2020年03月29日
本人確認を瞬間でこなす顔認証技術が、羽田・成田に今春登場する。空港で搭乗手続きを終えたら、顔バスで飛行機に搭乗できる。
「中川雅博著:あのアップルも空港イノベーションに参画、羽田・成田で顔パス搭乗、世界で広がるスマート空港、 週刊東洋経済 2020.3.28」
1.本人確認を瞬間でこなす顔認証技術が、羽田・成田に今春登場する。空港で搭乗手続きを終えたら、パスポートをかばんにしまったまま、顔バスで飛行機に搭乗できる。そんな革新的な仕組みが動き出す。
2.羽田空港と成田空港は今夏の東京五輪開催までに、搭乗手続きから機内への搭乗までのすべての予続きで顔認証技術を採用する。まず日本航空〔JAL)と全日本空輸〔ANA)から導人が始まる予定である。搭乗手続き時に自動チェックイン機でパスポートと搭乗券、顔情報をひも付け、「One ID」と呼ばれる一時的なIDを生.成する。その後、自動手荷物預けや保安検査、搭乗ゲートの通過が顔認証だけで完了する。
3.朝7-9時の羽田空港において手荷物預け待ちから保安検査通過まで10分以内で終えられた旅客の比率は2018年時点で41%だった。導入を指揮する国土交通省は、これを70%まで引き上げたい考えである。同省航空局総務課の担当者は、「旅客のストレス軽減につなげたい」としている。新型コロナが猛威を振るっているが、くしくもこの仕組みで空港や航空会礼の職員と旅客の物理的な接触を抑えられるという副次的な効果もある。
4.両空港で顔認証システムを導人するのは、ITサービス国内大手のNECである。同社は現在、顔や指紋などの生体認証技術を生かした事業を最重要分野として位置づける。とくに顔認証は米国立標準技術研究所(NIST)のベンチマークテストにおいて、照合精度で米マイクロソフトなどの米中欧大手を抑え、昨年5度日の首位獲得を達成。営業攻勢を強めている。
5.顔認証技術の開発責任者を務める今岡仁フェローは、「特長は、本人と似ている他人との違いを最大限に強調して認識する点にある。さらに経年変化があっても認証精度を維持でき、データベースの登録人数が増えても正解率が変わらないのが強み」と自信を見せる。パスポート写真を用いた混雑空港での顔認証は、まさにそうした技術力が求められる。
6.昨年成川空港での顔認証導人におけるメインベンダーに選ばれた際、事業開発を担当する受川裕執行役員は、「搭乗ゲートなどで、ウォークスルーを実現できる、動画による顔認証の精度が評価された」とも語っている。ただ、実は羽田でも成田でも、1カ所だけ「顔パス」では通れない手続きがある。出入国審査である。ほかの手続きの管轄官庁が国土交通省なのに対し、ここでは法務省の出入国在留管理庁である。
7.18年夏から顔認証ゲートが導入されたが、NECを含む4社を抑え、パナソニックが受注した。これは先述のOne IDのシステムとはつながっておらず、読み取り機にかざしたパスポートのICチップ内の写真と、その場で撮影した顔写真を照合するという仕組である。国交省担当者は、管轄官庁との協議を進めたい、という。
8.近年、大規模な顔認証システムを採用する空港は海外でも増えている。先駆けが、16年10月に開業したシンガポール・チャンギ国際空港の第4夕ーミナルである。出発エリアに職員がほとんどいない光景は当初から話題となった。その後18年末に続いたのが、米アトランタ国際空港。ここに本社を置く米デルタ航空が導入し、税関国境警備局とも協力したうえで、羽田・成田では当面実現しない出入国審査でのシステム連携も可能になった。
9.世界中で採用拡大のきっかけになりそうなのが、今年中に航空連合「スターアライアンス」が生体認証を活用した本人確認システムの導人を始めることである。ここでもNECが受注した。アライアンス加盟社のスマートフォンアプリで顔画像とパスポート情報を登録してチェックインを行うと、顔パス搭乗が可能になる。
10.旅客の利便性が増す一方で、顔認証の普及とともにプライバシーに関する懸念が膨らむ。咋年5月には米サンフランシスコ市議会が公共機閲による顔認証システムの導入を禁じる条例案を可決した。人権団体・米国自由人権協会〔ACLU〕など顔認証技術の反
対派は、一般のビデオカメラで対象者の同意なしに監視できる点に懸念を示す。ACLUはこの3月、米国土安全保障省などを相手取り、出入国管理や空港の監視において、認識した顔情報の利用法や航空会社や空港との契約の詳細を透明化するよう訴えを起こした。
11.ACLUのアシュリー・ゴースキー弁護士は、「空港での顔の監視に関する政府の計画がほとんど知られていないのは、非常に憂慮すべきことだ」と述べている。もっとも、各国の主要空港で発着枠が拡大する中、空港のスマート化は不可欠である。.NECのようにそれを商機とするIT企業も少なくない。昨年10月には、米アップルが米ユナイテッド航空と協力し、サンフランシスコ国際空港の刷新を計画していることが明らかになつた。アップルはユナイテッドに毎年1.5億ドル支払う最大級の法人顧客でもある。
12.ユナイテッドの幹部は、「空港での体験を革新するものになる。アップルのチームはすでに手荷物預けやカスタマーサービス、ロビーなどのエリアを視察した」と語っている。技術の発達により、空港の混雑はどこまで解消されるか、まずは日本の2大空港での実力が試される。