2020年05月21日
週刊ダイヤモンド
「長谷川眞理子(総合研究大学院学長)著者:抜いても抜いても生えてくる雑草たちのしたたか生存戦略、週刊ダイヤモンド 2020.5.23」は参考になる。概要を自分なりに纏めると以下のようになる。
1.新型コロナウイルスの感染症が猛威を振るっている。日本でも緊急事態宣言が発せられ、外出の自粛が要請されている。そこで大学も閉鎖。授業はオンラインで研究室には行けず、大学院生.や研究者にとっても大変にストレスを感じる状況である。著者は、在宅勤務でテレビ会議という就業体制になり、庭の草むしりをする時聞が格段に増えた。そこで、この「雑草」というものについて考察する時間もまた、格段に増えた。芝生の庭や花壇、家庭菜園からせっせと取り除いているのは雑草だが、「雑草〔英語ではweed〕」とはキク科、イネ科などのように「雑草」という分類群があるわけではない。
2.雑草と呼ばれる植物には、さまざまな科や属が含まれている。雑草とは、田畑や庭、芝生など、人間がある目的のために利用しようとしている上地に生えてくる植物で、人間が目的とする土地利用の生産性を阻害するものを指す。従って、同じ植物であっても、そういう特定の場所に生えれば雑草になるが、そうでない場合には雑草ではない。
3.タンポポは、芝生の中や畑に生えれば雑草だが、タンポポの根からコーヒーを作るなど、タンポポを育てている入にとってはそうではないし、何にも利用されていない空き地に生えても、雑草とは見なされない。この雑草が何を指すかについて、みんながある種の共通のイメージを持っている。それは、生えてきてほしくないのにどんどん生えてくる、いろいろな形態のものが雑多に混合している、撲滅しようとしてもとても無理.、といったイメージである。これら全ての性質について、進化的な説明が存在する。4.雑草には、さまざまな科や属の植物が含まれているが、それらは皆、「かく乱」の多い場所に侵人できるという性質を備えている。かく乱とは、自然状態でいえば、河川の氾濫や土砂崩れなどで生息地に激変が起こることだが、農地というものも、人が定期的に耕したり掘り返したりするのだから、かく乱の多い土地である。芝生も、ごく最近に土を掘り返して作ったものだから、植物から見れば新天地である。雑草はこのような場所に侵人し、その後にまたいろいろなかく乱があっても、そこに住み続けられるような性質を備えている。
5.植物には一年章、二年草、多年草がある。一年草は1年で、二年草は2年で本体が死ぬ。死ぬ前に子孫を残すので、これらは花を咲かせて種子を作り、種子をそこらに散布することで存続する。多年草は種子も作るが、茎を伸ばす、球根を増やすといった、性によらない増殖方法を収ることも多い。
6.散布される種子については、雑草は非常にたくさんの種子を作る。農地で作られる穀物は、収穫のしやすさや収量を考えて作られてきたので、比較的大きな種子を、比較的少量作る。イネやコムギを思い浮かべるとよい。ところが、雑草は目に見えないほど小さな種子を、農作物の何万倍も作り、そこら中にばらまくので、数の上では到底太刀打ちできない。
7.雑草であれ何であれ、植物の種子は、ばらまかれた後土中に残り、休眠することができる。そして、いずれ時季が良くなったときに発芽する。どんな所にもこんな休眠中の種子がたくさん存在しており、それを「埋土種子バンク」と呼ぶ。長年見捨てられていたため池の底の土などにも、こんな埋土種子バンクがあり、そこから何千年も前の植物がよみがえったこともある。問題は、種子がそこで何年休眠し続け、やがて良い時季が来たときに発芽できるかである。
8.雑草という植物は、この種子休眠の戦略においても、他の植物とは異なる。かく乱の多い土地に侵入して繁栄するのが雑草だから当然ではあるが、雑草は、1個体でもさまざまに性質の異なる種子を生産する。それらの種子は、休眠可能な期間も異なれば、発芽の刺激となる条件も異なる。だから、もう根絶したと思っていたらまた、思いも寄らぬ時季に、思いも寄らぬ場所から生えてくる。これが、かく乱に対する適応である。
9.雑草は、茎の形態もさまざまで可塑性が高い。何もなければ真っすぐ上に伸びるが、踏みつけられれば横に伸びる。余裕があれば夏を待って種子をつけるが、そうでなければ、まだ小さいうちに短い茎の先に花を咲かせることもできる。わが家の庭の芝生を見ていると、幅を利かせている主たる雑草の種類は、数十年で変容する。昔はたくさんあったのに、最近はめっきり見ない種類もある。例えば、イヌノフグリ、ハコベ、ミヤコグサなどである。
10.この10年ほどの私の宿敵は、チドメグサ、スズメノヤリ、ニワゼキショウ、チヂミザサである。スズメノヤリは球根があるので、それを根こそぎ取るのだが、花も咲かせるので、種子を散布してもいる。ここ数年の新たな宿敵は、チチコグサとウラジロチチコグサである。10年前には確実に存在しなかった。
11.雑草というと、非科学的な分類のようにも思えるが、「国際雑草科学学会」という学術団体もある。農業や園芸にとって、雑草は重要な負の要因であるので、どうやつて雑草を制御するかが生産性の鍵なので、そのための学会である。しかし、何をしても、私たち動物が植物に打ち勝つことはできない。それは、食物連鎖というものの常識である。植物が十分に繁茂しているからこそ、動物が存在できる。農地だ、庭だと言って、そのエリアでは人間が植物を制御できるなどと考えるのは、思い上がりである。私たちは、この永遠の闘いに、何とか対処するしかない。ウイルスに対する闘いと同じである。
yuji5327 at 06:44