2020年05月14日

トランジスタの高速化は、1948年のトランジスタの誕生以来、半導体素子工学の目標であった。高速化で、大量の情報を処理したり、高周波数の電波信号を送受信することができる。

「三村高志著:高電子移動度トランジスタ〈HEMT)の研究成果、學士會会報No.942(2020-})は参考になる。
1.HEMTとは、電子の高速走行を実現したトランジスタである。動作原理や素子構造において、従来デバイスとは一線を画するトランジスタである。2000年にアメリカのクリントン政権が発表したNational Nanotechnology Instituteにおいて提唱されたナノテクノロジーの代表例の一つとしてHEMTが挙げられ、世界的な研究開発は現在もきわめて活発である。HEMTはすでに国内外の多くの企業で商品化され、電波天文学の進歩や衛星放送を爆発的に普及させるなど、各種情報通信システムのキー・デバイスとして活躍の場を拡げている。
2.トランジスタの高速化という技術課題は、1948年のトランジスタの誕生以来、半導体素子工学における強力なドライビングフォースであった。トランジスタが高速化されれば、大量の情報を短時間で処理したり、高い周波数をもつ電波信号を送受信することが可能になるなど、各種情報通信システムの性能向ヒが期待されるからである。
3.トランジスタの高速性を支配する基本的な要因については、トランジスタの動作スピードは、入力信号を担なったキャリア、たとえば電子が入力電極(ゲート電極)を走り抜けるのに要する時間で決まる。この時間を短くしてやれば、高速になる。だから、高速化には2つの方法が考えられる。その1つば、ゲート電極を短くしてやる、つまり微細化である。これは、シリコンの集積回路などで世代ごとに微細化が進むのを見ても分かるように、半導体デバイスでは伝統的手法である。トランジスタを高速化するもう1つの方法は、電子の走行速度をアップしてやることである。走行速度をアップさせるには。電流は電圧の大きさに比例するというオームの法則が役に立つ。電流が電圧とともに増加するのは、電子の走行速度がアップするためである。スピードアップのしやすさを移動度とかモビリティと呼んでいる。したがって、トランジスタを高速にするためには、電子移動度をできるだけ高くしてやればよい。
4.電子移動度というのは、半導体の種類によって異なるし、温度によっても著しく変化する。さらに、半導体中に添加するドナーやアクセプターなどの不純物の濃度によっても、移動度は大きく影響される。Siより電子移動度が高いことで知られるガリウムヒ素でも、不純物を殆ど含まない高純度のものであれば、電子移動度はSiより6倍位高い値を持つが、実用的なGaAsの電界効果トランジスタの電流路に使われるドナー濃度10**18/cm-3では、Siと同程度にまで低下してしまう。
5.ドナー濃度が高くなる程、電子がドナーと衝突する機会が増え、衝突する度に電子の運動方向がでたらめに曲げられる結果、電子のスピードが遅くなってしまうからである。このことが従来のトランジスタにおける技術的なバリアであった。つまり、電子移動度の観点から、出来る限り高純度の半導体を使いたいわけだが、一方、トランジスタに電流を流すためには電子を産み出すドナー不純物の添加が必須であり、電子移動度が低下してしまうというジレンマである。
6.HEMTにおいて、高電子移動度を得る仕掛けというのは、実はこのジレンマを解消する工夫に他ならない。HEMTの最も特徴的な構造部分は、不純物のない高純度GaAs層のの上部に、n型AlGaAs層を積層した2層構造になっている。こういう異種半導体の積層構造をヘテロ接合とかヘテロ構造と呼んでいる。2層構造上部のAlAsGa層には、電子を発生させるためにドナーとなるSi原子が添加されている。こういう構造にしてやると、電子は面白い空間分布をする。つまり、AlGaAs層中のドナーから発生した電子は、2層構造下部のGaAs層側へ移動してしまう。半導体には電子親和力という電子を引きつける性質があり、GaAsのほうがAlGaAsより電子親和力が強いためである。
7.電子親和力の差が、伝導帯のエネルギー段差となって現れ、電子にとってはAlGaAs層にいるよりは、GaAs層へ移動したほうがエネルギー的に得をすることになる。この結果、AlGaAs層にはプラスにイオン化したドナーが残り、GaAS層には2次元電子ガスが形成される。つまり、電子はドナーから空間的に分離される。このため、ドナーとの衝突がなくなり、高速で走れるようになる。これが、HEMTにおける高電子移動度を得る仕掛けの本質である。
