2020年08月07日
イギリスは、民主主義のお手本と考えられてきた。総選挙で保守党のジョンソンが勝利したのは、2016年からの政治の迷走で、ブレグジット疲れが広まっていたことである。
「池上彰著:知らないと恥をかく世界の大問題11、KADOKAWA 2020.6.103」
は参考になる。「第2章 イギリスEU離脱、欧州の分断と巻き返し? 」の印象に残った部分の概要の続きを自分なりに補足して自分のコメントもカッコ内に付記して纏めると以下のようになる。
1.イギリスにはいまだEUへの復帰を望む声もあり、国のあり方を巡ってどう折り合いをつけるのか難しい課題が残されている。ちなみにラグビーは、北アイルランドとアイルランドの国民を結びつける唯一のスポーツである。ラグビーはサッカーと違って北アイルランドもアイルランドと一緒にーつのチームとしてプレイする。世界ランクは第4位(2020年3月25日現在)。2019年のワールドカップで、その強豪アイルランドに勝利した日本代表チームは、初のベスト8に進出し世界を驚かせた。このとき統一アイルランドチームの旗はアイルランド国旗ではなくチーム専用の旗で、国歌ではなく統一アイルランドの歌を歌っていた。
2.イギリスという国は、「民主主義のお手本」と考えられてきた。総選挙で保守党のジョンソンが勝利したのは、2016年の国民投票から3年にわたる政治の迷走で、「ブレグジット疲れ」が広まっていたことが大きい。イギリス国民はこの議論に嫌気がさし「早くケリをつけて前に進もう」と明確な方針を出したジョンソンを支持した。これに対し労働党のジェレミー・コービン党首は「自分が政権をとったらもう一度、国民投票をする」と表明した。これでは、「ブレグジット疲れ」をしている国民は、「もう一度国民投票して結論を先延ばしにするのか」とウンザリした。これが労働党の敗因である。
4.コービンが、もし労働党の中にいた離脱賛成派を追い出し、「われわれはEUに留まる」と鮮明にしていれば、かなりいい勝負になったはずだ。コービンが党をまとめきれなかったのが最大の敗因である。コービンは敗北の責任を取って退陣。後任に下院議員のキア・スターマー氏(57)が選ばれた。
5.イギリスの主要政党は「保守党」と「労働党」である。それぞれどんな党なのか。たとえば"歴史上最も偉大なイギリス人"といわれるウィンストン・チャーチルは保守党だった。アメリカを巻き込みノルマンディー上陸作戦を成功させ、第2次世界大戦でイギリスを勝利に導いたが、その勝利のすぐあとの選挙で大敗した。1945年5月ドイツの降伏後、同年7月の総選挙では、労働党のクレメント・アトリーが保守党のチャーチルに圧勝した。イギリス国民にしてみれば、戦争に勝つためにはチャーチルが必要だったが、平和なときはチャーチルはいらないと判断した。政権交代した結果、アトリー政権でいわゆる「ゆりかごから墓場まで」といわれる手厚い社会保障が実現した。
6.医療費の無料化、雇用保険、公営住宅の建設など、社会主義的な政策でイギリスは福祉大国になった。日本は戦後、これをモデルにしている。しかし福祉先進国は、経済停滞を生み、やがて「イギリス病」とか「ヨーロッパの病人」とか呼ばれるようになった。基幹産業の国有化などで非効率になり、国際競争力を失ってしまった。たとえば国鉄が蒸気機関車から電気機関車に移行した後も、火室に石炭をくべていた機関助士が電気機関車に乗っていた。ただ乗るだけで定年退職するまで給料をもらえた。労働党は社会保障を充実させ平等な社会にはなったが、結果的に経済が停滞し、イギリスに閉塞感が出てきてしまった。
7.この状況を打破しなければと、やがて選挙で大勝利したのが、"鉄の女"マーガレット・サッチャーである。保守党のサッチャー首相は次々と構造改革を実現し、イギリス経よみがえらせた。今回のコービンの労働党は、このとき保守党に負けて以来の大敗北である。サッチャーは規制緩和を進め、金融政策ではマネタリズム(アメリカのミルトン・ブリードマンが中心となって提唱した経済学)を採用、国営企業の民営化に着手した。いわゆる小さな政府「新自由主義」である。
8.映面『マーガレット・サッチャー、鉄の女の涙』(2011年製作)では、彼女は「ミルク泥棒」と椰楡された。それまでイギリスの小学校では学校給食で牛乳が出ていたが、サッチャーが「なぜ牛乳まで出す必要があるの、そんなの自己責任で」と、給食のミルク代を保護者負担にしろと要求した。学校給食から牛乳がなくなり、サッチャーにひっかけてミルク泥棒と非難された。また、ビッグバン政策(証券市場改革)による大幅な金融規制緩和を進めた結果、地元イギリスの金融機関が海外金融機関との競争に敗れて外資系企業ばかりになり、この現象は「ウィンブルドン現象」と呼ばれた。イギリスのウィンブルドンで開催されているテニスの大会なのに、活躍するのは外国人選手ばかりという状況になぞらえた。
9.また、水道、電気、ガス、通信、鉄道、航空などの国営事業の民営化を推進。炭鉱労働者がストライキをしたら徹底的に戦って組合を潰していった。その結果、確かに経済は立ち直ったが、格差が広がってしまった。同じころ、アメリカでは共和党のロナルド・レーガン大統領が、日本では自民党の中曽根康弘首相が政権を握り、サッチャー同様の新自由主義を進めた。