2020年05月18日

日本企業が「会議は踊る、されど進まず」から脱却するために、ビデオ会議の普及がどう影響を与えるのか注目したい。


「校條浩著:「表徴の帝国」日本は変わるのか、週刊ダイヤモンド 2020 .5.16」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.新型コロナウイルスの影響により、多くの企業で従業員が自宅で勤務を強いられることになった。そこで脚光を浴びているのが、パソコンやスマートフォンを通して複数の人がリアルタイムに顔を見ながら議論ができるビデオ会議だ。大手企業も使わざるを得ない状況になりつつあるが、そこに、日本企業がデジタル時代に適応できるかどうかのヒントがある。
2.ビデオ会議を始めることによつて、会議で発言せず貢献していない人が浮かび上がっている。普段なら会議の場にいれば、それで仕事をしたことになったが、ビデオ会議では各人の登言が重要で、発言しない人は明確に分かってしまう。ビデオ会議の良いところは、議論の中身に集中できることである。それは、ビデオ会議のコミュニケーションの主体が言葉だからである。。
3.言葉は、ロジックを伝えるのに向いている。具体的な目的や論点が明確ではない状態でビデオ会議に出席すると、議論にならず、ただのおしゃべりになってしまう。一方、顔を合わせる普通の会議では、言葉を超えた意味合いを伝えることができる。例えば、自分が相手を批判するような場合、同じ会議室の中であれば、その場の雰囲気や話し方、態度で相手を傷つけないように配慮することができる。難しい意見を述べる場合、相手の顔を見ながら、途中でトーンを変えたり、内容を調整したりすることも容易である。このように、場を共有しているからこそ、身振り手振りや顔つきで意図や気持ちを伝えることができたり、リアルタイムに反応を見ながら議論を進めることができたりするのは、顔を合わせる会議の利点である。
4.顔を合わせる会議が、日本企業の現場ではマイナスになる場合も多かった。場の空気で話が進むようなケースである。そうした会議を全て否定するわけではないが、日本企業の問題は、論理立てて意思決定すべき場面でも、場の雰囲気で決めてしまうことである。これは単に会議の進め方の問題ではなく、もっと深いところで日本企業の変革を阻害しているDNAがある。日本文化に埋め込まれたDNAまでさかのぼって考えてみたとき、フランスの哲学者、ロラン・バルトのエクリチュールについての思想が大いに参考になる。バルトの言うエクリチュールとは、フランス文学者の内田樹氏の説明を借りれば、「社会的に規定された言葉の使い方」である。すなわち、ある特定の立場にある人間は、それにふさわしい言葉の使い方をしなければならない。その言葉の運用においては、表情、感情表現、服装、髪形、身のこなし、生活習慣、さらには信教、死生観に至るまでが影響される。
5.エクリチュールとその人の生き方はセットになっている。そのくらい「言葉」が重要である。バルトは、1960年代に日本各地を訪れ、エクリチュールの視点から独特な日本文化論を展開した。西洋世界が「言葉の帝国」であるのに対して、日本は「表徴の帝国」だと解き明かした。西洋世界では、記号を言葉で満たそうとするのに対し、日本では意味を無と化すような記号が存在する。だから、日本語の表出するものは印象であって、事実そのものではないと。それをバルトは「表徴」と呼んだ。
6.バルトは表徴の例として、日本料理を挙げている。日本料理は、材料が刻まれて入ったいろいろな小さな容器の集合体が、色と筆致のある絵画になっている。料理の技術の粋は組み合わせにあり、箸のつけ万や順番は食べる人が決める。すなわち、料理や器、食膳から成る絵画の上に、食する人間が重層的に配置された空間でのしぐさ、行為がエクリチュールなのだという。
7.対照的に、西洋料理は食べるための料理が食膳にはめ込まれ、それはグラビアのように平板な写真だ。そして決まった順番で運ばれ、食べる人の重層的な関与は薄い。バルトの哲学を単純に解釈すれば、西洋世界では言葉でコミュニケーションを図る一方、日本では表徴がコミュニケーションの主体となっている。
8.日本企業がデジタル化の中で新しい経営の流儀への転換が進まない理由は、デジタルは、西洋世界での言葉主体のコミュニケーションで大きく花が開いた。インターネットの出現で、世界中のあらゆる階層の人々が発信し始めたが、そのコンテンツは圧倒的に言葉による情報だった。米グーグルは、全ての言葉の組み合わせに対して最も関係する情報を対応させるというビジョンで急成長し、デジタルの世界で帝国を築いた。一方、日本文化に根付く表徴主体のコミュニケーションは、個々のコンテクストが重層的で、デジタルとの折り合いが悪い。互いの素性を理解した者同士か、もしくは対面で会うことができなければ、心から分かり合えない。その結果、日本企業では会議室の外での暗黙の同意が行われ、会議室では表徴を主体としたコミュニケーションにより共感を求めるという「二重横造」になっており、言葉主体のコミュニケーションの入る余地は少ない。
9.バルトの日本料理の見方が、私には日本の会議室に重なって見える。食べる目的(議題)が曖昧な中で、いろいろな食材(参加者)が絵画のように並んでいる。食器の並び方(席順)も料理(会議)に関係し、どの食材に箸をつけるか(どう議論を進めるか)には基準がない。極端な話、会話に貢献しない。“食えない”人も、日本料理という絵の中では役割がある。日本企業の基本流儀が日本文化のDNAに基づいているとすれば、文化の素地を「表徴の帝国」から「言葉の帝国」にスイッチしない限り、意思決定の方法は変わらず、会議の役割や性格、方法も変わることはない。
10.「言葉の帝国」をDNAに持つ人たちによって作られたビデオ会議システムを利用することにより、日本人の「表徴の帝国」のDNAを凌駕して、言葉によるコミュニケーションに変化していくのか。あるいは、自宅待機が解除されて会議室に戻ってきたら、たちどころに元の表徴に戻ってしまうのか。日本企業が「会議は踊る、されど進まず」から脱却するために、ビデオ会議の普及が企業に集う人たちの行動にどう影響を与えるのか、その変化に注目したい。


yuji5327 at 06:16 
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池上湖心プロフィール
○略歴
大東文化大卒、
在学中 上條信山(文化功労者)に師事
書象会理事、審査会員
公募展出展
〇謙慎展・常任理事
・春興賞受賞2回
・青山賞受賞
〇読売書法展理事
・読売奨励賞受賞
・読売新聞社賞受賞
〇日展入選有

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