」である。今週に入って米国の株式市場は少し値段を戻したが、この1週間で見ると約2600ドル下落していて、リーマンショックに次ぐ大きな下げ幅を記録した。
7.日米の株価の騰落率の推移をみると、下がる一方の日本に対して、米国は上下の振れ幅が非常に大きくなっている。深刻な問題になりつつある。今回、リーマンショックのときよりも厄介なのは、問題が明確ではないために、対策を打ちづらいということである。
リーマンショックにおいては、問題は貸し込んでいた銀行であることが判明していたから、対策を立てることが可能だった。
8.ところが、今回の相手はコロナウイルスである。今後どのくらい感染が広がっていくのか、ドイツのメルケル首相が言うように国民の6〜7割が感染してしまうのか、誰にもわかっていない。日本にしても、とりあえず2〜3週間様子見をしている状況にすぎない。この間に収束するかどうか、見通しはたっていない。
9.今回の株価下落によって、トランプ大統領が就任以来稼いできた株価上昇分はほとんど消えた。また、ツイッターでパウエル氏に指示を出して何とかごまかしていた手法も、今後は通用しない。
10.日経新聞は10日、「OPECの『落日』鮮明」と題する記事を掲載した。ロシアのノワク・エネルギー担当相が6日、OPECとの会合で4月以降の協調減産強化を拒否したと紹介している。一方、原油価格の国際指標である北海ブレント先物が9日、一時1バレル30ドル台に急落し、ロシアは高コストのサウジアラビアに付き合うより、相場下落で自ら傷を受けながら強敵に育った米国のシェール企業を攻撃するほうが得策と判断したとしている。非常に興味深い話題だが、日本にとっては喧嘩を対岸から見ているだけで、原油価格は安ければ安いほどありがたい状況である。
11.OPECの原油減産に対して、ロシアが反対した。すなわち、OPECの中心にいるサウジアラビアとロシアが敵対したという構図になる。その後、サウジアラビアの皇太子と
ロシア側が話し合いを持ち、対立するのではなく協力して米国を叩こうということになった。背景にあるのは、米国の原油生産量、輸出量の伸びである。特にこの数年間の伸びは急激で、今や米国は国際供給で世界最大級の原油産出国であり輸出国に成長している。OPECからすれば、成長する米国にいじめられているような状況だった。
12.それに対して、この原油価格の下落を利用して米国の足腰が立たないようにしてしまいたい、というのがサウジアラビアとロシアの狙いである。米国は経済原則の国である。シェールオイルの価格が1バレル30ドルを下回ってきたら、次々と閉鎖していくことになる。そのようにして、一度米国を叩きのめして退場させてから、ゆっくりと自分たちだけで稼ごうということである。
13.実際のところで言えば、サウジアラビアも1バレル80ドルくらいの価格を維持しないと今の無駄遣いの国家予算を正当化することはできない。ベネズエラなどは1バレル120ドルほどの価格でなければ経済が成り立たない。ロシアは1バレル40ドルが限界と言われていたが、先日プーチン大統領が1バレル25ドルでも戦えると公言している。
14.米国の原油生産量の推移を見ると、原油価格の上昇に比例して次々シェールオイルを掘ってきたことがわかる。原油輸出量も、サウジアラビアとロシアに迫る勢いを見せている。今のうちに叩き潰しておかないといけないと感じるのも当然かもしれない。OPECとロシアにとってはそんな米国を叩きのめすのは、今や「共通の夢」と言っても過言ではない。「サウジアラビアとロシア」VS「米国」という新しい対決の構図が見えてきて、これも市場の混乱に拍車をかけている状況である。