8.現在HEMTは、衛星放送受信用コンバータや携帯電話機、自動車レーダ等に広く使われている。しかしこのような量産家電市場向けの製品化プランが当初からあったわけではない。1980年代初期には既存のマーケットに投入するには技術的な問題が山積していた。とりわけコストパフォーマンスの観点からGaAsMESEFTのような実績のある従来デバイスに到底太刀打ちできなかった。いろいろ検討した末、可能性のある応用分野としてマイクロ波帯の衛星通信分野に挑戦してはということになった。そこでHEMTの低雑音増幅器を試作し、1983年の国際固体回路会議で発表することになった。
9.HEMTの商品化のきっかけは思いがけないところから始まる。この発表をおこなった仲間が席にもどると、今あなたが発表したHEMTを売ってほしいといわれた。依頼主は米国の電波天文台の関係者であった。発表したHEMTの液体窒素温度での雑音性能がGaAs MESEFTに比べ若干優れており、また従来からかれらが使っていたパラメトリック増幅器より長時問安定に動作する可能性を持っていたためである。このことが一つの契機となり、1985年に野辺山電波天文台の直径45mのパラボラアンテナに設置された低雑音増幅器がHEMTのはじめての製品である。
10.このHEMT増幅器は、暗黒星雲の中の未知の炭化水素分子の発見に貢献し、その後世界中の電波天、文台に設置されるようになった。マーケットの出現によって技術進化が加速され、イノベーションに向けた最初の一歩が踏み出されたからである。
11.HEMTが本格的に普及し始めたのは1987年頃からである。従来からのGaAsMESFETにかわり、衛星放送受信用パラボラアンテナの低雑音増幅器として使われるようになった。HEMTを使うことでパラボラアンテナのサイズが従来の半分以下にまで小さくなり、衛星放送は日本や西側ヨーロッパ諸国のみならず、当時国交の無かった東欧の一般家庭にまで爆発的に普及した。このような急速な普及が可能となった背景には、MBE(分子線結晶成長法)やMOCVD(有機金属化学気相成長法)といった原子層レベルで結晶成長を制御するナノテクノロジーや素子構造の最適化、選択ドライエッチングなどHEMTに固有な量産化技術が開発されたことが挙げられる。
12.HEMTはマイクロ波、ミリ波領域の各種装置で高速・低雑音性能に優れた素子として必須部品となつており、情報通信社会を支える基盤技術の1つとして認識されている。1例を挙げれば、今では私たちの生活に欠くことができないものになっているスマートフォン・携帯電話において、基地局から端末に電波を送るところでHEMTは使われている。高周波領域で効率よく信号を増幅することができるため、消費電力を小さくできる利点がある。商用化されつつある5Gやその先の移動通信システムでは、更に高い周波数領域も 使われると予想されており、300GHz帯でのデモも報告されている。この用途ではHEMTの有用性が一層増すであろう。
13.1980年にHEMTを発表して今年で40年になる。この間HEMTは、一方では衛星放送受信システムや携帯電話システムなど、情報通信イノベーションを推進した基盤技術として広く普及し、また他方では電波望遠鏡の高性能化を通じ、宇宙の神秘を解明する基礎科学に貢献してきた。今後、情報通信技術の一層の高度化に向け、従来からのGaAsやInPを用いたHEMTに加え、GaNHEMTなど、技術開発のフロンティアは広範囲に拡がり、現在においてもなお多くの研究者の努力が傾けられている。さらにエネルギーの高効率な利活用や、環境にやさしい情報通信技術の実現など、HEMTによる持続可能な社会の実現に向け大きな役割を果たすものと期待される。


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池上湖心 プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山に師事
書象会に所属、書象会理事
審査会々員
○作品展の開催
・主宰している「さざ波会」
 作品展を毎年8月開催
(於:稲毛ギャラリー)
・土曜会(グループ展)
 作品展を毎年10月開催
(於:銀座大黒屋)
○公募展の受賞、入選
・日展入選
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 読売奨励賞
 読売新聞社賞
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